かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 231

2024-03-31 09:42:05 | 短歌の鑑賞
 2024年版 渡辺松男研究28(15年6月実施)
   【陰陽石】『寒気氾濫』(1997年)97頁~
   参加者:S・I、泉真帆、M・K、崎尾廣子、M・S、鈴木良明、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子 司会と記録:鹿取 未放


231 けやき巨樹はずかしげなき図体の全裸は春の朝焼けのなか

     (レポート)
 欅の大木は恥ずかしげもなく芽立ちもまだの素っ裸の身で春の美しい朝焼けの中によくも立っているものだ。(曽我)


   (当日意見)
★欅を全裸の女性とみたのでしょうか、そういう視点をすごいと思います。(M・S)
★男性であれ女性であれ、春の朝焼けの中に全裸でいる姿を欅に託して詠われたのだ
 と思います。(慧子)
★言葉選びが素晴らしいなと思いました。「はずかしげなき」とつけたことでとても恥
 ずかしい場面のような、でも堂々としているような感触的なものが出てきている。
   (真帆)
★「図体」もいいですよね、欅の巨樹だから図体が出てきているんだけど、活きてい
 る。朝焼けに自分の全裸を立たせているけやきの巨樹、この場合は女性でも男性でも
 いいと思います。結局これ肉体、命、生の讃歌ですよね。(鹿取)
★これは前の方の歌と関係づけなくても、欅の自然描写としてよいと思います。(鈴木)

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渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 230

2024-03-30 09:12:47 | 短歌の鑑賞
 2024年版 渡辺松男研究28(15年6月実施)
   【陰陽石】『寒気氾濫』(1997年)97頁~
   参加者:S・I、泉真帆、M・K、崎尾廣子、M・S、鈴木良明、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子 司会と記録:鹿取 未放


230 重力は曲線となりゆうらりと君の乳房をつたわりゆけり

     (当日意見)
★重力って何でしょう?例えば汗なら重力で落ちてきますけれど。(S・I)
★女性の体が自分で揺れる場合があるじゃないですか、上田三四二の歌にそういうのが
 あったかな。でも、これ男性の手ですよ。その手の動きが重力となって女性の体に伝
 わっていったという。(鈴木)
★うーん、人間の手とか舌とかだったら重力ではなく人為的な行為なので……(鹿取)
★手だとありふれている。もっと情熱的な何かだと思いました。(S・I)
★やっぱり汗でしょうかね。男性のものか女性のものか分からないけど、乳房の形に
 そって柔らかく流れていった。(鹿取)

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渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 229

2024-03-29 16:06:59 | 短歌の鑑賞
 2024年版 渡辺松男研究28(15年6月実施)
   【陰陽石】『寒気氾濫』(1997年)97頁~
   参加者:S・I、泉真帆、M・K、崎尾廣子、M・S、鈴木良明、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子 司会と記録:鹿取 未放


229 星微光いまだ届かぬものもあり待ちきれざればわれら抱きあう

        (レポート)
 遠い宇宙から来るかすかな星の光は中々届かないものもあるように、恋人との仲もまだ良い雰囲気が醸されたとは言い難い。けれどとても待ちきれなくて私達は抱き合ってしまった。(曽我)


      (当日意見)
★「待ちきれざれば」は曽我さんと違って、お互い求め合っているから待ちきれないの
 だと解釈しました。だから「良い雰囲気が醸されたとは言い難い」も違う意見です。
   (鹿取)
★鹿取さんと同じ事を言っているんだけど、書き方が悪かったかな。(曽我)
★待ちきれずに抱きあう恋人同士に星微光が取り合わせられているところが面白いです
 が、他の方いかがでしょう?(鹿取)
★詠い起こして結句に行くまでにどう繋ぐかというのがあるのですが、これはうまく繋
 いでいると思います。星の微光が届かないというのと待ちきれないのがうまく合って
 いると思います。(慧子)
★うまく繋がっている理由を説明してくれますか?(鹿取)
★抱きあいたいのですね。だけど、それに何を付けるかというと日常のちまちましたも
 のでなくて宇宙を持ってこられた。待ちきれないこころの中が届かない星微光でよう
 く見える。とても上手いつなぎ方だ。(慧子)
★届かない星の光を待つ気分が、早く抱きあいたいという思いと似通っているというこ
 と?星の光を待つ茫洋とした気分と、抱擁を待ちきれない切迫感とは少し遠い気がす
 るのですが。(鹿取)
★まだ夕方で周囲が明るいので星の光が届かない。もっと暗くなれば星は輝き出す。二
 人で星を見ようと思うけれど、その時間を待っていられない。それで抱きあっちゃ
 う。(鈴木)
★スケールの大きなものと身近な恋人同士の対比が面白い。星というのは爆発して何万
 光年とか届くまでかかるけれど、そういうことを暗示しているのかなあと。(S・I)
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渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 228

