かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

馬場あき子の外国詠 317(中国)

2019-07-31 19:05:52 | 短歌の鑑賞
 馬場あき子の外国詠43(2011年9月実施)
   【コンヤにて】『飛種』(1996年刊)P142~
   参加者:K・I、N・I、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、
        渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:曽我亮子    司会と記録:鹿取未放


317 太き橅風を鳴らせるエイユルデル湖青き感情を揺らし吾を見る

     (レポート)
 エイユルデル湖は地中海に面したアナンタルヤの北方150キロに位置する湖水地方のかなり大きな湖だと言える。白雪をいただく山容や青い空を湖面に写し透明度の高い、碧くきりっとした湖である。作者は青色の凛とした静けさ、深さ、透明感を愛され、かなりの作品に様々の青が登場する。(曽我)


     (まとめ)
 風が吹きすさぶ湖の情景が詠われている。風によって橅の木が鳴っているのだが風を鳴らせると逆に詠んでいる。また風によって波立っている受け身の湖を、青き感情を自ら揺らして「吾を見る」のだと詠う。意識や言葉の無いものを自分が見ているのに、相手から見られていると詠うのも馬場の歌い方の特徴である。感情を揺らして自分を見ている湖に、作者の心も同調しているのであろう。
 また、青は作者の偏愛する色で、歌にも多く詠まれ、『青椿抄』『青い夜のことば』など歌集の題名にも使われている。(鹿取)

         ◆意識の無いものが自分を見ている歌の例
  鴉数羽黒きビニール裂きゐしが静かなる迫力に吾を見つ
                  『青椿抄』
  人間はいかなる怪異あざあざと蛸切りて食ふを蛸はみてゐる

       
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

馬場あき子の外国詠 316(トルコ)

2019-07-30 20:46:53 | 短歌の鑑賞
 馬場あき子の外国詠43(2011年9月実施)
   【コンヤにて】『飛種』(1996年刊)P142~
   参加者:K・I、N・I、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、
        渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:曽我亮子    司会と記録:鹿取未放


316 神は偉大なりといひて瞑想に入りしとぞアナトリア大平原の寂寞 

     (レポート)
 アナトリア平原の過酷なありようも全て偉大なるアッラーの神の思し召しと考え、「よろしゅうございます。何事も神の思し召しのままに……」と静かに黙って受け入れたアナトリア大平原とそこに住むイスラムの人々の宗教観の強じんさと哀しみが詠われている。(曽我)


     (当日発言)
★「神は偉大なり」というのは、イスラムの言い回し。(曽我)
★一読、自然であるアナトリア大平原が「神は偉大なり」と唱えて瞑想に入ったようで面白いが、
 そこに寂しく住まう人々と大平原はある意味一体となっているのであろう。(鹿取)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

馬場あき子の外国詠 315(トルコ)

2019-07-29 22:15:15 | 短歌の鑑賞
 馬場あき子の外国詠43(2011年9月実施)
  【コンヤにて】『飛種』(1996年刊)P142~
   参加者:K・I、N・I、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、
        渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:曽我亮子    司会と記録:鹿取未放


315 荒地の木の命の脂濃きことをトルコのオリーブ嚙みて黙せり

     (レポート)
 荒れ地に生きる木には生命力の塊のような濃厚さがあるということをトルコのオリーブを食して納得。この地の自然の過酷さに私は言葉を無くしてしまったのだった……
 夏のアナトリア南東部の平原は非常に暑く土はすっかり干上がって粒子となり、一陣の風にも舞い上がるその過酷さは例えようもない。作者は自然の厳しさとともに、この地に根を下ろす人々の苦しみと忍耐に思いを致され、詠まれているのだ。(曽我)


     (当日発言)
★脂に注目。ひまわりもそうだった。(崎尾)
★「荒地の木」の一つの例として「トルコのオリーブ」もあるのだろう。崎尾さんの発言どおり、
 中国やサハラやスペインなど訪れた地の脂濃き様々な木が想いの中にあるのかもしれない。結句
 の「黙せり」に、レポーターが後半に書いているような思いがよく表現されている。(鹿取)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

馬場あき子の外国詠 314(トルコ)

2019-07-28 22:23:30 | 短歌の鑑賞
 馬場あき子の外国詠43(2011年9月実施)
  【コンヤにて】『飛種』(1996年刊)P142~
   参加者:K・I、N・I、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、
        渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:曽我亮子    司会と記録:鹿取未放


314 アナトリアの大地ゆつたりと盛り上がり肉体感のごとき耀(て)りみゆ

          (レポート)
 アナトリアの大地はおおらかにふくらんでなめらかな人肌のように光り輝いて見える。広大なアナトリアの中部高地は、紀元前より様々な民族が自らの主権の為に戦い、11世紀中央アジアのセルジュークトルコ人によって建国されたトルコの中核をなす土地である。小麦畑の広がる起伏に富んだ大草原や、エルジュス山の大噴火によって生まれた奇岩のカッパドキア等、壮観で現実離れした風景が広がっている。また南部のアンタルヤ近郊にはローマ時代の遺跡も多く残り、トルコの長い歴史を物語る。作者はあらゆる対象―山容や山肌までも「生あるもの」として対しておられることが理解される。(曽我)


      (当日発言)
★これはバスからの風景なのでしょうかね。「ゆつたりと盛り上がり」というのだから、「小麦畑
 の広がる起伏に富んだ大草原」かもしれませんね。下の句 がうまく雄大さを引き出していると
 思います。豊かな女性のイメージもあるのかもしれませんね。(鹿取)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

馬場あき子の外国詠 313(トルコ)

2019-07-27 21:46:27 | 短歌の鑑賞
 馬場あき子旅の歌42(11年8月)【キャラバンサライにて】『飛種』(1996年刊)P139~
  参加者:N・I、崎尾廣子、T・S、曽我亮子、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
  レポーター:渡部慧子 司会とまとめ:鹿取 未放
                  
313 アナトリアの大地に砂の鳴る夜は冬近い駱駝の瘤も緊りて   

     (レポート)
 「アナトリア」とは小アジアの別名。太陽が昇ることを意味し、ビザンチン帝国以来使われている。「アナトリアの大地」の自然現象から「駱駝の瘤」への小さなものへの絞り込みも見逃せない。(慧子)


     (まとめ)
 冬近い沙漠は嵐がひどくなるのであろうか。そんな厳しい砂嵐に備えるように駱駝の瘤は緊っていると歌う。そのような説明を受けたのかもしれないが、アナトリアという雄大な名がゆったりとして歌柄を大きくしている。(鹿取)



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする