渓流で逢いましょう 
フライフィッシングつれづれ日記
 



絶対に釣れる竿なんてありえませんよ・・

やっぱり冷静に考えるとありえない
少しムキになって言い返した僕に、店主は笑顔でこう言った


『いいえ、この竿は本当に絶対釣れる竿なんですよ、、
どんなにスレた鱒でも、そこに魚がいる限り、この竿から放たれた毛鉤には食いつくんです
何故って?理由なんて知りません、、でも、本当なんです。。 
職人は、他の竿は売ってもこの竿だけは手放さなかったそうで、いつも自分で使っていたそうです
そして、この竿は、その職人が亡くなった時に手に握られていた竿・・
実はその職人は釣りをしている最中、川で流されて亡くなったのですが
岸に打ち上げられてもこの竿だけは握ったままだったそうです
よほど大切だったんでしょう、、
きっとこの竿には職人の魂と無念がこもっているのかも知れませんね・・
その思いが魚を引き寄せるのかも知れません、、』

そう言われてからもう一度竿を見た
薄暗い照明に照らされて怪しく浮かびあがる竿のシルエット
背筋にゾゾっと悪寒が走った
でも魅力というか魔力というか、そう聞くと竿は冷たい宝石のように、いっそう存在感をかもし出していた・・

手にとって振ってみたい・・
まるで妖刀に魅入られたように、そんな衝動が突き上げてくる
いや、刀じゃなくて妖竿か・・

もしも本当に絶対に釣れる竿じゃなかったとしても、既に僕はこの竿の虜になっていた
どうしても手に入れたい気持ちを抑え切れなかった
いや、この竿が僕に握られることを望んでいるかのようだ・・

この竿は譲っていただけるのですか?

『いえ、非売品です・・職人の思いが強すぎて普通の方が扱うには荷が重過ぎるかもしれません』

それでも、なんとか譲ってもらえませんか?
答えは同じだった

それからも僕はこの店へ足を運んでは竿見る毎日
そういえば、昔黒人の少年がガラス越しにトランペットをうらやましそうに覗いているCMがあったっけ
そんな心境だなあ、、などと思っていた

そんなこと繰り返していた後日、いつものように竿を見ていた僕に店主が言った

『こんなに惚れ込まれた方に使っていただければ、竿も職人も喜んでくれるでしょう・・・』

僕はいったん店を出ると、もよりのATMに走った
出たばかりのボーナスを全額下ろすと店に取って返し店主に渡した
無名の竿に正直ありえない金額だけど
この竿が手に入るならばお金なんてどうでも良かった・・
試し振りさえしていないのに。

帰り際、店主はこう言った
『ひとつだけお願いがあります、くれぐれも川以外では絶対に竿を振らないでくださいね』

僕は竿を抱えて家路に着いた
近所の公園にでも行って早く振りたかったけど店主の言葉を思い出して堪えた
川以外で振ってしまったら竿の魔力が失われてしまいそうな気がしたからだ

週末にはあの川でこの思いっきり振るんだ
僕はその夜、朝まで竿を眺めていた・・






週末、僕はいつもより早起きをしていつもの川に向かった
川に付くやいなや、そそくさと身支度を整えて竿を接ぎ、メープルのリールシートにリールを止めてラインをガイドに通す

毛鉤はいつものトビケラパターン

流れに降り立つとラインをリールから引き出す

グリップのコルクはしっとりと僕の手に馴染んだ
2度、3度と竿を前に後ろに曲げてやるとラインの重みが心地よく手元に伝わってくる・・
いい感じだなあ・・・ 感触にうっとりしながらも何気にシュートした


低い軌道をラインはタイトなループでゆっくり伸びていく
ちょうどブラビの映画のシャドーキャストみたいに・・
するとどうだ、ループに引っ張られる毛鉤に 次々に魚が飛び掛る
手前から順にバシャバシャと一列に数尾も・・  
どの魚も毛鉤には食いつけなかったが
ターンオーバーして着水した毛鉤は流れるまもなく視界から消えた

グッと併せると竿は綺麗に弧を描いた
よってきたのは尺イワナ  嘘みたいな光景にあっけに取られた

それからもどこで竿を振っても大なり小なり必ず魚は釣れた
あんまり釣れすぎてしまうので小さな魚には併せずにやり過ごすほど
この川にこんなに魚がいるとは思いもしなかった・・
僕は終日昼食もとらずに竿を振りまくり、釣りまくった
休むことが惜しいくらいに体が動くのだった。。

帰り道の車の中、腕が上がらないほどだけど、こんに良い釣りは初めてだ
それにしてもキャストが上達したような・・思うように毛鉤を操れる
勝手に腕が動くよう感覚だ

本当に絶対釣れる竿なんだ・・・   僕は本当にそう思った



それ以来僕はボウズの日は無くなった
仲間内でも釣りの天才などともてはやされた
どんなに難しいライズでも、ベタ底に張り付いているスレた魚でも必ず仕留めてしまう、、先行者がいてもお構いなしだから仕方が無い
無論竿の話は誰にも内緒なのだけどね、、

でもどこか違和感は残った
やっぱり腕が勝手に動いているような、、そんな感覚
本当に竿には死んだ職人の魂がこもっていて、僕の体を使って勝手に竿を振ろうとしてるのではないだろうか・・?

でも、そんなことは既に気にならないくらい竿は僕の腕に馴染んでいた
いや、張り付いているというか
まるで竿先の感触が脳に直接伝わっているような、神経的なつながりだ
このいわくつきの竿はもう僕の体の一部も同じ
絶対に手放せないモノになっていた・・




つづく


























コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
妄想族。 (yamada)
2007-06-14 10:12:51
釣り名人でもないし、竿職人でもない。
武士でも無ければ、鍛冶職人でもありませんが、
イメージはそんな感じ。
しかもフライロッドって、日本生まれの道具ではないのだけれど、この2つは近く感じます。

結末はどうなるんだろうか?
あぁぁぁ…勝手に妄想してるだけで幸せ感じます(笑
 
 
 
つづきを読みに来ました (terry)
2007-06-14 23:46:50
引っ張りますね~(笑)
このハナシの展開・・・
どうなるんでしょう。
また来ます(笑)
 
 
 
お二人様 (NaO)
2007-06-15 21:30:03
どもども(^^;
駄文さらして悦に浸っているNaOです・・

先ほど記事をUPしましたが
もう少しだけ先があります・・

引っ張りすぎてごめんなさい・・。
 
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