山崎蒸留所にある鳥井信治郎と佐治敬三の銅像。
なにげなく手に取った日経新聞に、サントリーの創業者・鳥井信治郎氏を主人公にした小説の連載が始まっていました。
伊集院静氏の『琥珀の夢』。
ナイーブで内省的な小説家というイメージの伊集院氏と、こてこての商人・鳥井信治郎氏の組み合わせが面白く、すでに連載開始から10日が過ぎていましたが、古い新聞をひっぱり出して頭から読んでみました。
大大阪時代の魅力を語った導入に続いて、物語は自転車屋の丁稚だった経営の神様・松下幸之助少年と、寿屋と名前を変え、葡萄酒を売り出し始めたばかりの鳥井信治郎との邂逅から始まります。
(蛇足ですが、松下少年が奉公していた「五代自転車店」は現在の中央区淡路町にありました。先日ご紹介した「芭蕉終焉の地」の久太郎町は目と鼻の先です。)
松下氏ご本人が、後に公式の場で披露したこともある有名なエピソードなので、二人のやりとりは実際のものに近いのではと思われますが、
「人々はこの地に夢の華を見たのである。その夢が夢で終らないところに、この大阪の強さと底力があった。」と描写される大阪の活気の中、ひたむきに商売に打ち込む鳥井信治郎は、葡萄酒の瓶が綺麗だと松下少年に褒められて気を良くし、商いへの情熱を語った後、同じ道を進むであろう松下少年に、
「坊(ぼん)、気張りや」
と、励まします。
実際、松下幸之助は頭を撫でてくれた掌のぬくもりとともに、この言葉を生涯忘れなかったそうです。
副題に「小説・鳥井信治郎と末裔」とあるので、このあと息子の佐治敬三氏まで話は続くと思われますが、伊集院氏初の「企業小説」、この先どういう展開になるのか楽しみです