太宰治というと何故か人間失格ばかりが取沙汰されてしまい、そのせいなのか一般的に太宰というと暗いというイメージを持たれている気がする。
それが何十年も不思議で仕方がない。なぜ人間失格なのだろうか、と。太宰の作品の中でそんなに秀でた作品だろうか?
1回読んで面白くなくて、しばらくしてから再チャレンジしてみたけどやっぱり面白くなかったので、それっきり読んでいない。最後の最後でお手伝いさんか誰かが痛み止めか何かのカルモチンと下剤のヘノモチンを間違えて買ってきて、下剤を飲んでしまった主人公がこれはカルモチンじゃなくてヘノモチン!とツッコミを入れつつ自分で笑ってしまったという部分だけ面白かったので、そこだけ妙に覚えている。
他にも太宰というと斜陽や火の鳥なんかも有名だが、個人的な感覚だけで言わせてもらえば太宰治は長編よりも短編の方がはるかに面白いと思う。
落語の影響を受けたと謂われているその文章は非常にユーモアに富んでいて、読んでてつい笑ってしまう。それが光っているのが主に短編で、どういうわけか長編になるとそれが影に隠れてしまう。
もちろん短編だって文章のベースは彼の抱える様々な問題から構成されているので、表層的には暗く重い印象を受けるが、だからこそ文章の端々に散りばめられた彼のユーモアが光るのではないかと思う。
短編の中でも所謂私小説というのか、15年間や苦悩の年鑑、富嶽百景、東京八景、佐渡、故郷の津軽を題材にした幾つかの短編が特に好きで、何度も繰り返し読んでしまう。
他にも特に太宰のユーモラスな面が垣間見える作品が、鉄面皮、美男子と煙草、畜犬談、黄村先生言語録、それに今回映画化されたグッドバイ。八十八夜も傑作。
グッドバイ実写化は本当にナイスチョイス。この作品は本当に笑えるし、映像化に向いている。
とある男性が複数の愛人たちと綺麗に別れる為に、愛人たちよりも綺麗な女性を妻に仕立てて、その妻を連れて愛人らの元を行脚し、彼への想いを断ち切らせようとする話。
だが、この妻に仕立てた女性が外見は絶世の美女なのだが、口が悪く、素行悪し、おまけに大食漢、あげく怪力という、なかなかの大物で、2人の掛け合いが本当に面白い。
この主人公を大泉洋、絶世の美女を小池栄子が演じるわけだが、ちょっと喜劇に寄せすぎではないか?と思った。女性はいいとして、男性はもう少し2枚目というか、憂いのある方が演じた方が面白いんじゃないだろうか。
試しにそのキャストでグッドバイを読み直してみたら、なるほど、大泉さんしかないですね、と納得。もう映像が脳裏に浮かぶ。
ただ1つ気になるのが、この作品は大変惜しむらくも未完の作品である。この連載の途中で太宰がこの世からグッドバイしてしまったからだ。
苦悩の年鑑か15年間で彼はこう書きしたためている。人生をドラマと見做していた。いや。ドラマを人生と見做していた、と。これは彼の生涯、作品を読み解く上で重要なキーワードだと勝手に考えているが、最後まで太宰治らしいというのか、なんというのか。
映画ではさすがに原作通りに終わるわけにはいかないだろうから、途中からオリジナルのシナリオが展開されると思うので、ちょっとこれは観に行かなくてはと思います。どういう結末に持って行くのか気になる。