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ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

マイナス・ゼロ

2022年05月27日 | 本を読んだで

 広瀬正        河出書房新社

 和製タイムトラベル作品をどれか1作を、と聞かれればこの作品を推すSFもんは多いだろう。タイムトラベルものといえばいろんな作品があるが、時間を行ったり来たり、過去のこいつが年とって、未来のあいつになっていたり、過去のあの出来事が、実は未来にこういう影響が出てたり、と、ボーと読ん行けば、頭が混乱することもある。特に登場人物が多い場合は、小生のごときアホ頭ではこんがらがるのである。
 本作はそういう心配なく読める。登場人物は限定されていて、物語の主眼は時間のまか不思議よりも、昭和初期の風景風俗の面白さが目を引く。だから時間モノが苦手な人でも楽しめるSFである。

牙城を撃て

2022年05月18日 | 本を読んだで
西村寿行     徳間書店

「復讐」それは西村寿行作品の重要なテーマだ。「右のほほを打たれたら左のほほを出さ」なんてことをいう人物は寿行作品には出てこない。右のほほを打たれたら急所を打って殺すのである。
 贈賄事件の容疑者を追った刑事三影は、南アルプスの山中に踏み込んだ。そこには広大な秘密麻薬栽培農場があった。そこを管理するヤクザに捕らわれた三影はひどいめにあわされる。そこには山で行方不明になった夫を探しに来た純子もいた。彼女の夫もここに拉致されていた。
 この秘密農場には三影や純子以外にも何人かの男女が拉致されているが、彼彼女らはヤクザどもの奴隷となっていた。
 三影や純子たちはヤクザに人間扱いされてない。むちゃむちゃひどい目にあわれるのだが、このあたりの描写は寿行の面目躍如。こってりたっぷり残酷嗜虐阿鼻叫喚のシーンがえんえんとつづく。下手な作家だったら、かような場面は辟易するだけだが、さすが寿行、ここまでくると「聖」さえ感じさせる。
 三影もただもんではない。ひどいめにあわされても絶対に人間としての矜持を失わなかった。なんとして奴らに報復する。こうして三影と純子は巨悪と対決するのである。
 ある意味、寿行作品群を山脈に例えると、一つの山頂ともいえる作品である。

小説伊勢物語 業平

2022年04月29日 | 本を読んだで

高樹のぶ子      日本経済新聞出版

 ワシは神戸は東灘の住民や。少し東に行くと芦屋川がある。その芦屋川にかかる国道2号線の橋を業平橋という。この小説の主人公在原業平の屋敷がこのあたりにあったとか。
 上方落語ファンの小生にとって、在原業平といえば「ちはやふる かみよもきかず たつたがわ からくれないに みずくくるとは」という歌の作者という認識しかない。竜田川という相撲取りがちはやという太夫に惚れて相撲取りをやめて故郷の奈良で豆腐屋をやる。という解釈以外に竜田川に流れる紅葉の美さを詠んだという解釈があるから、いつ業平が奈良へ行くんやろと思って読んでいたが、伊勢には行くがいっこうに奈良へは行かない。これ、ほんまは業平は屏風の絵を見て詠んだ歌やねんて。初めて知ったわ。
 ワシは日本の古典はなじみがのうて「伊勢物語」は読んだことがない。在原業平が主人公の歌物語で、時系列がバラバラで読んでもよう判らんらしい。で、高樹さんがそれを整理して現代人でも判りやすく読める小説にしたのが本書だ。
 確かに読みやすいうえに、独特のですます調の文章で平安朝の雅な雰囲気がよく出ていた。もちろん業平の歌をはじめ業平以外の歌人の歌もでてくるが、その歌の解釈の文章が、古典の教科書的ではなく、自然に小説の流れを止めずに記述されている。高樹のぶ子さんはさすがに手練れの文章家だ。

