楕円と円 By I.SATO

人生も自転車も下りが最高!
気の向くままに日常と趣味の自転車旅を綴ります。

73才十勝岳自転車登山 - 「吹上温泉」の句碑 -

2022年10月10日 | 『私の自転車旅物語』

 

十勝岳の標高1,000mの地点に登山のベースともなっている「白銀荘」(吹上温泉)があり、隣接するキャンプ場の目立たない場所に古い句碑が建っている。

2020年8月の十勝岳自転車登山でキャンプした時に見つけた。

当時、資料を読んで、俳人長谷川零餘子(むかご)が冬の「吹上温泉」まで馬橇で登った時に詠んだ一句であることを知った。

 

       - 鬼欅の中の温泉に来ぬ橇の旅 

                         長谷川零餘子 -

 

再度、資料を読んでみた。

 

零餘子は群馬県に生まれ、苦学して東京帝大で薬学を学ぶが俳句界でも頭角を現わしていた。

卒業後、一年にも満たない時期に高浜虚子から「二兎を追うものは一兎を得ず」の意味を教えられ、俳句の道に生きることを決心する。

 

俳句のことは知らないが、零餘子は「物はみな立体の分子で成り立っているが人間の眼は不完全で物は立体に見えない。それ故、物を心眼で見なければならぬ。」と『立体俳句』を提唱した。

理論的にものごとを考える理系の人柄を感じる。

後に写実の「ホトトギス」と対抗する俳誌「枯野」を創刊主宰し、大正時代から昭和初期の日本、そして北海道の俳句界に多大の影響と足跡を残したとある。

 

零餘子は冬の北海道を馬橇で旅をしたかったらしいが想像するような牧歌的なものではなく、上富良野駅から猛吹雪の中、12時間をかけて夜中の11時にやっと吹上温泉に辿り着いている。

馬橇の馭者の述懐によれば、猛吹雪の中、馬も体からもうもうと汗を出し、十メートル進んでは休み、又進むというまさに〝難行苦行〟だったらしい。

あの坂を・・・。

 

俳壇関係者は北海道の冬の大自然の景観を味う事ができるのは十勝岳と思いついたらしいが、吹雪の十勝岳を登る零餘子一行と馬の姿に困難な道を拓き進む姿が溢れている。

 

句碑は、十勝岳を霊山にしようと数々の努力と苦労を重ていて、零餘子の馬橇登山を思いついた旭川の聞信寺先代住職によって大正13年に建立された。

永年の風雪でいつのまにか倒れ土砂の中に埋もれ、終戦後も町民や俳人からも忘れ去られていたが、昭和四十二年に上富良野町と上富良野町観光協会によって鮮やかに蘇がえったとある。

 

先日、十勝岳の「吹上温泉」から降りてきて2022年の自転車旅はひとまず終わった。

標高1,000m、19Kmを登りは4時間20分、下りはあっという間の30分だ。

今、零餘子の資料を再度読み返して、「吹上温泉」の物語のひとつが余韻として残った。

 

「喰うものに パン二つあり 橇の旅」という句もある。

次はいつか。

 

《2020年8月撮影》

 

上の浴槽は源泉が流れ込み、沢水は殆ど入れないので48℃。熱いと言うより痛い。

透明で油のような質感がある。

下は温度調整している。

 

自然に抱かれ、脱衣場も無く混浴という露天風呂の原型がある。

将来、冬に訪ねてみたくなった。

 


73才十勝岳自転車登山 - ライダーハウス 『ヒグマ』 -

2022年10月06日 | 『私の自転車旅物語』

 

 

上富良野町の自衛隊駐屯地の裏にライダークラブ『ヒグマ』がある。

錆びた金属類が無造作に置かれた敷地に古い納屋とともに建っている。

 

十勝岳「吹き上げ露天風呂」への自転車登山の行き帰りにいつも通りかかり、一度は泊まってみたいと思っていたが、看板に「家族旅行歓迎」等々あるものの、中に入るにはなかなか勇気のいる構えであった。

 

どんな〝ヒグマ親爺〟がいるのだろう。

いつもは近くの「日の出公園」でキャンプをするが、朝夕の気温も下がってきたので今回泊まってみることにした。

 

木造平屋の家の玄関には、「耳が遠いので大声で呼んでください。」との張り紙があり、そのとおりにする。

やや暫くして、後で聞くと80才というKさんが現れた。

 

家の中に招き入れて貰うと几帳面な性格らしく、部屋は綺麗に片付き、暖かい。

「部屋での飲酒、大声の歓談は禁止」など、旅人への注意書きが何枚も。

 

 

壁に古い写真が数枚貼られていた。

立ってよく見ると子熊を抱いたKさんの隣に若かりし黒柳徹子女史の姿が。

 

そして、小さい頃に育った山里の熊撃ち名人Mさんが仕留めた羆を馬車に積んで引き上げる後をついて行って見ていた羆の解体写真も。

毛皮を剥がされた胴体は脂肪で真っ白だ。

 

ソファに座り直すとKさんが作業服を手にして「立って」と言う。

そしてすっぽりと被せられて別の所へと連れられて行く。

不安が過ぎる。

 

間もなく隣の部屋の戸が開けられたと思しきその瞬間、作業服が取り払われて眼前には大な羆の顔が!

