かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 195

2021-03-31 20:22:22 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究23 【眉間】『寒気氾濫』(1997年)79頁~
   参加者:泉真帆、かまくらうてな、渡部慧子、鹿取未放、石井彩子と鈴木良明は紙上参加
   レポーター: 泉 真帆 司会と記録:鹿取 未放
            
    
195 深谷葱の数万本の首に吹き風は平野をかがやかしたり

        (レポート)
 埼玉県深谷市でつくられる深谷葱。深谷市は葱の生産量で日本一を誇る。一面の葱畑に風が吹き、平野をさっと輝かせるようすが印象的だ。(真帆)


       (紙上意見)
 北風が一斉に数万本の葱を揺らし、凍てついた平野が、しろく輝いたのであろう。それまで何気ない景だったものが、風が吹くことによって、様相が一変した。壮観である。(石井)

 「深谷葱」は、根深葱なので、白い首の部分が長い。そのような葱の数万本の首を吹く風が、平野をかがやかしている。(鈴木)


     (意見)
★前の歌を工場視察ととったので、この歌も首というのは人間の首のようなイメージを持ちました。
 上が風を吹かせればお前等の首は飛んでいくんだぞと。しかし結句が「かがやかしたり」ですか
 ら、この解釈はダメかなと。(真帆)
★「首」がとても生きていますよね。葱坊主だから首なんですね。「首に吹き」って上手いですね。
 この歌は景で読んだ方が魅力的だと思います。セメント工場から生産繋がりですね。また、両方
 地元の親しい風物だと思います。前にも言ったと思いますが、歌集のあとがきに現実の社会、い
 ろんな働く人がいて、どれもが大事だ、当たり前の事実の部分に自分を繋ぎ止めておかなければ
 心が痩せていく、という意味のことを書かれています。だからセメント工場も数万本もの育つ葱
 も彼にとって大切なものなのですね。(鹿取)
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渡辺松男の一首鑑賞 194

2021-03-30 17:18:48 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究23 【眉間】『寒気氾濫』(1997年)79頁~
   参加者:泉真帆、かまくらうてな、渡部慧子、鹿取未放、石井彩子と鈴木良明は紙上参加
   レポーター: 泉 真帆 司会と記録:鹿取 未放
            
    
194 生産を見にいかんかなふんぜんと真夜のセメント工場の白煙

          (レポート)
 作者は仕事でこのセメント工場の視察に行ったのだろうか。中国のユニクロの工場の労働時間の問題が報道されていたが、それを思わせる。「憤然」と見にゆくのだ。(真帆)
 

            (紙上意見)
 バブルの前「モーレツ」ということばが流行った。生産性を高めたら、豊かな暮らしが待っている。そう人々は信じてひたすらに働いた、その頃の様子だろうか。基幹産業であるセメント工場は真夜中でも稼働していたのであろう。ふんぜんと白煙をあげている様子はいかにも頑張っているようで、涙ぐましい。(石井)

 「ふんぜん」は、「憤然」「奮然」「紛然」のいずれだろうか。(鈴木)


          (当日意見)
★「ふんぜん」は自分の感情でもあり、白煙の様子でもあると思いました。(真帆)
★今日のセメントは質が悪いです。だから鉄骨が錆びやすいのです。バブルの頃か、それが大問題
 になりました。かつてのセメントは山砂で品質が良かった。粗悪なセメントだから憤然としてい
 るのではないか。(うてな)
★私は「いかんかな」と言っているので自発的に行くのだと思う。真夜の視察というのもあまりな
 いだろうし。セメント工場はいろいろ問題を抱えているかもしれないけれど、ここでは物を作る
 ということの面白さに興味を持っていると思いました。文明批評の歌もたくさんつくっています
 けれど、ここはちょっと違うかな。(鹿取)

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渡辺松男の一首鑑賞 193

2021-03-29 17:09:24 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究23 【眉間】『寒気氾濫』(1997年)79頁~
   参加者:泉真帆、かまくらうてな、渡部慧子、鹿取未放、石井彩子と鈴木良明は紙上参加
   レポーター: 泉 真帆 司会と記録:鹿取 未放
            
    
193 茄子紺のひきしまりたる一念を眉間にしゅうちゅうしてみんとせり

      (レポート)
 畑に実る茄子の、日に照らされる様に、強い集中力を思う作者がいる。「眉間に」「しゅうちゅうしてみんとせり」が魅力的だ。(真帆)


      (紙上意見)
 魅入られるかのように、引き締まった紫紺の茄子を注視しようと、眉間を意識する様子を描いている。一念―ひたすら思うことーという仏教用語を使って、茄子は単に客体ではなく作者の思いに同化しているのかもしれない。(石井)