プロジェクト・ヘイル・メアリー

2022年04月27日 | 本を読んだで

アンディ・ウィアー     小野田和子訳   早川書房

 太陽の熱を吸い取る微生物が太陽系にまん延している。このままでは数年後に太陽の熱は大幅に減少して氷河期が到来する。人類は壊滅的な被害を受けることは確実。どうもその微生物アストロファージは近隣の恒星系にもまん延しているらしい。これはえらいこっちゃ。どないかせなあかん。と、いう話しである。
 で、たった一人でどないかせなあかん羽目になったのが、中学の先生グレース博士。なんで中学の先生が人類の救世主になったのか。先生にはどんな能力があんのか。ともかくアストロファージなるやっかいなもんを、どないかせなあかん。今のコロナまん延は地球上だけの話しやけど、これは太陽系のみならず銀河系にまでおよぶ感染症である。そないな感染症をどうして終束させるのか。ここでなにを書いてもネタバレになるので書けん。
 少しだけネタバレしてみよう。グレース先生は宇宙船ヘイル・メアリー号で人類を救う恒星間航行に出立したんやが、他の乗組員二人は死んでしもて、先生一人生き残った。で、下巻になって先生に実に頼もしい相棒ができる。その相棒とは?中学で機嫌よく生徒たちに科学を教えとった先生を宇宙へ送り込んだのは、ストラットというおばさん。このおばさん、ものすごく有能で強引だけど妙な魅力がある。
 そしてヘイル・メアリー号の最後の切り札がビートルズ。ポール、ジョン、リンゴ、ジョージ。この4人?が人類を救う。

鷲は舞い降りた

2022年04月01日 | 本を読んだで

ジャック・ヒギンス    菊池光訳 早川書房

 戦後、イギリスのとある寒村に一人の作家がいた。墓がある。その墓にはクルト・シュタイナ中佐たちドイツ落下傘部隊13名が眠っている。なぜイギリスの寒村にドイツ兵の墓が?その作家の名はジャック・ヒギンス。
 その数年前、まだ戦争は終わっていなかった。ナチス親衛隊長官ハインリッヒ・ヒムラーは連絡文を受け取った。それにはこう書いてあった。「鷲は舞い降りた」
 山中に幽閉されていたムッソリーニをドイツの特殊部隊が救出した。盟友の救出に気を良くしたヒトラーは冗談みたいな作戦を思いつく。
 14才のユダヤ人少女がゲシュタポの将校に虐待されている。通りかかったクルト・シュタイナ中佐がいう。「恥を知れ」ゲシュタポから少女を救う。ナチスの中佐がユダヤ人を助ける。本来なら銃殺だが、極めて有能な将校で、勲章ももらっている勇士を殺すわけにはいかない。戦死してくれたら都合がいい。魚雷にまたがって敵艦を攻撃する任務に従事している。
 ヒムラーはヒトラーの冗談をまにうけて、本気で実現しようとする。実務を片目片腕で戦傷のため先が長くないマックス・ラードル中佐に命じた。ラードル中佐が実行部隊のリーダーに選んだのがシュタイナ中佐。
 イギリスの首相ウィストン・チャーチルがノーフォークの寒村スタドリ・コンスタブルに静養に来る。ナチスドイツの仇敵チャーチルを誘拐せよ。それがヒトラーの命令だ。
 主人公のシュタイナ中佐はもちろん、みんな魅力的。ノーフォークの「草」となってドイツに情報を送る女スパイジョウアナ・グレイ。スタドリ・コンスタブルに先乗りして事前工作を行うIRAの戦士リーアム・デブリン。デブリンが惚れる現地の少女モリイ・プライア。シュタイナ中佐の忠実な副官リタァ・ノイマン中尉。そしてドイツ落下傘部隊の隊員たち。部隊を現地に輸送するDC3ダコタを操縦するペイタ・ゲーリケ大尉。現地で訓練中のアメリカ奇襲部隊のハリイ・ケイン少佐。みんな魅力的。みんないい。でも、小生が一番好きな登場人物はラードル中佐。中間管理職である。社長ヒトラーの思いつきを専務ヒムラーが半分べんちゃらで実現しようとして課長ラードルに実行を命じる。重役たちの無理難題を実行部隊に伝達する。病身の身ながら、さんざん苦労してなんとか「鷲を舞い降ろした」中間管理職の悲哀が哀しい。

SFマガジン2022年4月号

2022年03月31日 | 本を読んだで
2022年4月号 №750     早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター
1位 断         木原音瀬
2位 二人しかいない    小川一水
3位 BL          一穂ミチ
4位 風が吹く日を待っている 琴柱遥
5位 男性指数       オン・オウォモイエラ 赤尾秀子訳
6位 分離         サム・J・ミラー   中村融訳
7位 ロボット・ファンダム ヴィナ・ジエミン・プラサド 佐田千織訳
8位 凡庸人間は安心しない  上遠野浩平

