小窓につるす 瑠璃の籠に
手を伸ばし 少しプロキオンに触ろうとして
わたしは一瞬 心臓がゆらいで
くらりと倒れそうになった
窓辺に手をつき 息を弾ませながら
めまいがおさまるのを待っていると
ふと 彼の声がした
だいじょうぶですか
わたしは ああ だいじょうぶです
と言った
それと同時に 揺れる心臓の痛みが
次第におさまってくるのを感じた
ああ やっぱり
とわたしは言った
いつもわたしの心臓を
支えていてくれているのは あなたですね
おや 今更きづいたのですか
と 彼は言う
わたしは 心臓が軽くなってくるのを感じながら
言った
不思議だ
あなたときたら
時々 まるでわたしには理解できないほど
かけ離れていると思うときがあるのに
こうしてそばにいてくれると
まるで わたしと同じようで
気付かない
ふ
それと同じ言葉を
そのままあなたに返しましょう
ほんにあなたは
まっすぐに素直かと思えば
気に入らぬことがあると
ぷいと横を向いて
頑として言うことを聞かぬ
はは
とわたしは思わず笑った
こういうことを 言うひとだ
だがうれしい わたしは
ひとりではないことが
こんなにうれしいと 思うのは
わたしが今 生きているからでしょうね
そうでしょうねえ
われわれはいつも 地球で生きるとき
切ない孤独を噛む
いつも どことも知れぬ
なつかしい故郷を恋う
なぜかわからぬが 自分がいつも
ほかとはちがう生き物のような気がしている
ええ ずっとわたしも
そう思ってきた
一体わたしの故郷はどこだろうと
遠い星を見つめていた いつも
いつか帰れますよ
ええ でも今は
生きます
生きなくては
ええ
ありがとう 友よ
わたしと ずっといっしょにいてくれましたね
遠い昔からずっとそばにいてくれましたね
おや 今更気づきましたか
ずっと 見ていましたよ
あなたを
ああやはり
だれもあなたを ひとりにしません
あなたが どんなに傷つこうと
ひとびとをみすてないように
ありがとう
いつか 帰りましょう 故郷に
そこは
あなたの心にある 果てしなく白い雲の原だ
空には星がめぐっている 優しい星が
ともに 帰りましょう
ええ いつか
わたしは小部屋の床に座り
小窓から空を見た
夜空に小さく星が見える
プロキオンが 静かに鳴く
いつか帰ろう 懐かしい故郷に
それまでは ここで歌おう
月の岩戸の白い小部屋で
コル・スコルピイ
さそりの心臓は まことに赤い