ぶらっとJAPAN

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目黒区総合庁舎建築ガイドツアー ~ 村野藤吾の傑作建築 ~

2015-05-28 23:52:11 | 関東

元千代田生命保険本社屋。

実はこの向かって右手側に同じ形のビルがあります。ガイドさん曰く、「会社的には一棟でよかったんだけど、藤吾氏が『2つあった方が美しいでしょう』と主張して2つ作った」とか。凄すぎます、村野藤吾。

 

 本日は少し趣を変えて、東京都目黒区の総合庁舎のご紹介です。

 この建物は元は千代田生命保険相互株式会社のビルだったのですが、2000年に同社が経営破たんし、その後目黒総合庁舎として生まれ変わりました。日本高度経済成長期の建築家、村野藤吾の代表的建築として知られています。村野氏の代表作といえば、日生劇場ですね。

 なぜいきなり村野藤吾? と思われるかもしれませんが、実はこの方、私が最近ぶらついてる大阪北浜周辺のダイビル本館や、綿業会館の建築に携わった人です。

 晩年は兵庫県宝塚市にお住まいで、あの「どこの国?」と思うぐらい豪華な宝塚市庁舎の設計をなさってます。一度通りがかったことがありますが、最初何の建物かわからず、市庁舎と聞いて2度びっくり。その時カメラ持ってなかったので写真でお見せできないのが残念です。いつかまた、行って撮ってきますね。

 で、話は戻りますが、目黒美術館の主催で、この総合庁舎の建築ガイドツアーが行われているのです。近代建築のツアーなんて珍しいですよね? 一体何を見せてくれるのかと、参加してみたわけです。

 いくつかのグループに分かれて見学し、それぞれにガイドがついてくださるのですが、私のグループのガイドさんは設計事務所に勤める建築家の方。開口一番「僕は、ここは世界一美しい建物だと思っています」とおっしゃった。

 えええっ、そんなに?

 まずはガイドさんの惚れっぷりに度肝を抜かれました(笑)。

 これは屋上から撮ったものですが、生命保険会社時代は正面の木のところまで敷地だったそうです。

 

 入り口のキャノピー。この屋根の形と柱(裾にむかってひろがっている)のデザインもマーベラス!なんだとか。

・・・すみません、建築素人がしょっぱなに聞いたもんでわけがわからず、良い感じのキャノピーの写真がありません(^^;)

 さらに冒頭の写真に見られますR(アール)の形が、これまた奇跡的に美しいんだとか。この微妙なRのラインは誰にでもひける線じゃないそうです。

 素人考えだとコンピューターで四角を描いて角を丸めればいいんじゃ? て思うのですが、それではこのラインは出ないんだとか。

 

たしかに、デジタルでない温もりを感じますね。

 さて、エントランスホールに入りますといきなり天井にこんな窓が。

保険会社時代はこの下に豪華なじゅうたんが引かれていたとか。今は真っ白な大理石っぽい床です。

エントランスから建物に入る脇にはこんな素敵なステンドグラスも。

 外観もそうですが、村野藤吾氏はRの魔術師といっていいくらい、曲線がお上手だそうで、いきなり目にはいる階段もこんなに優雅。

 今は安全のために(公共施設はお年寄りや子供も使うので)無粋なプラスチックで補強されてしまってますが、どうぞこのラインの美しさをお楽しみください。

「ぜひ階段の『裏』をみてください!」とガイドの方がおっしゃるので激写。「このラインの美しさったらない」んだそうです。ほぉっ。ガイドさん、惚れてます。

 これだけいろんなことが発達してれば、階段の設計でもある程度のマニュアルがありそうなものですが、ガイドの方曰く、幅や高さやバランスなどこんなきれいな階段を作るのは至難の技だそうです。確かに美しいですが、誰にでも作れないってのが不思議。ゴッホやレンブラントと同じ線がひけないていう感覚なんですかね。村野氏の時代は、CADとかそういうのもまだなかったのかな。設計図はフリーハンド?(ま、定規はあったか) なんかカッコイイです。

地下一階からの景色。実はこの敷地は結構高低差があるらしく、複雑な配置になってます。

この石は「心」という漢字を表しているとか。

「まるでベニスのよう」とこの景色を評したかたがいらっしゃるとか。

 地下一階は、以前は社員のレクリエーション施設みたいになってて和室がたくさんありました。長くなるので割愛しますが、障子のデザインとかオシャレでした。で、その奥になんと茶室があるのです。

自然の木とモダンな柵のコンビネーション。

奥に茶室が見えますが、屋根が鉄製なのお分かりになりますか?

 藤吾氏は鉄鋼関係のお仕事をなさってた関係で、鉄の特質を熟知してたとか。誰よりも自在に操ることができたので、このように和風な茶室と組み合わせて使ったりしたそう。

 そういえば、茶室には京都の老舗『唐長』の壁紙が使ってあったのですが、代々受け継がれてきた貴重な古い版木を使っているとのことでした。唐長さんが普段はしまいこんであるのをエラそうな爺さんが(藤吾氏のことです。ガイドさんが言ってました(笑))ずかずか上がり込んで探し回り、「これがいい」と指示したとか。昔の版木で摺ってるからところどころすり減って線が切れてるところとかあるんですよね。それがまたいい味になってる。写真撮ってみたのですが、薄暗いのでうまくピントが合わずうまくいきませんでした。

  この後、また外に出ていろいろ見せていただいたのですが、長くなりますのでこの辺にしておきます。以前はヘンリームーアの彫刻があったり、滝や川などがあって区民憩いの場となっていたようですが、残念ながらなくなってしまっています。やはり全く元のまま、という訳にはいかないようです。

 藤吾氏は大変長命で、90歳を超えてなお現役で仕事を続け、亡くなった時はポケットに未来日付の航空券が入っていたとガイドさんが言ってました。そこまで働き尽くせるって羨ましいですね。

 ガイドさんは最後に個人的にお気に入りの景色、というところに連れていってくれました。そこは、あのR(アール)がとても美しく見えるところで、こんなにこの建物を愛せるガイドさんこそが素敵だな、と思いました。

 いい仕事したいですね。私もがんばろうっと。

 


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