かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

清見糺の一首鑑賞  1の42

2020-07-31 13:02:44 | 短歌の鑑賞
  ブログ版清見糺研究 モロッコ紀行
      参加者:田村広志、寺戸和子、金子田鶴子、鹿取未放
       まとめ:鹿取未放

                                 
42 きらきらしき罪はつくらず仕事せずひねもすのたりのたり河馬在り
                    「かりん」95年2月号

 ★「きらきらしき罪」とは女性とのインモラルな関係。自分に対する批評の
  歌。(田村)    

 蕪村「春の海ひねもすのたりのたりかな」を引用している。動物園での嘱目だろうが、馬場あき子に怠け者と常にいわれていた清見糺の自画像でもある。
 彼が愛読していた坪野哲久に「われの一生(ひとよ)に殺(せつ)なく盗(とう)なくありしこと憤怒のごとしこの悔恨は」(『碧巌』)という歌があるが、これほど厳しい問いつめではないにしろ、「きらきらしき罪」さえまっとうできない己のいくじなさをぼんやりと思っているのだろう。のたりのたりといる河馬に託したところにユーモアがあるようで、実は逃げの姿勢でもあるかもしれない。(鹿取)



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渡辺松男の一首鑑賞 1の57 改訂版

2020-07-30 17:55:29 | 短歌の鑑賞
ブログ版渡辺松男研究⑥(13年6月) 『寒気氾濫』(1997年)橋として
      参加者:崎尾廣子、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
      司会と記録  鹿取未放


【改訂版】57 渾沌のわれなりしかど石膏の顔ひややけきかたわらに居つ

  ※先日アップしたこの歌、初句を「混沌」として解釈していましたが、歌集と
   照合した結果「渾沌」の文字が正しい事が判明しました。作者と読者の皆さ
   まに深くお詫びし、内容を訂正したものをここに掲載します。

 ★一連から考えるとこれも「荘子」の渾沌と関連するのだろう。「荘子」の渾沌
  は、昔、渾沌という帝王がいた。お世話になった他の国の帝王ふたりが、の
   っぺらぼうの渾沌にお礼のつもりで目、口、鼻……と七つの穴をあけてやった
  ら、渾沌は死んでしまったというお話。ここでの渾沌は一般には手を加えてい
  ない無秩序な自然の例えだと解されているようだ。無秩序な自然のような原始
  的内面を抱えた〈われ〉が、精巧に彫られた石膏の「ひややけき」かたわらに
  いたというのだが、下の句とのつながりが難しい。目、口、鼻のない〈われ〉
  の素朴で力強い原始的エネルギーと人間のぬくもりを寄せ付けないようなつる
  つるの石膏像。その取り合わせが意図しているものが単なる対照であるはずも
  ないが、うまく読み取れなくて申し訳ないです。(鹿取)


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渡辺松男の一首鑑賞 1の58

2020-07-29 16:54:59 | 短歌の鑑賞
ブログ版渡辺松男研究⑥(13年6月) 『寒気氾濫』(1997年)橋として
      参加者:崎尾廣子、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
      司会と記録  鹿取未放


58 ひっそりと蝦蟇ひきかえす断念を見届けてのち口をつぐめり

 ★レポーターは「蝦蟇」を「がま」と読まれたけれど、「ひき」でしょうね。
   ヒ、ヒ、ヒって頭韻踏んでいる。(鹿取)
 ★私はこの「口をつぐめり」を何だろうかと思ったのですが。(慧子)
 ★口をつぐんだのは渡辺さんで、引き返したのは蝦蟇。それまでは何かしゃべっ
  ていたのを止めた。(曽我)
 ★考えを披瀝しようとしていたのを止めた。(慧子)
 ★この蝦蟇はたとえば獲物を狙っていたけど捕れそうにないと断念して引き返し
  たのかもしれないけど、その姿を見ていて〈われ〉は何か大きなもの、とても
  深いものに行き当たって、それで口をつぐんでしまった。情景はとってもリア
  ルでユーモラスなんだけど、蝦蟇の引き返す姿から言葉にはならない何か大き
  なことを感じ取った。(鹿取)
 ★これはほんとに蝦蟇ですか?それとも何かを象徴しているのですか?(曽我)
 ★象徴より本物の蟇を見ている方が面白い。いや、別に実際にはいなくてもいい
  んですよ。だけど歌の上では現実の蝦蟇が引き返す姿を見ている。人間の象徴
  だとか自分の投影だとかいくらでもいえるけど、それじゃ歌は面白くない。あ
  の蝦蟇の姿を読者にリアルに想像してもらうことがこの歌では効果的なんだと
  思う。(鹿取)

               
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渡辺松男の一首鑑賞 1の56

2020-07-27 18:45:43 | 短歌の鑑賞
  ブログ版渡辺松男研究⑥(13年6月) 『寒気氾濫』(1997年)橋として
       参加者:崎尾廣子、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
      司会と記録  鹿取未放
                   

56 鮑焦(ほうしょう)は木に抱きつきて死にけるをさやさやと葉は黄にかわりゆく

 ★本を探したけど、この鮑焦のお話は分からず、図書館の人がインターネットで
  調べてくれました。(崎尾)
 ★この鮑焦のお話は「荘子」という本の「盗跖」にあります。鮑焦という人は清
  廉潔白にこだわっていて、世間の奴らは清廉潔白でないと非難して孤立し、と
  うとう木を抱いて自殺しちゃった。「盗跖」には他に6人ほどいろんなケース
  をあげているんだけど、これらの人は本質を考えず、命を軽んじて、寿命を養
  うことが出来なかったとして荘子は否定しています。(鹿取)
 ★そうすると偽善者が死んでも、抱きつかれた木は関係なく黄葉するときには黄
  葉する。自然界の超越した様を詠んでいるということですか。(曽我)
 ★ほんとうは人間と自然との関わりは大いにあるわけだけど、この歌では人間世
  界の良いとか悪いとか何だとかかんだとか関係なく自然界は巡っているという
  ことなんでしょうかね。(鹿取)


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渡辺松男の一首鑑賞 1の55

2020-07-26 19:50:44 | 短歌の鑑賞
  ブログ版渡辺松男研究⑥(13年6月) 『寒気氾濫』(1997年)橋として
       参加者:崎尾廣子、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
      司会と記録  鹿取未放
                   

55 児がじっと見ている沼の奥みれば真っ黒き木の沈みてゆけり

 ★私は真っ黒き木が何なのかさっぱり分からなかった。でも子供が見るものって
」  意外と本質を掴んでいるんですよね。その関係も考えてみたが分からない一首
  でした。(慧子)
 ★真っ黒き木ってかなり腐食した木のことではないですか。だから見えなくなる
  まで沈んでいく。(曽我)
 ★腐食していたら軽すぎて沈んでいかないかも。真っ黒き木は、不安とか死とか
  そういうものの暗示でしょうか。子はそういうものを直感しているのかもしれ
  ない。沼というのも象徴的ですね。人気の無い山奥の沼みたいなイメージです
  が、実景でも空想でもいいんだろうと思います。(鹿取)

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