かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

馬場あき子の外国詠 293,294 トルコ④

2024-03-12 09:40:55 | 短歌の鑑賞
 2024年度版 馬場あき子旅の歌39(11年5月)
    【遊光】『飛種』(1996年刊)P128~
     参加者:K・I、崎尾廣子、佐々木実之、曽我亮子、H・T、鹿取未放
     レポーター:崎尾 廣子 司会とまとめ:鹿取 未放
     

293 転向の心はいかなる時に湧くや地下都市低く暗く下りゆく

    (まとめ)
 迫害を受けたキリスト教徒達はあくまでも信仰を守るために地下都市を造って隠れ住んだ。しかし、長期間不自由な生活を強いられたり様々な条件から、ある人にふっと転向の心が忍び寄ってきたとしても不思議ではない。暗い地下都市を下りながら、作者はそんなことを考えたのだろう。2、3句の8、6音という字余りがそんな心のたゆたいを表現しているようだ。
 私はふっと太平洋戦争末期、沖縄のガマに暮らした民衆達のことが心をかすめた。遣欧使節団の帰国後のそれぞれの末路を勉強したことも思い出した。(鹿取)
 

294 地下都市はずんずん深し産屋(うぶや)あり死の部屋あり クオ・ヴァディス・ドミネ

    (まとめ)
 「ずんずん深し」に勢いがある。大きい都市は地下八層まであったというが、産屋も死の部屋も備えたまったき生活空間であった、その様に圧倒されているのであろう。そして有名な「クオ・ヴァディス・ドミネ」の語句を反芻している。
 迫害が激しくなったローマから立ち去ろうとしたペテロが、十字架に架かって処刑されたはずのキリストに出会い、驚いて発する言葉が「クオ・ヴァディス・ドミネ」(主よ、いずこにいらっしゃるのですか)である。キリストは「再び十字架に掛けられるために」ローマに戻るのだと答える。それを聞いてペテロは逃げ出すことをやめ、ローマに引き返す。しかし、やがてペテロも捕らえられて十字架に掛けられたという。その出会いが言い伝えられた場所は、アッピア街道に近いローマ近郊の小さな村であるが、その地に後世ドミネ・クオヴァディス教会が建てられた。現在の建物は17世紀の再建という。
 この歌では地下都市の景に、クオ・ヴァディス・ドミネの言葉を添えることで、293番の歌「転向の心はいかなる時に湧くや地下都市低く暗く下りゆく」を補強し、不自由と苦難を強いる地下都市で信仰を保ち続けることの難しさを思いやっている。転向のこころが兆しても何ら不思議ではない。自分ならどうするか、この地下都市を見た者に突き付けられる鋭い問いであろう。(鹿取)
 
 
コメント
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