渓流で逢いましょう 
フライフィッシングつれづれ日記
 



ワンキャスト、ワンヒットのうわさは仲間内にとどまらず
いつのまにか雑誌やTV番組の取材まで舞い込み
仕舞いにはロッドメーカーからスポンサーの話まで
でも無論断るしかない
このロッドだから釣れるわけだし・・

そこそこ有名人になってしまい、ちやほやされて僕は有頂天になっていた

でも
『お前、最近ずいぶん変わったよな』
『顔色が悪いぞ、大丈夫なのか?』
そう言う仲間もいた

きっと妬んでいるんだろう?
そうとしか思えなかった

昔からの釣り仲間は一人二人と距離を置かれるようになったが
取り巻きはずいぶんと増えた 
そんな状態に僕はまんざら悪い気はしなかった

この竿がある限り僕はずっとこの生活をおくっることが出来るんだ、、
友達なんてこれからも沸いて出てくるだろうし、
基本的に釣りは一人で出来るだろう




そんな中
実家に用事が出来て久々に地元に帰ることになった

久々にあの川で釣りをしてみようかな・・
用件を済ませて地元の川に向かう

この川は僕が子供のころずいぶん釣りをして遊んだ場所だ
でもダムが出来てしまい釣りの良い話も聞かなくなった
僕も就職で地元を離れ、必然的にこの川で釣りをする機会も無くなっていた

それでもこの竿があれば、釣れない事は無いだろうし・・

流れに足を踏み入れてみたがずいぶんと様子が変わっている
少し歩くだけでも泥が舞うような
水量も減ってる

虹鱒くらいはいろうだろう

正直釣りを楽しむロケーションじゃないけど
暇つぶしにロッドを振ってみた・・

いつものように毛鉤を流れに放つ・・

さあ、いつでもドウゾ・・

・・・・

おや?

どうしたことだろうか、魚は食いついてこない
こんなことは初めてだ・・・
どういうことだ??

また竿を振る   やはり魚は反応しない  なんど流しても同じコトだった

もしかして竿の力がなくなってしまったのだろうか・・
不安感が沸いてくる
僕は何度も何度も竿を振った、、それでも 小魚一匹毛鉤に食いついてはこなかったのだ・・

既に数時間上流へと場所を移しなが竿を振るが状況は同じ
ダメだ、、きっと、この川にはもう魚がいないんだ・・
魚道の無いダムが魚たちの遡上を阻み
残った魚も釣りきられたのか、農薬でも流れ込んで全滅したのか、はたまた上流の森の伐採が影響しているのか
何れにしろ、川に魚がいなければどんなに絶対に釣れる竿でもつれるわけが無い・・

そう思って釣りをやめようと岸に向かって歩き出そうとしたとき
意思に反して僕はまた流れに向きなおしていた

ん?なんだ
体が勝手に・・・  

いつの間にかキャストをしている

止まらない・・いったい何が起こっているんだ??

僕の体は何かに操られているかのように自動的にキャストを繰り返す
なんとか抵抗しようと思っても竿は手に張り付いたように離せない

いったい何なんだ!!止めてくれ!!!

でも腕は勝手に竿を振り、足は勝手に上流へと歩みだす
とまれ、とまれ!!
  




もずいぶんとあたりも暗くなってきた  何時間こんなことをしているんだろう
毛鉤なんてとっくに見えない  もう釣りをやめたいんだ・・
いないんだよ、もうこの川には魚はいないんだよ・・・

それでも釣りをやめられずに川の中を上流へ上流へと這いずり回り
真っ暗闇の中、ひたすらに竿を振り続けている
魚は一尾も反応してくれない  いや、反応があるかどうかなんて僕には既にわからない・・

もう疲れ切って抵抗する気力もなくなっていた
糸で吊られた操り人形だ

不意に背中の辺りに何かの気配を感じた
必死で顔を後ろに向かせようと、首に力を込める
ようやく少しだけ動かせたその視線の先に見えたのは・・

僕の肩口
真っ暗な闇の中に青白く浮かんでいたのは・・見たことも無い青年の顔
悲壮感極まりない表情の男が僕のことなど目もくれず
ギリリと歯を食いしばり
真っ暗な闇の先の見えない毛鉤の方向を真っ赤に血走った目で凝視している

ああ、やっぱりそうなんだ、、僕は竿に篭った作者の怨念に取り付かれているんだ・・
こいつは魚が釣れるまで釣りを辞めるつもりは無いんだ・・魚なんていないのに・・

疲労と恐怖と絶望
僕の精神も既に常軌を逸していた

・・もうわかってくれ、、この川には魚なんていないんだ・・

それでも釣りは終わらない
ひたすら闇の中を上流へ、上流へと竿を振りながら進むだけだった・・
アチコチと体を岩にぶつけながらも、すでに四肢の感覚さえ失いつつあった


何も見えない
何も聞こえない
何も感じない
生きているのか死んでいるのかもわからない

いっそのこと殺してくれればいいのに・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その次に見えたのは青空だった
木々の間から垣間見えた青空



どうやら川原に仰向けに倒れているようだ・・

体が痛い・・ 
痛みと疲労感で動かない体を無理やり動かしてようやく起き上がった
すっかり日も昇っている  
竿はいつの間にか手から離れていた

でもここはどこだ?

いったいどれくらい上流までさかのぼったのだろう
こんなに細い枝沢
見たことも無い風景に驚きながらも
ようやく竿の魔力から開放されたことに安堵した

のどの渇きに耐えられず沢の水をガブガブと飲んだ・・
そして不思議に思った

どうして釣りを止められたのだろう・・?


恐る恐るリールを回してラインを回収してようやく気が付いた

毛鉤には小さなイワナが食いついていたのだ
ピチピチと跳ねる小さなイワナ


お前、釣れてくれたんだ・・・





いや、
お前、この川で生き残ってくれていたんだ・・・・




・・・あとがきへ・・・






















コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
連載の (SilverDr.)
2007-06-15 22:46:45
楽しさを久しぶりに感じています。
最終回は必ずあるのに、終わって欲しくないストーリー
って、いいですよね。


7月第3週末、海峡超え予定です。
なんか早過ぎるようですが、これが今シーズン最後の
国内遠征かなぁ~
 
 
 
了解です!! (NaO)
2007-06-16 09:25:17

3週末ですね!
了解です!!!
再開楽しみにしております~~

話も最後まで読んでいただいてありがとうございます

その後がちょっとあります
今夜にでもUPいたします(^^
 
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