かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の鑑賞  96,97

2022-06-30 18:15:22 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 渡辺松男研究2の13(2018年7月実施)
    【すこし哲学】『泡宇宙の蛙』(1999年)P65~
     参加者:K・O、A・K、T・S、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部慧子 司会と記録:鹿取未放


96 滝おつるごとく眠りにおちてゆくおおきな尻の配偶者なり

     (当日意見)
★分かりやすい歌ですよね。奥様のことをこんなふうに演出して歌っていらっしゃるのでし
 ょうか。渡辺松男だから違うだろう、裏に何かあるのではみたいな気もするけど。
    (A・K)
★健やかな感じがしますね。滝の感じと落ちる感じが響きあっているし。(K・O)


97 諍いて寝てしまえども青樹海夢のなかにて空飛ぶ家族

      (当日意見)
★「あらそう」と読むのでしょうかね?「いさかう」じゃないですか?(A・K)
★うーん、一首声に出して読むと「いさかう」の方が美しいですね。青樹海と繋げると「あ
 らそう」の「あ」の音もありかな。漢和辞典では「あらそう」の読みも出ています。
  (鹿取)
★すがすがしいですね。青樹海の出し方もうまい。みんな疲れて寝ちゃたんですね。 いい
 感じの家族になっている。(K・O)
★青のトーンが夢の世界にふさわしいですね。どこまでも青い樹海の上を家族して夢で飛ん
 でいる。青の層のはかなさと分厚さを感じます。(鹿取)

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渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 95

2022-06-29 09:40:26 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 渡辺松男研究2の13(2018年7月実施)
    【すこし哲学】『泡宇宙の蛙』(1999年)P65~
     参加者:K・O、A・K、T・S、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部慧子 司会と記録:鹿取未放


95 乱視われ三十個ほどの月の下三十個ほどの配偶者といる

    (レポート)
 乱視の作者は三十個ほどの月を見て、その下にいる。誇張された数かもしれないが地球に一つの筈の衛生が三十個になっているなら作者に一人のはずの配偶者も三十個ほど存在するということになる。三十人としていないのは歌の調べのためでもあろうし、配偶者との関係の良さがにじんでいるのだろう。ユーモラスだ。そしてまた、配偶者のさまざまを知る作者は三十個ぐらい簡単にその性質、傾向を数えられるのだろう。(慧子)


      (当日意見)
★私も乱視があるのでこの感覚はよく分かる。三十個には見えないけれど5.6個ならそん
 な感じがある。だから現実から発想したかもしれないけれど。なぜ三十個かというと1ヶ
 月の月の満ち欠けの暗示。だから1ヶ月分の配偶者。しかも乱視だから見えているのは虚
 像。いろんな暗喩が入っているのだろう。「ほど」があるから。現実的な発想なんだけ
 ど、宇宙観のようなものが出ている。世界に対してのメタファーがあるような。でも、普
 通は暗喩をかける時って読者も構えたりするんだけど、それを感じさせないところが却っ
 てテクニカルだなって。作者の身体時間の ようなものが宇宙に直結しているのかもし
 れない。(K・O)
★テクニカルな暗喩って、何を暗喩しているんですか?それを知りたい。(A・K)
★世界に対する喩です。こういう世界に住んでいるんだという。喩がまずいなら世界に対す
 るイメージですね。テクニカルって言ったけど作者は自然にやっていらっしゃるのかもし
 れない。(K・O)
★松男さんの歌、平行宇宙だとかいろんな世界が複雑に絡みあっていて、何次元かわからな
 いような世界像なんですが。K・Oさんが最初におっしゃった1ヶ月の月の満ち欠けが三
 十個ほどの月に暗示されているって、重層的でそれだけで美しいし楽しい。魅力的に見え
 る。自分だったら一生分かかって作る歌の全部がこの一首に凝縮されているようで、もう
 みんな言われてしまったような気がする。(鹿取)


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渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 94

2022-06-27 15:45:11 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 渡辺松男研究2の13(2018年7月実施)
    【すこし哲学】『泡宇宙の蛙』(1999年)P65~
     参加者:K・O、A・K、T・S、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部慧子 司会と記録:鹿取未放


