かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 20

2023-03-31 09:52:18 | 短歌の鑑賞
    2023年度版 渡辺松男研究3
      (13年3月)【地下に還せり】
      『寒気氾濫』(1997年)12~
       参加者:崎尾廣子、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
       司会と記録:鹿取 未放


20 魔女狩りを支持せしフランシス・ベーコン魔女狩りは今の何に当たるや

      (当日意見)
★日本にあまり魔女狩り的なものは無いのでは。(曽我)
★血祭りにはあげなくても黙らせられることはけっこうある。新聞
 など読んでいる と。職場でいじめられて死んでいく人もけっこ
 ういる。(崎尾)
★魔女というのはちょっと違って普通の人じゃないでしょ。(曽我)
★まあ、建前はそうですが実は為政者にとっての邪魔者などを魔女
 と称して火あぶりなどにしていたわけで、もともと「普通の人
 じゃない」本当の魔女なんっていないんじゃないの。(鹿取)
★魔女狩りは十四世紀から十八世紀にかけて行われた。魔女狩りの
 起源については、キリスト教の指導者が異端者をみせしめにして
 協会内の結束をはかったという見方もあるし、いや民衆の間から
 自然発生的に出てきたのだという見方もあり様々。フランシス・
 ベーコンは十六世紀から十七世紀の人。哲学者であってせいかい
 でも出世、なかなかの策士家のようにも思われる。ベーコンに対
 して帰納法や「知は力なり」くらいしか私は学んだことがなかっ
 たが、人間は自然の征服者であるべきだと説くあたり、松男さん
 とは対極の考え方の持ち主のようだ。そのベーコンが魔女狩りを
 支持したことがあったという歌。哲学者にしてそういう陰謀を支
 持したことに震撼させられるが、かなり老獪な政治家だったよう
 だ。今ならこの魔女狩りは何にあたるんだろうねえと疑問の形で
 歌は終わっている。しかし、似たようなことは今でもたくさん行
 われていて、周囲でも、政治の世界でも見聞きして作者はそれら
 に密かに憤っているのかもしれない。それにしても、潤いある心
 地よい月光や樹の瞑想の後に、いきなりこの異質な魔女狩りの歌
 が出てきてびっくりさせられる。この歌から遡って読むと、風切
 り羽をつくろう鳥も、倒されるまで瞑想している樹も、凍天に鑿
 を打つ杉も、あるいは何か寓意があると読むことも可能かもしれ
 ない。(鹿取)、
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渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 19

2023-03-30 17:02:14 | 短歌の鑑賞
    2023年度版 渡辺松男研究3
      (13年3月)【地下に還せり】
      『寒気氾濫』(1997年)12~
       参加者:崎尾廣子、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
       司会と記録:鹿取 未放


19 凍天へ鑿打つごとき杉の幹ひたぶるなるを嗤われて立つ

         (当日意見)
 ★杉の木が尖っているということですよね。まっすぐに上へ上へ
  向かうことを嗤われながら杉は立っている。(曽我)
 ★そうですね、杉の一生懸命さに寄り添っている歌ですよね。で
  も、その杉を嗤うのは何なんだろう。(鹿取)
 ★杉は労働者みたいな感じ。それを世の中の人が嗤う、って受け
  取ったのですが。だけど杉は気にしないで立っている。凍天に
  鑿を打つってむなしいことなんだけれど。(慧子)
 ★私は慧子さんおようにこの歌を比喩だとは思いません。「嗤
  う」はあざ笑うという意味だから悪意がありますよね。また、
  杉の木を何が嗤うのかなあ。人間は松男さんを除いて「凍天
  へ鑿打つごとき杉の幹」のひたぶるさというような見方をしま
  せんから,回りに生えている杉以外の別の種類の木が「なんだ
  い、あいつは」と嗤うのでしょうか。分からないけど、作者は
  嗤われている杉のひたぶるさをよしとして応援しているのだろ
  う。(鹿取)

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渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 18

2023-03-29 13:50:33 | 短歌の鑑賞
    2023年度版 渡辺松男研究3
      (13年3月)【地下に還せり】
      『寒気氾濫』(1997年)12~
       参加者:崎尾廣子、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
       司会と記録:鹿取 未放


18 冬の日のあたたかにして老木は吾に緘黙を宥してくれる

      (当日意見)
★冬の日の暖かさが老木をつつみ、その老木が私のだんまりを宥し
 てくれる。冬の日の中になにもかもが宥されてるという感じ。
  (慧子)
★はい、大好きな歌です。もっとももう少し先の「寒気氾濫」の一
 連には次のような歌があります。
  寒気団ヒマラヤ杉の上にあり同士討ちなり緘黙者とは
 この歌で同士討ちをしている緘黙者同士とは何と何を指している
 のでしょうね。直接的には、居座っている寒気団と動くことの不
 可能なヒマラヤ杉が寒さにじっと耐えて対峙している様子でしょ
うか。この歌での〈われ〉はヒマラヤ杉にかなり同化しているの
かもしれません。(鹿取)
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渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 17

2023-03-28 11:13:59 | 短歌の鑑賞
    2023年度版 渡辺松男研究3
      (13年3月)【地下に還せり】
      『寒気氾濫』(1997年)12~
       参加者:崎尾廣子、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
       司会と記録:鹿取 未放


17 樹の抱く闇黒はかりがたけれど栃の実に日はそそいでおりぬ

       (当日意見)
★いろいろあるんだろうけれど栃には実が成り、それに日が照って
 いる。(慧子)
★樹自体は計り知れない暗黒を抱いている。そういう樹の実(とち
 餅にしたりするが、どんぐりなどよりあく抜きに手間がかかるそ
 うだ)に日はさんさんと降り注いでいるんだなあと感動してい
 る。(鹿取)
★人間を樹に託して表現しているのではないか。いろいろあるけど
 いいこともあるよと。(曽我)
★私は逆に好きな栃の木を歌うのがメインだと思う。結果として人
 間もそうだよねということは言えても、人間のことを言いたくて
 栃の樹を出しているのではない。(鹿取)
★暗黒とはどんなものかなと分からないところがある。(曽我)
★具体的に説明しろと言われたらできないけど、作者は目の前の栃
 の樹は暗黒を抱えていて、それははかりがたいと感じている。人
 間とは違うけれど、木は木独自の存在の暗黒を書かれているとい
 うことでしょうかね。(鹿取)
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渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 16

2023-03-27 20:17:23 | 短歌の鑑賞
    2023年度版 渡辺松男研究3
      (13年3月)【地下に還せり】
      『寒気氾濫』(1997年)12~
       参加者:崎尾廣子、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
       司会と記録:鹿取 未放


16 一本の樹が瞑想を開始して倒さるるまで立ちておりたり

    (当日意見)
★倒されるのが近いから樹は瞑想を開始したという崎尾さんの意見
 には反対です。(曽我)
★そうですね、目がある樹なら瞑想しようと考える樹もあるだろう
 し、人間のように悟りを開きたいと考える樹もあるかもしれな
 い。あるいは悟りを得たいなどの損得勘定?も抜きにして、ただ
 瞑想したい樹だってあるだろう。樹が動かないということに作者
 は深い思い入れがあるようで、この樹は瞑想したくなったから瞑
 想していた、それだけ。たまたまその樹を人間が勝手に伐ってし
 まった。でも、だから人間はひどいというのではないのだろう。
   (鹿取)


    (後日意見)(2020年5月)
 木の瞑想という共通項だけを取り出せば馬場あき子にも次のような歌がある。
木の深い瞑想の中にあつたのだが木蓮はだまつて雨の朝咲く
『世紀』(2001年刊)



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