Dr. Mori Without Borders / Mori-san Sans Frontieres

森 一仁が医学・国際政治経済金融・人文教養教育など関心問題を国際的・学際的に考える。

日本の医師免許を持たぬ外国人医師輸入に猛反対

2010-04-02 23:17:01 | 現代国学:政体(政府)・国体・皇統・伝統
2つの記事を読んで頭を抱え込んでしまった。閣僚の発言と政府省庁レベルの医療専門職を巡る取り扱い方にどうも矛盾があるとしか私には思えないのだ。

記事#1:『仙谷由人国家戦略担当相は21日、日本の医師免許を持たない外国の医師でも一定の技術レベルが認められれば日本国内で診療が行えるよう制度改正に乗り出す考えを示した。「外国人の医師は現在、日本の試験を受けないといけない。世界的なレベルの医者に失礼だ。そういうことは取っ払うよう仕掛けたい」と述べた。』

記事#2:『外国人初の看護師合格=経済連携協定で受け入れ-厚労省
 厚生労働省は26日、経済連携協定(EPA)に基づき受け入れたインドネシア人とフィリピン人の計3人が、看護師国家試験に合格したと発表した。EPAで入国した外国人の合格は初めて。同省によると、合格者は三之町病院(新潟県三条市)が受け入れたインドネシア人男女2人と、足利赤十字病院(栃木県足利市)のフィリピン人女性1人。日本とインドネシアは2007年、看護師候補らを受け入れるEPAに署名。08~09年度の入国者は計277人で、各地の病院で研修を受けつつ補助的な業務に就いている。82人が昨年の国家試験を受けたが、合格者はいなかった。フィリピンからもEPAに基づき09年度に93人が来日、今回が初の受験だった。』

単純な違いはこうだ。

①外国人医師は日本の国家試験を受けなくても良いようにとり図ろう。
②外国人看護師は日本の国家試験と同時に日本語試験も受けさせよう。

これを同じ日本の政府がほぼ同じ時期に表明している医療専門職の扱い方への意思表明なのだ。外人医師は無試験にして、外人看護師は有試験で採用しようと言う事にはどんな思想が隠されているのであろうか。また看護師の場合、「日本語の流暢さ」まで問われると言う事はどんな意味があるのか。

これは換言すれば「医師のケアには深い日本語能力を必要としない」と政府筋が自ら謳っているようにすら私には聞こえる。これは別に国家試験とは別枠で受けさせられる看護師向けの日本語試験に限って言っている話ではない。

医学の勉強をしなくても分かる話だが、各国の国家試験は、各国の公用語・共通言語で行われる。例えば日本の医師国家試験は日本語である為に、外国語で医学を勉強をした海外医学部卒業生が日本の医師国家試験を受けようとする場合、全ての医学用語をもう一度日本語で勉強し直す必要がある。

つまり国家試験を受験する事それ自体が、国家試験を受験する国の公用語・共通語に関する深い知識を問う事にも繋がっている訳である。無論、資格試験に過ぎないから文学的教養だの一般社会常識だのは測れないが、しかしながら高度な専門知識を問われている事には間違いなく、この為にかなりの言語能力を要する事は自明であろう。

ここで外人看護師には正規の国家試験の他に日本語の能力を問う試験だのトレーニングが課されていると聞く。看護師にはかなり高い日本語能力が求められているのに対して、医師に対しては日本語能力の有無どころか国家試験まで免除してしまおう等と言うのは、外国人医師が来日して臨床を行う際に「日本語能力は不必要」と言い切っている事に繋がるのである。

ここで記事を一つずつ検討したい。

記事#1:『仙谷由人国家戦略担当相は21日、日本の医師免許を持たない外国の医師でも一定の技術レベルが認められれば日本国内で診療が行えるよう制度改正に乗り出す考えを示した。「外国人の医師は現在、日本の試験を受けないといけない。世界的なレベルの医者に失礼だ。そういうことは取っ払うよう仕掛けたい」と述べた。』

「日本の医師免許を持たない外国の医師でも一定の技術レベルが認められれば」とあるが、第一に技術レベルの測定を誰がどう行うのであろうか。例えば途上国なり情報管理システムが不全の国があるとすれば治療実績数などはいくらでもごまかせるであろう。他医による推薦となれば政治的になるおそれもある。金銭も飛び交いかねない。医学統計学的に治療効果をメタアナリシスしたとしても、現象の数量的把握と質的把握とには差異があるだろう。精神科の場合、例えば精神療法であるとすると治療技術そのものも数量化が不可能である。薬物療法であれば治療効果を設定して統計解析したとして、投薬した用量が少ない方が技術が上なのか、退院数が早い方が技術が上なのか。

次に「外国人の医師は現在、日本の試験を受けないといけない。世界的なレベルの医者に失礼だ。」と言う発言に関しては単純に「日本の患者に失礼」である。外国の偉いお医者様であるから無試験でどうぞ・・・等とは明治時代でもあるまいし笑止千万である。日本にも世界的レベルの医師がごろごろいるだろう。或いは単に有名ではないと言うだけの名医は隠れているに違いない。パフォーマンスだけ派手で有名な医師を外国からお招きして無試験で日本の敷居を跨ごうとは仙谷が許しても私は絶対に許さない。日本には日本の事情に通暁した良心的な日本の医師が居れば充分であろう。


記事#2:『外国人初の看護師合格=経済連携協定で受け入れ-厚労省
 厚生労働省は26日、経済連携協定(EPA)に基づき受け入れたインドネシア人とフィリピン人の計3人が、看護師国家試験に合格したと発表した。EPAで入国した外国人の合格は初めて。同省によると、合格者は三之町病院(新潟県三条市)が受け入れたインドネシア人男女2人と、足利赤十字病院(栃木県足利市)のフィリピン人女性1人。日本とインドネシアは2007年、看護師候補らを受け入れるEPAに署名。08~09年度の入国者は計277人で、各地の病院で研修を受けつつ補助的な業務に就いている。82人が昨年の国家試験を受けたが、合格者はいなかった。フィリピンからもEPAに基づき09年度に93人が来日、今回が初の受験だった。』

この問題は別に日本語にあるのではない。日比EPAに反対する看護師を読んで頂ければわかるように、看護師達自身が来日就職に反対しているのである。特にフィリピン人とインドネシア人との扱いの違いは如実であろう。日本は自衛隊をイラクに派遣したが、民生部門と後方支援部門を民間委託していたアメリカ軍から見れば自費でイラクまで駆けつけてくれた上に、戦後復興の後方支援を率先して行ってくれる便利な外国「軍」が居るのである。無給で尻拭いを買って出る外国軍隊等、アメリカ軍にとっては便利以外何物でもない。これと同じような役割を、国レベルの協定によって看護師達に押し付けようとしているのである。丁重にお断りされるのも無理は無い。

一介の国を憂う医学生として国家戦略に欠ける仙谷由人に釘を刺しておく。

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