特集 BLとSF

連載
新連載 戦後初期日本SF・女性小説家たちの足跡
第1回 光波燿子、安岡由紀子、美苑ふう―「宇宙塵」の熱き時代(前編) 伴名練
さやかに星はきらめき(第2回)   村山早紀
空の園丁 廃園の天使Ⅲ(第13回)  飛浩隆
マルドゥック・アノニマス(第41回) 冲方丁
幻視百景(第36回)         酉島伝法

 2月号のレビューでワシはこんなことをいった。アホかいなと思った企画をこうしてほんまにやった4月号を読了した。
 こりゃワシの認識不足を詫びなあかん。BL特集、なかなかけっこうな企画であった。今号はなかなか読みごたえのあった号であったぞ。
 百合。女と女の関係。そしてBL。薔薇ともいうかな。男と男の関係。この百合と薔薇。二つそろって新たなSFのモチーフが創出できる可能性があることが判った。女×女=男×男。それは単純にレズだゲイだといった、セックスの面だけにとらわれた一元的な側面ではなく、女×男といった組み合わせでは表現できない、全く新しい人間と人間の関係が表現できることを示唆した。そしてこれはSFだからこそ可能な表現方法ではないか。女あるいは男を人間個人として表現し、その関係をもとにストーリーを紡ぎあげる文芸はいままであまたある。ところが人間個人を一個の生き物として、あるいはもっとマクロに人類としてとらえて表現できるのはSF以外にはない。ジェンダーなど眼中にないまったく新しい人間と人間の関係を創出できる可能性をSFに含ませたといえよう。
人気カウンターの上位にあげた諸作は、男と男という牲にとらわれない内容の作品で、上記に記したような可能性を見られる。
話しは変わるが、楽しみな連載が始まった。伴名練の連載である。光波燿子。お会いしたことはもちろん、作品を読んだこともないが、筆者(雫石)も宇宙塵の会員であったから、お名前は存じ上げていた。筆者よりうんと若い伴名であるが、たんねんに取材し資料をあたって光波のことを書いてある。なるほど。光波燿子が、その後もSFを書き続けていれば、日本初の女性ハードSF作家が誕生していたわけだ。光波がなぜSFを書かなくなったのか。理由も書いてある。日本のSF作家というと、星新一、小松左京、眉村卓、筒井康隆、光瀬龍といった男性作家ばかりが取り上げられるが、戦後の早い時期からSFを書いていた女性作家もいたのである。 

見栄講座 その戦略と展開

2022年03月16日 | 本を読んだで

ホイチョイ・プロダクション     小学館

 昭和58年の本である。1983年だ。あの虚飾の時代、バブルにさしかかろうという年の本だ。
 ひと口でいって「ええかっこしい」指南書である。なぜええかっこするか。女の子にもてたいためである。でも、かような若いのは軽薄で根性なしだから、地道な努力を重ねてええかっこすることはできない。いかに楽してええかっこするかが書いてある本だ。
 例えばテニスとスキーだ。上手けりゃ女の子にもてる。いかにかようなスポーツの上級者に見せるか。どんな用具を持てばいいか。ラケットやスキーを持つにはお金はかかるが、別にしんどいことはしなくてもいい。
 軽井沢と湘南。おしゃれでセレブな土地である。ここの地元民であるなら、わ、かっこええな。と、女の子にもてるのである。でも、ぼくは埼玉から遊びにきてるだけ。では、いかにすれば埼玉県民が軽井沢や湘南の地元民に見えるか。
 テニス、スキー、フランス料理、海外旅行、オートバイ、キャリアウーマン、軽井沢、湘南、シティボーイ、これだけの項目の見栄の張り方が書いてる。で、
 最近はコロナ禍で満足に行われなくなったが、SFの関係のイベントは多い。世界的には世界SF大会。国内では日本SF大会がその代表かな。そのようなイベントに行って、いっちょうまえのSFもんと思われるにはどうすればいいか。
 まず「宇宙英雄ペリー・ローダン」シリーズを読んでもいいが、それを人に知られてはダメ。ペリー・ローダンファンは「まるぺ」といわれてバカにされる。    
女の子が「夏への扉」や「アルジャーノンに花束を」を読んでるといえば、おー初心者、おじさんがいろいろ教えてあげよう。と肥満体のオタクが寄って来るかもしれないので気をつけよう。で、どんなSFを読んでれば、おーいっちょ前のSFもんとみとめられるか。海外なら、R・A・ラファティ、グレッグ・イーガンなど。国産なら円城塔、酉島伝法、飛浩隆なんかを読んでるふりをすればいい。