94 まぢかにみてわれふためきぬ配偶者のかおがごはんつぶから構成されている

     (当日意見)
★アルチンボルトの絵を直観的に思いました。いろんな果物で顔ができている、気持ち
 悪い。(A・K)
★私もアルチンボルトも思ったし、江戸時代の裸の力士を何人も組み合わせて一人の顔が出
 来ている絵も思い出しますね。(鹿取)
★人間の顔って、ある瞬間、あっと思う時がありますよね。これまで自分が見ていたものと
 全く違うように見える時が。間近で見たんでしょう、今まで隠されていたものが歴然と出
 てきた。下句はとても散文的ですね。(A・K)
★まあ、アルチンボルトよりもご飯粒はユーモアがあって可愛らしいですね。自分の子ども
 なんかでも、ものも言えない赤ん坊の時に、得体の知れない異星人を見ているような恐ろ
 しさを感じることがありましたね。(鹿取)
★細胞レベルで見れば、日本人のDNAの中に入っているご飯粒。でも、何か怖い感じもす
 る。(K・O)
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渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 93

2022-06-26 11:46:44 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 渡辺松男研究2の13(2018年7月実施)
    【すこし哲学】『泡宇宙の蛙』(1999年)P65~
     参加者:K・O、A・K、T・S、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部慧子 司会と記録:鹿取未放


93 このごろの配偶者すこしいらいらし配偶者のなかに群衆がいる

     (レポート)
 配偶者はこの頃少しいらいらしていて、その原因は「配偶者のなかに群衆がいる」からだろうと作者は思ったようだ。一家の主婦として、また世間のこまごました交際などを担って、何か雑念にとらわれ、未整理の状態なのかもしれない。それを下句のように表現して面白い。(慧子)


      (当日意見)
★配偶者という個をとても大事に思っていらっしゃる。妻を愛情をもって見ながらその個
 の向こうに普遍的なものを見ている。渡辺さんのものを見る目のものすごさを感じます。
 「配偶者のなかに群衆がいる」って、ああっと思います。そうよねっと思う。人間の多
 面性というか、自分では意識しないものが自分の中にいっぱいあって個を作っている。
 そしてその向こうに普遍がある。渡辺さんの歌、難しい、難しいっていうけど、この辺
 りは全然難しくない。(A・K)
★私はもっと単純に考えて、誰だって自分の頭の中にごじゃごじゃごじゃごじゃと他人が
 いるじゃないですか。A・Kさんが配偶者の向こうに普遍的なものを見てるっておっし
 ゃって、鑑賞が豊かなものになったと思います。いらいらしているのは作者に対してか
 なって思って。配偶者の中に群衆がいるって見てるのは作者ですから。「彼女」の中に
 群衆がいるとは言っていないので、よく考えると深いのではまっていってしまう。
    (K・O)
★配偶者にいらいらが向けられているとなると意味が違ってきますね。それだと群衆も配
 偶者と一緒になって作者を批判していることになる。世間的にいらいらしているのなら
 慧子さんの解釈でいいのですが。(T・S)
★私は配偶者が自分自身で苛立っているととったんですけどね、いらいらの対象が他に向
 けられているとは思えません。(鹿取)
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渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 92

2022-06-25 13:48:49 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 渡辺松男研究2の13(2018年7月実施)
    【すこし哲学】『泡宇宙の蛙』(1999年)P65~
     参加者:K・O、A・K、T・S、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:渡部慧子 司会と記録:鹿取未放


92 紙やぶる音びっとして冬ふかし配偶者すこし哲学をする

      (当日意見)
★これ、上の句で俳句になりますね。この人俳句もやってらっしゃるから。「冬ふかし」っ
 て季語かしら?感覚として文句なく分かる歌ですね。冬の澄んだ空気の中で、配偶者がふ
 っと何かを思った、それを「すこし哲学をする」と表現した。この歌はだからあまりやや
 こしいことを言わない方がよいと思う。すーと入ってくる。渡辺さんの歌と知らなくても
 読める歌。(A・K)
★理屈を言ってはいけないのでしょうが、これは誰が紙を破っているのでしょう?
    (鹿取)
★そういうことは聞いちゃいけないんです、きっと(笑)どこかから聞こえてくるんです。
    (A・K)
★そうですね、子どもが破ったりしたらこの世界が壊れてしまいますね。配偶者でも〈わ
 れ〉でもまずいんでしょうね。(鹿取)
★どこかから紙を破る音がして、ああ冬が深いんだなあと思ったとたん、今自分は実存して
 いるってことじゃないかなあ。そういうことってありますよね。それで哲学をするに結び
 ついた。(A・K)
★それって、充分ややこしいことのような(笑)(鹿取)
★これが「ぴっと」だったら非凡な感じがある。「びっと」だとかわいらしい配偶者のスケ
 ッチのようでいい感じ。(K・O)


     (後日意見)(鹿取)
 「冬深し」は「冬の真っ盛り。寒さも絶頂期で、自然も人の暮らしもすっかり冬一色である」と「合本 俳句歳時記 第一版」には出ている。
  冬深し藪へ入り込む川の砂  大峯あきら     

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