感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

MMP3値上昇を来す病態

2015-02-16 | 免疫

血清のマトリックスメタロプロテイナーゼ3(MMP-3)の測定検査は、関節リウマチ診療においてよく実施されます。一般的には滑膜で産生される物質で滑膜炎の程度と相関するとされているので、リウマチ診断時における他の炎症性疾患との鑑別においてや、リウマチ治療中の疾患活動性の指標の炎症反応の一つとして用いられています。

関節リウマチの診療をやっていると、臨床的に活動性は収まっているようにみえ、CRPもそう高くないのにMMP-3値だけずっと高いままである症例に出くわすこともあります。MMP3値のこのような解離にはどのような解釈をすればいいのでしょうか。MMP3値を上げうる疾患として、乾癬性関節炎、リウマチ性多発筋痛症、などはよく見かけますが、他はどうでしょうか。

 

 

まとめ

 

・マトリックスメタロプロテイナーゼ3(MMP-3)は、線維芽細胞、滑膜細胞および軟骨細胞によって分泌される。

・これは豊富に活動的リウマチ滑膜において発現されることが認められ、MMP-3の血清レベルは関節リウマチの診断のためおよび関節破壊における予後の評価に有用なマーカーである。

・メタロプロテイナーゼは、骨および軟骨の分解を増強することが知られている、 したがって、関節リウマチ(RA)における骨破壊の主な病因の一つであると考えられる。

・MMP-3レベルはまた、リウマチ性多発筋痛症でも増加が見られた。

 

・MMP-3レベルの増加は、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、IgA腎症、活動性ループス腎炎を有する患者からの血清において検出されている。

・MMP-3の産生は、糸球体および尿細管上皮細胞ならびにメサンギウム細胞において同定されている。

・MMP-3はまた、ループス患者の皮膚病変で同定されている。

・炎症性サイトカインTNFαによって活性化されたとき内皮の静脈および動脈細胞もMMP-3を生成することができるので、血管障害のある患者もまた MMP-3のレベルの増加を表示する。

 

・Ribbensらのリウマチ性疾患における血清MMP3レベル測定の研究では、

活動性RA、乾癬性関節炎、及びリウマチ性多発筋痛症に罹患している患者においては、及び急性結晶性関節炎の女性患者にて、 コルチコステロイドによる治療をしたかどうかは関係なく、有意に増加した。 (PMRや乾癬性関節炎ではステロイドの存在がさらにMMP3レベルを増加させなかった)

・MMP-3の血清レベルは、活動性の皮膚-関節病変や腎臓病変のSLE、全身性硬化症、および血管炎においてステロイド投与なしの患者では正常であったが、ステロイド治療を受けた患者では大幅に増加していた。

・MMP-3レベルは線維筋痛症、変形性関節症、強直性脊椎炎、および急性炎症のコントロール群で正常であった。

・活動性RAについてと同じく、非活動性RAにおけるステロイドの使用でMMP-3レベルが大幅に増加した (median 23 ng/ml, n=14, p

 

参考文献

Ann Rheum Dis. 2002 Feb;61(2):161-6.

 

 

 

腎透析

 

・Prestonらの研究では、腹膜透析、腎臓移植および事前末期腎疾患(pESRD)患者と比較して、血液透析患者におけるMMP-3レベルの増加を明らかにした。この研究で評価した全48名の患者のうち12名がMMP-3 >325mg/ dlの高い値を持っており、その12名のうち10名はHD患者であった。

 

・Naganumaらの報告では、血液透析(HD)患者の血清MMP-3レベルは、健常者よりも有意に高かった(201.5 +/- 98.4 pg/mL 、45.6 +/- 13.4 pg/mL) また透析関連アミロイドーシス(DRA)を有するHD患者においてはさらに高かった(258.2 +/- 118.1)

・血清MMP-3レベルは有意に血清β2microglobulin (BMG)レベル(r=0.197、p=0.0164)及びHD時間(r=0.168、p=0.0427)と相関した。

透析関連アミロイドーシス(DRA)はBMGの変性と蓄積の結果であり、RAのような破壊的な関節疾患の原因となる。

・Jandoulらは、 BMGのアミロイド沈着が以前に臨床的に受け入れられていたよりもはるかに早く、大関節に検出可能であることを報告した、すなわち HDの最初の2年以内に患者の21%で、 その後の2年間で33%で、HDの7年後に90%以上で。

・HD患者においての血清MMP-3レベルの上昇には2つの機序が考えられる、DRAによる関節の炎症と破壊の過程でMMP-3の分泌を促進する、BMGの直接刺激により滑膜線維芽細胞からのMMP-3の分泌を増加させる。

 

・HD患者では、血清MMP-3とCRPとの間の解離をもたらし得る。それは炎症状態に関与する複数の要因が存在する可能性がある、すなわち 尿毒症自体および、酸化ストレス、尿毒症毒性、非生体適合性の透析装置、血管アクセス感染症、 劣った無菌操作透析と透析液バックリーク、 などの透析関連因子、など

 

参考文献

Nephrology (Carlton). 2008 Apr;13(2):104-8.