息吹

2022年03月09日 | 本を読んだで


テッド・チャン      大森望訳         早川書房

 SFかなSFかな。この本の値は1900円なり。小せえ、小せえ。この雫石の目からは、値万両万々両。
 SFのネタのアイデアつきるとも。や、なんと。チャンにSFのタネはつきまじ。SFファンにご報謝を。
 テッド・チャンはミダス王である。チャンの触れるモノすべてがSFになる。

 星群の会ホームページ連載の「SFマガジン思い出帳第」が更新されました。どうぞご覧になってください。


スペースオペラの書き方

2022年03月08日 | 本を読んだで

 野田昌宏              早川書房

 ワシがSFもんとなって半世紀近くの時間が経った。思えばずいぶん長くSFを愛好してるもんだ。他のジャンルの文芸は知らぬが、SFもんが罹る独特の病がある。その病の初期の主たる症状は手のけいれんである。そしてその手でペンを握って、あるいはパソコンのキーボードをたたいて、小説を書きたくなる病である。小生もその病に罹患しており、実に困ったもんである。
 著者はアメリカ産のスペースオペラなる実に楽しいもんを日本に紹介し根付かせた大先達であり大功労者だ。わが国でスペースオペラのことが、一番判っている人である。そして、また、野田さんは日本SFファンダムのごく初期から活動していたBNFだ。SFもんの代表選手みたいな人であり、SFもんとはいかなる人種かよおく判っている人だ。
 スペースオペラとはいかなるモノかだれよりも知っている。それに加えてSFもんを知り尽くした野田さんが、かような本を書かれたことは極めて自然なことだろう。この本はスペースオペラの面白さ醍醐味を伝える伝道の書であり、SFもんの病をいやすいやしの書でもあるのだ。

宇宙船ビーグル号の冒険

2022年02月09日 | 本を読んだで


A・E・ヴァン・ヴォ―クト   沼沢洽治訳 東京創元社

 SFもんの必須図書ともいうべき1冊である。SFもんの大好きなもん二つ。宇宙船とベム。果てしない宇宙を飛ぶ科学の粋を集めた巨大な宇宙船。未知の宇宙には人類が観たこともない脅威のばけもんがひそんでいる。と、いうことにワクワクしてSFへの道に足を踏み入れたSFもんも多かろう。小生もそうである。
 1000人の科学者と軍人を乗せた宇宙船ビーグル号。そのビーグル号に次々と襲いかかる宇宙のばけもん。ビーグル号の科学者たちはそれぞれの専門分野の知識を総動員してばけもんに対峙する。
 4種のばけもんが出てくる。凶暴で狡知にたけた化け猫ケアル。テレパシーで人間の精神を攻撃してくるリーム人。宇宙空間でも生存でき人間に卵を産みつける緋色の怪物イクストル。銀河サイズの不定形生物アナビス。これら
ばけもんとの戦いと並行して、ビーグル号内部の科学者間の覇権争い描かれる。主人公は総合科学部長エリオット・グローブナー。新しい部門の部長で若いから、旧来の部門から疎まれる。特に化学部長グレゴリー・ケントからはバカにされ、感情的に対立する。グローブナーの味方は日本人考古学者苅田。不思議なことに女性は一人も乗ってない。性欲は薬でコントロールしているらしい。
 この本を読んで面白くなかったらSFもんをやめた方がいい。

SFマガジン2022年2月号

2022年01月25日 | 本を読んだで

2022年2月号 №749 早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター
1位 宇宙ラーメン鉄麺皮    柞刈湯葉
2位 ショッピング・エクスプロージョン 天沢時生
3位 絶滅の作法            柴田勝家
4位 発明の母 ンネディ・オコラフォー 月岡小穂訳
5位 レギュラー・デイズ        麦原遼
6位 〈不死なるレーニン〉の肖像を描いた女 坂永雄一
7位 聖痕人間は自覚しない         上遠野浩平

