針を落としてすぐにわかるアート・ペッパーのアルト。
まるで目の前で吹いているかのようなリアル感がここでも発揮されている。生々しさと天才的なアドリヴ表現においては右に出るものがない。
この作品はアート・ペッパーのリーダーアルバムではないけれども、彼の代表作として位置づけてもいい傑作だ。
有名なのは2曲目の「You and the Night and the Music」かもしれないが、私は5曲目の「Over the Rainbow」がお気に入りである。わざと短いフレーズに区切って表現する彼独特のフレーズに痺れてしまう。
リーダーはご存じマーティ・ペイチ。
アート・ペッパーとは旧友で数多くの共演盤がある。彼はピアニストであるが優秀な作・編曲家として有名だ。特に編曲の妙技は特筆すべきものがあり、以前ご紹介したメル・トーメの「SWINGS SHUBERT ALLEY」や自身の「踊り子」など、大編成のアレンジにも長けている。
ペッパーの天才肌とは少々意味が違うが、彼もまた与えられた天性を見事に開花させているジャズメンなのである。
但しこのアルバムはカルテット形式だから、編曲もさることながらどちらかというと演奏そのものに力を入れているように聞こえる。
よく聴いてみると、ペイチのピアノは実に柔らかく暖かい音を奏でている。まるで全てを包み込むかのようだ。
そんな彼のピアノに後押しされてペッパーが伸び伸びと吹奏している様が見てとれる。この関係が実にすばらしい。
ペイチと聞くと、とてもクールで知的なイメージを抱いてしまう。
どちらかというといつもは主役ではなく、舞台裏の演出家といった感が強いからだ。
私はそんな彼に憧れている。そんな生き方がしたいのだ。