Nephron. 2002 Dec;92(4):817-23.

 

 

SLE

 

・Kotajimaらは全身性エリテマトーデス(SLE)患者124名と他の全身リウマチ性疾患を持つ237名の血清中のMMP3レベルを調べ、高いMMP-3レベルを有する患者頻度は、SLEで76%及び関節リウマチで82%であった。SLE患者におけるMMP-3レベルは193.0+/-171.5 ng / ml(平均+/- SD)。 MMP-3レベルは、永続的蛋白尿、細胞円柱、抗二本鎖DNA抗体、C3減少、 クレアチニンクリアランス減少(p

・SLEにおける血清MMP-3レベルの増加は密接にループス腎炎に関連する臨床的特徴と関連している。そしてそれは、この状態の病因において役割を果たしていることを示唆している。

 

・Zhuらは血清MMP-2、MMP-3、MMP-13 レベルがSLE患者において対照群に比べて有意に高かったことを見い出した。しかし、3つの MMPの血清レベルとSLEDAIスコアの間には相関は認められなかった。

 

 

参考文献

Clin Exp Rheumatol. 1998 Jul-Aug;16(4):409-15.

Scand J Rheumatol. 2010;39(5):439-41.

 

悪性腫瘍

 

・Brzóskaらは、COPD患者とCOPD+肺癌患者における関連マーカーを見つけるための研究を行い、血清において有意に高いTIMP1レベルがCOPD群よりCOPD+癌群において観察された。研究グループ間のMMPs (MMP1, MMP2, MMP3, MMP9, MMP12)の血中レベルで統計的に有意な差は認められなかった。また、TIMP1またはMMPの血中レベルにおける遺伝子型に関連する差は観察されなかった。

 

・Yehらはピロリ菌関連胃癌で十二指腸潰瘍及び胃炎を有するものと比較した研究で、胃癌患者はMMP-3、MMP-7の高い血清レベルを有した (P14 ng / ml)およびMMP-7上昇(>4.5 ng / ml)は独立してリンパ節浸潤と相関し(P<0.05)、予測可能性は短い2-又は5年生存率を持つ。

 

・Tasらの悪性黒色腫における研究では、血清VEGF(P=0.034)およびBcl-2レベル(P=0.005)は対照群に比べて黒色腫を有する患者において有意に高かった。しかしながら、黒色腫患者と対照との間の血清MMP-3のレベルに有意差はなかった (P=0.51)

 

・Andishehらは口腔扁平上皮癌の患者においての研究で、健常対照のそれ(5.9±3.6 ng / mlであり、n=45)より、患者での血清MMP-3レベルが有意に高かった(9.45±4.6 ng/ ml、N=45)。 腫瘍の病期、腫瘍サイズ、リンパ節の状態、および組織学的グレードなどの臨床病理学的特徴と血清MMP-3濃度に相関関係は認められなかった。

 

・Origuchiらは、remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema (RS3PE) syndromeでの研究で、血清MMP-3レベルは、 腫瘍随伴RS3PE患者で(平均値437.3 ng/ ml)、腫瘍の伴わない患者 (平均値114.7 ng/ ml) よりも有意に高かった。 (p <0.05)

 

参考文献

Ann Agric Environ Med. 2014;21(3):546-51.

Dig Dis Sci. 2010 Jun;55(6):1649-57.

Med Oncol. 2008;25(4):431-6.

Tumour Biol. 2014 Jun;35(6):5689-93.

Mod Rheumatol. 2012 Aug;22(4):584-8.

 

 

 


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1 コメント

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リウマチの予後 (志智)
2016-03-14 16:46:37
ナノパス34Gさん。(あくまで一般論として)たしかにリウマチ診断当初の疾患活動性としてDASなどの疾患活動性スコアが高い人、リウマチ因子や抗CCP抗体が高値の人はそうでない人よりも 疾患進行がしやすいとの意見が多いのですが、治療開始後6ヶ月目での疾患活動性やCRP値の高いことが骨破壊と関連したという報告もあり、治療開始にて活動性が改善しているのなら、そこまで予後は悪くないと思います。MMP3自体はたいていCRPなど炎症反応と相関するので、両者が高いと疾患活動性も高いのではないかと考え、治療強化も考慮しますし、このブログ本文で書いていますように、CRPや疾患活動性とMMP3が解離しているようなら他の原因も考えると思われます。
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