連載
さやかに星はきらめき             村山早紀
戦略的な休日 戦闘妖精・雪風 第4部最終話   神林長平
マルドゥック・アノニマス(第40回)       冲方丁
空の園丁 廃園の天使(第12回)         飛浩隆
幻視百景(第35回)               酉島伝法

特集 未来の文芸

巻頭でいきなりお詫び。新米作家の樋口某が企画した絶版本をかってに想像する企画が中止となった。この企画がネットに流れ、批判を受けた。それのお詫び。いやしくも創作活動に携わっている者なら、かような 企画はダメなのは判りそうだと思うが。この樋口某もその企画に一時は乗ったSFマガジン編集部はこと文芸に携わるものとしていかがなものかと思うしだい。ここにあらためて叱りおく。
 で、今号の特集「未来の文芸」期待外れもはなはだしい。この特集企画、読み切り短編とエッセイを並べただけ。
「文芸」文字が連なって意味を持たせたものを「文」とするのなら、その文を連ねてなんらかの表現活動を「文芸」と定義するのなら、「未来の文芸」とするのなら、小説、エッセイ、詩、といった従来の「文芸」とは全く違う「文芸」を模索して欲しかった。文字を連ねて行う今までになかった「文芸」を提案すべきである。
 最終ページの次号予告をみてびっくり。BL特集だと。ボーイズラブのことだと思うが。ほんまかいな。百合特集が当たったので薔薇特集かいな。ワシはこんなことをいったが、あれは冗談。ワシの冗談をまにうけてアホかいな。
 ところで1980年11月号の編集後記でヒューゴー賞ネビュラ賞特集について、「SFマガジンからこの特集が消えることはありません。(ヒューゴー賞やネビュラ賞が中止となったら話は別ですが)ヒューゴー賞ネビュラ賞が中止となったとは聞かない。最近、SFマガジンはこの特集をしない。1980年11月号でいったのはウソだったのか。 
     

へうげもの

2022年01月17日 | 本を読んだで

 山田芳裕      講談社
 
「クリエイティブとは何か」これが、この漫画のテーマではないか。主人公古田織部は武人である。武人=戦う人。武人はなにも創造しない。敵と戦い破壊するのが仕事だ。ところが古田は武人であると同時に数寄者。茶をたて、茶器を愛でる。植物の葉を乾燥せて粉にしたモノを湯でといで飲む。粘土をこねて器にする。即物的に記するとそういうことだ。ところが数寄者はそれに深い精神性を見いだし、そこに美を見いだす。そのままで、たんなる植物の葉っぱであり、土くれだ。そこに美はない。それに美を付与するということは、数寄者とは、美を創造する者=クリエイターといっていいだろう。この漫画の主人公古田織部は偉大なクリエイターである。
 古田は一人の師と三人の雇用主に仕えた。師は千利休である。古田は師利休とは少し違う「美」を見つけた。信長、秀吉、家康と三人の雇用主に仕えたが、秀吉からは師利休とは違う美を教わった。そして最後の雇用主家康は、利休や古田ら数寄者とは正反対の価値観を持っていた。古田は数寄者=クリエイターである。家康は実務家である。これは、ちょうど大阪に橋下知事が誕生して維新の会が大阪を支配して、ワッハ上方の廃止や文楽等古典芸能への補助金打ち切りなど「文化」に使うお金を大幅に削減した。秀吉から家康に支配者が変わったのと同様といっていいだろう。だから、大阪に維新の会が出現したということは、第二次大阪夏の陣ともいえる。
 そういう家康から古田は切腹を命じられる。物語は想像の余地を残して終わる。豊臣秀頼と古田織部は生きているかもしれない。
 出色の歴史漫画であった。

