Dr. Mori Without Borders / Mori-san Sans Frontieres

森 一仁が医学・国際政治経済金融・人文教養教育など関心問題を国際的・学際的に考える。

記憶はシナプス可塑性と共に薄れゆき ~御巣鷹山・日航ジャンボ機墜落事故で失いし塚原仲晃先生を偲ぶ~

2006-08-18 03:08:15 | 基礎生命医科学:基礎医学・生物科学
暑さの余り、先日ついに軽い熱中症になってしまった。丁度その頃、テレビ報道で、御巣鷹山での日航機墜落事故の事を特集していた。若い方には馴染みが無いかも知れないが、20数年前に、日本航空のジャンボジェット機が墜落したと言う大事件だ。そこでは流行歌「上を向いて歩こう」で有名な芸能人・坂本九氏が搭乗していたなど、当時の話題の中心でしたが、これに関連して、医学医療系統において、もっと忘れてはならない人物がいる。

その方こそ、優れた神経生理学者・塚原仲晃先生である。先生は、東大の医学部第二生理学教室出身で脳研究のライオンこと時実利彦先生をはじめとして、生理学研究所の内園耕二教授、伊藤正男教授など、日本の医学・生理学研究の錚々たるメンバーから指導を受けた日本が誇る科学者・基礎医学者である。臨床神経学やリハビリ医学の本など「ALLEN-TSUKAHARAモデル」やら、基礎の神経生理学や心理学・精神医学の方でも「神経の可塑性」「学習の分子生物学的基礎」などとしてシナプス可塑性が教科書的知識になっているのだが、一連の問題に対して光を投げかけた医学者が、この塚原先生であった。

友人の精神科医・熊木徹夫先生の著書でもファントム・リム(幻肢痛)の問題が、カリフォルニア大学・サンディエゴ校のラマチャンドラン博士の研究を引用しながら言及されている。ラマチャンドラン博士は、業界ではいまもっともノーベル生理学・医学賞に近い男とされているが、このラマチャンドラン博士の研究に勝るとも劣らない価値ある知見を提供したのもこの塚原先生であった。

御巣鷹山の上空でこの世を去られた事は、一事件として忘れられないであろうし、先生がもしも生きておられたら、シナプス・学習・記憶・リハビリ・可塑性・・・これらの諸問題にまつわる知識も、今以上の膨大な蓄積があったであろうことは想像に難くない事を思うと、この航空機事故が残念でならない。


追記:記事を執筆中に、医学者で、筋生理学・生物物理学・分子生物学・薬理学などを修められた江橋節郎先生がお亡くなりになりました。江橋先生も日本の基礎生物学・医学研究を推進された立役者でした。ここに併せてご冥福をお祈り申し上げます。

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