「ぼんくら」 宮部みゆき 講談社 2000.4.20
フッと読みたくなって再読。
例により、あらかた忘れているので、面白く読めた。
店子を襲った殺し屋、差配人の出奔、謎の新興宗教騒ぎ。
江戸下町の長屋で連続する事件の裏の陰謀に、
怠けもの同心・井筒平四郎と超美少年・弓之助が挑む。
回向院の茂七の手下・政五郎、驚異の記憶力・おでこ、
煮売り屋・お徳、若き差配人・佐吉、伝書烏の官九郎など、
キャラクター一人ひとりが魅力的。
平四郎が事件にぶつかり、「やっちまったもんはしょうがねえ」と思うのは、罪人の申し状を聞いたり、事の成り行きがよくわかってきたりすると、たいていの場合、「俺だって同じ立場に置かれたら同じことをやるよなぁ」と考えてしまうからなのである。
「(信心は)心の拠り所になれば良いのです。上手くいったときには神仏のおかげさまとする。まずくいったときには神仏の奉じ方が足りなかったとする。そうしておけば、どうしようもない幸も不幸も、運も不運も、取り扱いようが決まるというわけでございますから」
「世渡りしやすくなる、ということかい?」
うん、やっぱり、弓之助とおでこが絶妙だ。
「日暮らし 上・下」 宮部みゆき 講談社 2005.1.1
過去の嘘と隠し事の目眩ましに迷って悩む平四郎。
夜毎の悪夢でおねしょをしても必死に謎と向き合う弓之助。
ねえ叔父上、ここはひとつ、まっさらに戻して考えてみてはいかがでしょう?
佐吉の態度に疑心暗鬼を募らせるお恵に弓之助が言う。
「人は欲深いものだと、叔父上はよく言います」
「一度自分が親しく思ったものが、どんな理由であれ離れてゆく。それが我慢できないというのも、立派な欲だと。それでも、その欲がなければ人は立ちゆかない。そういう欲はあっていいのだ。だから、別れるのが嫌だから生き物と親しまないというのは、賢いことではないーー」
「そして、いつか別れるのではないかと、別れる前から怖れ怯えて暮らすのも、愚かなことだと教わりました。それは別れが怖いのではなく、自分の手にさしたものを手放したくないという欲に、ただただ振り回されているだけのことなのだから」
宮部みゆきさんの時代小説をしっかり読んでみたくなった。