師弟 笑福亭鶴瓶からもらった言葉  

2022年01月14日 | 本を読んだで
 
笑福亭銀瓶        西日本出版社

 笑福亭鶴瓶師匠。小生の認識では落語家ではなく、落語もやるタレント。普通の人よりも生の落語を観賞することが多い小生だが、鶴瓶師匠の生の落語はあまり聞く機会はない。とはいいつつも、この時は「宮戸川」と「子はかすがい」をやらはった。うまかった。認識を改めた。とくに「子はかすがい」は良かった。この噺を得意とする人情噺の名人桂福団治師匠や桂ざこば師匠に負けてない。
 その鶴瓶師匠、弟子を育てるのもうまいらしく、鶴瓶門下にはうまい落語家が多い。その中でもこの本の著者笑福亭銀瓶さんはうまい落語家さんだ。その銀瓶さんの自伝である。落語家には筆の立つ人が多い。先代桂歌之助師匠や笑福亭松枝師匠は本を出版しているし、桂文珍師匠は新聞でコラムを連載している、銀瓶さん文章はうまく、この本はたいへんに読みやすかった。
 銀瓶さんは今は帰化してるが、在日三世の元韓国人である。そのことが彼を落語家として大きく成長させる要因となった。高校生のころ自分が韓国人であることを意識した。韓国人であるのに韓国語ができないことの大きな違和感を覚えた。鶴瓶門下に入門してから韓国語を猛然と勉強した。そして、落語家としてごく自然な流れとして、韓国語で落語をやりたい。師匠鶴瓶の賛成を得、先代笑福亭松喬師匠や桂雀々師匠、内海英華姐さんの教え応援を得て韓国語落語をマスターした。韓国で韓国人相手に韓国語で「動物園」を口演したのである。
 師匠笑福亭鶴瓶は、銀瓶さんのいうことは、まず反対しない。「おもろいやん。やったらええで」のびのびと弟子を育てる師匠である。テレビで見るとあんな人だが、弟子想いのたいへんに良い師匠であることがよく判った。

2021年に読んだ本ベスト5

2022年01月10日 | 本を読んだで
 グチを書く。馬齢を重ねるにつれ本を読むスピードが落ちてくる。困ったもんだ。ワシはSFマガジンをいまだに読んでいる。ワシの周辺のSFともだちは、「SFマガジンはもう見捨てた」というご仁もおるが、ワシはまだ見捨てておらん。早川に定期購読を申し込んでおって、いまだに新刊がでると惰性で読んでおる。編集長が替わったので良く変わってくれればいいがと期待はしておる。こうなりゃ、廃刊になるまでつきあうつもり。
 SFマガジンは星群の会ホームページで「SFマガジン思い出帳」を連載しているから、古いのを月に1冊を読んでおる。SFマガジンを隔月で月に2冊読むので単行本を読む量が少ない。もうこんなトシなんで、クラーク、ハインライン、アシモフ、ブラッドベリといったSFの名作、マクリーン、ライアル、イネス、などの冒険小説の名作も読み返したいのだが・・・。
 そんなことを思いつつ読んだ2021年の本ベスト5は以下のごとくだ。順不同。

三体Ⅱ 黒暗森林
 人類をはるかに超える「敵」がやってくる。対策を考えるのは4人の面壁者。

神戸・続神戸
 めくるめく超絶面白神戸小説。

真剣師
 めちゃくちゃ将棋が強く、めちゃくちゃなクズ男。

三体Ⅲ 死神永生
 壮大なホラ話、幕を閉じる。SFの面白さ満喫。

機龍警察 白骨街道
 特捜部突入班の3人、動乱のミャンマーに行く。それは現代のインパール作戦。
 
 

夕焼けの回転木馬

2022年01月04日 | 本を読んだで
眉村卓            黒田藩プレス

 そうか、今年の11月で眉村さんとお別れして3年だ。眉村さんには50年近くご厚誼を賜ってきた。あらためて眉村さんの作品を読んで偲びたいと思って、本棚から選んだのがこの本。ご葬儀で喪主を務められた村上知子さんにご恵送いただいた愛蔵版だ。
 眉村SF(サイエンス・フィクション)の代表的な作品が、「消滅の光輪」をはじめとする司政官シリーズなら、眉村SF(私ファンタジー)の代表的な作品は本作ではないだろうか。
 主人公は二人。若い村上と中年の中原。二人は作品の序盤、居酒屋で接触。その後、村上と中原のストーリーが並行してすする。途中で交わることはない。
 村上(著者の本名)は、後悔することがあると、その出来事の前にタイムスリップする。イヤな上司を殴る。退職するかあやまるか。彼は作家志望。作品の雑誌掲載も決まり、原稿が売れ始めたところ。
 50歳の中原は大阪支社長で取締役。会社ではいちおう出世している。彼は少年時代にタイムスリップ。戦前の国民学校。村上はイヤな上司だったが、中原はイヤな教師。せっかくクラスの級長になったのに罷免されてしまう。
 タイムスリップや並行世界というSFの方言を、違和感なく私小説(だと思う)に採りこんでいるのは、眉村さんならではの表現力だ。