 確かに、茄子のつややかな紫紺をじっと見ていると、「ひきしまりたる一念」に引き込まれ、眉間にいつのまにか集中している(「してみん」とあるが、すでに集中している)われが居る。(鈴木)


    (当日意見)
★これは紺色の茄子が目の前にあるのでしょうか?私はもっと抽象的に茄子紺のようなイメージを
 浮かべて眉間を意識し、集中してみようとしている、そういう歌だと思っていました。(鹿取)
★そうですね、想念の中ですね。(うてな)
★「しゅうちゅう」がひらがなで何だか面白い味をだしていますよね。いかにも作者らしくて、好
 きな歌です。少し前に「桐の花咲きしずもれるしたに来てどうすればわれは宙に浮くのか」とい
 う歌がありましたが、共通する部分があるように思います。(鹿取)

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渡辺松男の一首鑑賞 192

2021-03-28 17:03:02 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究23 【眉間】『寒気氾濫』(1997年)79頁~
   参加者:泉真帆、かまくらうてな、渡部慧子、鹿取未放、石井彩子と鈴木良明は紙上参加
   レポーター: 泉 真帆 司会と記録:鹿取 未放
            
    
192 石の上の蜂いっぴきの死へそそぐ四十五億歳の白光

     (レポート)
 太陽は誕生して四十五億年がたつのだ。その白光に、はかない命の死が照らされている。献花や献香のように献光ということばがあっていいのかもしれない。作者のいつくしみのまなざしを感じる。(真帆)

    (紙上意見)
 宇宙が生れて、93億年目、地球が誕生した。45億年前だった、その時、宇宙のどこからか、光が地球に届いていた。同じ光が45億年かけて、一生を終えた蜂に降り注いでいる、瞬きのような一瞬、いやそれよりも短い、蜂の生涯だった。もしかしたら、ハタラキ蜂だったのかもしれない。ふと、人の一生を重ねてみたくなる。(石井)


 蜂は太陽に挑んだのだろうか、それとも太陽に生かされたのだろうか。ともあれ、蜂は日当たりの良いところで死んでいることが多い。太陽は45億年前頃に誕生しているから、蜂の死骸には「四十五億歳」の白光が降り注いでいるのである。(鈴木)


       (当日意見)
★「献光」って造語でしょうが、いいですね。(慧子)
★松男さん、こういう歌い方をよくしますね。(鹿取)

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渡辺松男の一首鑑賞 191

2021-03-27 18:30:02 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究23 【眉間】『寒気氾濫』(1997年)79頁~
   参加者:泉真帆、かまくらうてな、渡部慧子、鹿取未放、石井彩子と鈴木良明は紙上参加
   レポーター: 泉 真帆 司会と記録:鹿取 未放
            
    
191 赤尾敏と東郷健の政見を聞き漏らさざりし古書店主逝く

     (レポート)
 赤尾敏は反共主義者。はじめ農民組合運動など無政府主義的活動をし、のちに転向し、大日本愛国党を結成した。東郷健は雑民党の代表。ゲイバーを経営したり、ゲイボーイとして働いたり、エイズ啓蒙活動などをしていた。連作の中で、全体をつなぐ役目か。両氏の政権をしっかりと心に留めた古書店主が浮かぶ。(真帆)


    (紙上意見)
 昭和の後期、各々右翼、左翼の違いはあるが、赤尾敏も東郷健も、政治思想というよりは毎回、選挙に立候補して、落選するので有名であった。この古書店主は、組織が嫌いで、一匹狼的な性 格の持ち主なのだろう、そのような反骨精神を彼らに重ね、彼らが当選し、政権を握ることを信 じていたのかもしれない。古書店主の生前の生き様を巧く捉えた一首(石井)


 両名は、何度も選挙に立候補しては落選し続けてきた右翼?と同性愛者?。時世や当落に関係なく主張が一貫しているので、それを「聞き漏らさざりし古書店主」も別世界の人であった。(鈴木)


    (当日意見)
★こういう歌があることが面白いですね。(うてな)
★農業の祖父とか弟の作業着とかに繋がっているので、一連で労働者ということをいいたかったの
 かなと思いました。(真帆)
★赤尾敏と東郷健、その放送を聞いている店主、またそれを見ている作者というふうに入れ子細工
 的な面白さを感じました。(慧子)
★店主に共感していると思います。変わり者に対して。(うてな)
★思想的にも一般の人からはみ出している古書店主かもしれないけれど、暇に任せて彼等の政見放
 送を聞いていたのかもしれませんね。そのことを知っているということは〈われ〉はこの人と仲
 がよくて直接店主から話を聞いたか、〈われ〉が通い詰めて、そういう店主を観察していたかで
 すよね。そして亡くなったことも知っている。店主に近親感を持っていたか、同類だと嗅ぎ取っ
 ていたか。(鹿取)

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