2024-03-28 09:21:34 | 短歌の鑑賞
 2024年版 渡辺松男研究28(15年6月実施)
   【陰陽石】『寒気氾濫』(1997年)97頁~
   参加者:S・I、泉真帆、M・K、崎尾廣子、M・S、鈴木良明、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子 司会と記録:鹿取 未放


228 恋人の御腹(おなか)の上にいるような春やわらかき野のどまんなか

       (レポート)
 恋人のおなかの上にのっかっているような心地よくほんわかとした春のたけなわである。春の形容に恋人のおなかまで登場させるとは凡人にはとても思いつかない発送ですね。 (曽我)


      (当日意見)
★恋真っ最中の人ならこういう発想ができるのかな。私などの歳になればとてもです
 が。(M・S)
★春ののどけさ、心地よさを表現するのにこういう環境をもってきて非凡な方だなと思
 います。(崎尾)
★自然との一体感を渡辺さんの場合はこういう形で表現している。うまいなという感じ
 がある。他の人はこういう詠み方しないですね。今恋人がいるからとかではなくて、
 自然との関係でこういうイメージを出してきている。(鈴木)
★この歌は大好きです。安堵感というか心も体も繋がりあっている幸せな気分が、春の
 暖かい野のど真ん中にいる気分と自然につながっています。男性の安堵感って、こう
 いう感じかなあって、男性性というんものを感じます。詠み方もやわらかくまある
 く、いい感じです。(鹿取)
★うららかな春の気分を詠っていらっしゃるのですね。(曽我)

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渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 227

2024-03-27 13:56:39 | 短歌の鑑賞
 2024年版 渡辺松男研究28(15年6月実施)
   【陰陽石】『寒気氾濫』(1997年)97頁~
   参加者:S・I、泉真帆、M・K、崎尾廣子、M・S、鈴木良明、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:曽我 亮子 司会と記録:鹿取 未放


227 汗かけば別のまぶしき宇宙見え陰陽石が突っ立っている
   
        (当日意見)
★ネットで調べると、男の性器と女の性器が対で祀ってある、そういうのを陰陽石
 (いんようせき)というそうです。自然の営みの中にそういう陰と陽が存在してい
 る。(鈴木)
★私は「汗かけば」は226の歌(汗ばむということ秘密めきていて春霞する谷(や
 と)を行くなり)の続きで読めると思います。谷を行きながら汗をかくと昂揚してま
 ぶしい別の宇宙が見えてくる。そのまぶしい宇宙には陰陽石が突っ立っている。きっ
 と陰陽石もきらきら輝いているのでしょうね。作者にはそれがありありと見えている
 のでしょうね。まあ、現実に突っ立っていてもいいとは思いますが。(鹿取)
★性愛のことを詠っているとは思いますが、スポーツをして汗をかくと別人になったよ
 うな気分がする。そんな感じかな、上句のすばらしさを思いました。(慧子)
★言葉の取り合わせがとてもおもしろい。宇宙ということば、陰陽石という言葉など。
 陰陽石は神社の裏手などで見たことがありますが、子孫繁栄とかを願っているんです
 ね。おもしろい歌だと思います。(S・I)
★先ほど慧子さんがおっしゃったのを聞いて、スポーツによる別世界というのがすとー
 んと胸に落ちました。陰陽石は男性女性問わず生々しい生き物のようなぎょっとする
 感じがします。汗をかくと、この世とは別にある生々しい石の宇宙が見えてくるので
 はないでしょうか。(真帆)
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