 

 

悲鳴、そして大笑い。

Kさんは気難しそうでなかなか茶目っ気のある人とみた。

そこは剥製部屋、全て手製という。

 

見事な夏毛である。

金太郎のように跨がらせられたがつるつるしていて滑り落ちそうになる。

 

うち解けて居間でいろいろな話しになった。

豚を飼ったり、タイヤ販売業などをしながら23才から熊撃ちをしていたが身体が不自由になって3年前に辞めたという。

奥さんを十数年前に亡くされ、一人暮らしだが最近は近所に住む娘さんが食事を届けてくれたりしているそうで安心そうだった。

 

 

最近、ニュースで羆の目撃情報が多い。

出会ったらどうすれば良いのか。

 

「絶対に目を合わせないこと。」

「知らない振りをして動かないこと。」

「立ち去るのをじっと待つこと。」

 

語る眼差しは臨場感に溢れていた。

 

 

エッセイに Kさん登場(1982年)     加藤紘一氏の為書き

 

多くの著名人が訪ねていて、Kさんは「皆さん泊まって行った。」と懐かしそうな顔をした。

 

この日は貸し切り。

時々見せる精悍さとすっかり好々爺の〝ヒグマ親爺〟に会えてぐっすり寝た。

 

 

 


73才十勝岳自転車登山 -街道を行く-

2022年10月05日 | 『私の自転車旅物語』

百名山の十勝岳(標高2,077m)に一度だけ高校生の時に登山した。

頂上に近づくにつれて視界が悪くなり、引率のT先生の「引き返す」のひと言にメンバーの5人がぶつぶつ言いながら下山した。今、先生の正しい判断に感謝している。

 

標高1,000地点に登山口があり、傍にベースとなる白銀荘とキャンプ場が隣り合っている。

そこから7~8分歩いた沢に混浴で脱衣場も無い〝完璧な〟露天風呂の「吹き上げ温泉」がある。

 

二つの浴槽があり、源泉48℃の超高温の浴槽は主に地元の「常連さん」がアツイというより痛みに近い湯にどっぷりと浸かっている。

最初は10秒ほど入ってすぐに出て、かけ湯を繰り返しながら少しずつお湯に入る時間を延ばしてゆくのだそうだ。

 

もうひとつ、沢水で温度調整した「一般向け」の浴槽がある。

こちらはバイクなどの旅行者や地元の女性がTVシーンのように楽しんでいる。

時々、日本文化に触れたくて来たような陽気な外国人に出会う。

 

秘湯を訪ねるのが楽しみで、もう6~7回は自転車で登ってきただろうか。

今回はいつもより温度が低いように思えた。

 

年々、坂道を登る時間は掛かるようになってきたが、楽しみを目的地にしているので続けられているのだと思う。

急傾斜の街道も自転車ならではの達成感で湯に浸かるための誘導路と思えば楽しい。

 

そこで、 -街道スナップ-

 

 

 

札幌駅前バスセンターで「高速ふらの号」を待つ。往復4,720円(予約不要)、2時間30分でJR富良野駅に到着。

自転車を組み立て、17Km先の上富良野町まで走行開始。

 

 

上富良野町のライダーハウス「ヒグマ」に1泊して、白銀荘での自炊夕食用に肉屋に寄って上富良野町のソウル・フードの「豚サガリ(横隔膜)」を買って19Km先へ向かって出発。

「豚サガリ」は内臓肉なので食肉処理施設のある所でしか手に入らない時代があった。

新鮮なサガリをニンニク風味の秘伝のタレに浸けた肉は美味である。

 

 

     

 

10Km付近までは軽いアップダウンのほぼ平坦路が続く。

道路横に姫林檎より小さい山林檎のような木があった。

渋いけれど甘酸っぱく、山ブドウやコクワを採って遊んでいた子供の頃を想い出した。

 

     

 

紅葉が進んでいる。ピーク直前といったところか。

写真を撮りながら、休みながら進む。

 

残り10Km辺りから標識が無く、やや登りがキツくなり始める。

休憩をどんどん入れ、「そのうち着くさ」と気楽に走る。

 

 

  

 

暫く走って、次に出てくる標識は「残り2.9Km」。

ほぼ急勾配は終わって、もうすぐだ。

ここで40分の昼食タイム。

即席の生ハム〝ちくわパン〟。美味い!

 

 

 

100mほどで十勝岳温泉(行き止まり)と白金温泉(層雲峡へ抜ける)の分岐点がある。

直進すると日本最北の温泉「凌雲閣」がある。

露天からの十勝岳の紅葉、雪景色は素晴らしい。

 

今回はここから左折して目的地の「吹き上げ温泉」へ。

バス停と入山記録小屋がある。

残り2Kmは登りと下り。それほどキツクない。

 

 

 

富良野市街地を見下ろせる撮影スポットはあいにく雲がかかって紅葉はよく写らず。

 

 

中央に十勝岳の白い噴煙が僅かに見える

 

 

 

                                美瑛岳か? 

 

4時間20分、到着!!

 

    

 

 


73才十勝岳自転車登山 

2022年10月03日 | 日記

 

今、3日の午前4時。

十勝岳の1000m付近にある「白銀荘」の周りはまだ真っ暗だ。

 

近くにある野趣満点の「吹上げ露店風呂」に入るために自転車登山?をした。

もう7~8回、恒例になった感がある。

 

これから10分ほど歩いて朝風呂だ。

夜が少し明けてきた。

気持ちがいい。

 

 

 

 

 

富良野まではバス輪行し、上富良野で伝説のライダーハウス「ヒグマ」に1泊。

景色を眺めて写真を撮ったり昼食休憩を取ったりして、麓の上富良野から19kmを4時間20分かけて吹上温泉に到着した。

 

 

 

登山のつもりでゆっくりゆっくり、いくら時間をかけてもいいと考えたら73才でも何とかなって、ささやかな喜びを湯と共に味わうことが出来た。

 

この辺りの紅葉はピークの手前か。

白銀荘で同室の登山愛好者の話しではもう少し上が綺麗なようだが、今日はここからダウンヒルだ。

 

下りがサイコー!!