無知の涙

おじさんの独り言

ハイスクール落ガキ「停学2」

2010年01月15日 | 思い出
「前っ代っ未聞よっ!」

女教師は夏の嵐のように荒れていた。

「停学明けた日に停学になるなんてっ!」


ケンカを止めたハズが、勢い余って相手にケガさせてしまい、遠足が終わったその足で職員室に呼び出されているでごさるの巻。


「アンタのせいで、うちのクラスがまた停学率トップじゃない!生活指導の先生にガミガミ言われるし!きぃっ!」

そう言うと女教師は両の手ので僕の両ほっぺをムンズと掴みチギれんばかりに揺さ振り始めた。

いだだだ!
「ひゅ、ひゅいまひぇん、ひょんにゃちゅむょりはにゃきゃっちゃんへす」

「は?なに?」ようやく手を離す女教師。


「すいません、そんなつもりはなかったんです」正直に。

女教師は砂漠のようにカラカラに渇いたタメ息をついて言った。

「まぁ、事情はだいたい聞いてるわ。確かに全てアンタが悪いわけじゃない。でも実際にケガ人が出てる以上、無罪放免というわけにはいかないのよ、分かる?」

「はい」

フテブテ君が必死に庇ってくれたおかげで、だいたいの状況は担任も把握してくれていた。


フテブテ君のおかげでっつーか、元はと言えばアイツが喧嘩っ早いせいじゃねーか、ちっきしょう。


「と、いうわけで、2週間の停学よ。いいわねぇ、もうほとんど長期休暇じゃない。1ヶ月もあれば世界一周旅行できるわよ」

ぐっ…。


「あ、あと、ちゃんと坊主にするのも忘れないでよ。そんな中途半端なスポーツ刈りじゃなく、ちゃんと坊主にすんのよ、分かった?」

「はい」

「あ、それから親御さんに電話しないといけないわね」

「ちちちょっと待って!先生!お願いします!電話は勘弁してください!停学明けの日に停学になったなんて聞いたら、母ちゃん倒れちゃうかも知れません!親には僕からよく言って聞かせますから!」


「なんでアンタがよく言って聞かせるのよ。」



「先生!ホント今回は悪気は無かったんです。アイツに…俺…」


「…はぁ。分かったわ。確かに結果はアレだけど、イザコザを止めようとした事は認めてあげるわ。それに免じて今回は連絡しない。でも、ちゃんと言うのよ?」


「はい」


ようやく長かった説教タイムが終わりに向かいつつある空気になりホッとしていると、女教師が言い出した。


「ねぇ、アンタ部活は入らないの?それだけ身長があって、力もあり余ってるようだし、スポーツに活かしなさいよ」


いやだ。
ただでさえ1日4時間以上も通学時間に浪費してるんだ(まぁ、まだほとんど通学してないけど)。部活なんかやったら完全に遊ぶ時間がなくなる。

「いや、家まで帰るのに時間かかるから、部活はちょっとやめておきます」


「そう。まぁちょっと考えておきなさいよ。じゃあいいわよ帰って。2週間ちゃんと家にいなさいよ、毎日電話かけて確認するから」


そして僕は職員室を出た。

はぁ。散々だな。
時間は夜の7時を過ぎていた。

田舎なので、夜の7時ともなると真っ暗である。

こんな遅くまで学校にいたことなんてないから、少しは慣れてきた通学路が全く違って見えた。


そんな夜道をとぼとぼと駅まで歩き、改札口に入ろうとしたところで後ろから名前を呼ばれた。

フテブテ君だった。
「何してんだよ、こんな時間まで」と僕は聞いた。


どうやらフテブテ君は僕を待っていたらしかった。
「なんか俺のせいでゴメンな」とフテブテ君は言った。

間接的には悪いけど、直接的には悪くない。

「いいよ別に。ただホントその喧嘩っ早さは少し直せよな」

「直そうと思ってんだけど、すぐにカッとなっちまうんだ」とフテブテくん。


ほんと未だにこの凶暴な男が中学の頃イジメられてたというのが信じられん。

イジメようがないと思うんだけど。


そうして僕らは帰路についた。



――翌日

僕は通学路の途中に潜伏し、フトシ君の帰りを待っていた。

もちろん謝るためだ。

しかし下校時間を1時間過ぎてもフトシ君の姿は見えない。

まさかケガのせいで休んでるのか…?

さっき通りかかったフテブテ君に状況聞けばよかった。

そんな風に悶々と待ち続けていると、ようやくフトシ君が現れた。

しかもラッキーなことに1人だ。


僕はすかさずフトシ君に近づき、その前に立った。

「あ、お前!」とフトシ君は僕の顔を見るなり言った。

「昨日はケガさせてしまって、申し訳なかった。」と言って僕は頭を下げた。


「お前ちょっとツラ貸せよ」とフトシ君はドスの効いたドスい声で言い放った。


あーやっぱそうなるよね。


つづく


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