月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
コメントはゲスト・ルームにのみお書きください。

メラク・24

2014-11-02 07:08:39 | 詩集・瑠璃の籠

ヴァイオリンが ガラスなのは
デリケートな嘘を 壊してはいけないからです
だからウジェーヌは ほんとうにやわらかく
やさしく ヴァイオリンを弾いていたのです

人間が嘘を積み重ねて作った
幻の愛の世界の中で
本当の愛は 
ガラスのようにもろい
嘘の斜塔を 壊さないように
ずっとヴァイオリンを やさしく奏でていたのです

誰も知らないところで
たったひとりで
ただ 愛のみで

遠い都会では
石の仮面をかぶったオーケストラが
それは美しいコンサートを開いている
大観衆を背に
タクトを振っているのは
死んでいるのでも
生きているのでもない
絹のスーツを着ている アルミのお人形

人々よ
信じていた真っ赤な嘘を
あなたがたが蛙のように大合唱していた頃
小さな一つのガラスのヴァイオリンが
ひっそりと世界を支えていたことを
あなたがたはいつか知ることでしょう

黄金の劇場の
雄大なオーケストラと
愛を歌う壮大なオペラは
星々を吐く巨魚のような噴火口の中に
もう崩れてゆくのです
なぜならそれは すべて嘘だったからです

遠い未来か 近い未来に
森の奥に棲んでいる 
小さなカモシカの目の中で
きっと
ふたりのヴァイオリン奏者が出会うでしょう
嘘も真も 愛の前にふたり並んで
よく似たメロディを弾くでしょう

永い道だった 苦しかった
そんなことはもう 言う必要もないほど
ふたつの旋律は 涙の中に
溶けてゆくでしょう



太陽の道も
月の道も



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 欲しかった幸せ | トップ | ウェズン・6 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

詩集・瑠璃の籠」カテゴリの最新記事