![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/50/31/acee880389b48a0bbdf3e81ed0bd57a6_s.jpg)
Hさん宅の見事なウメの花=Yさん撮影 春ですね。
○ 前回掲載した「私と音楽」(その2) 2nd VnのSさんよりご投稿いただきました。
コンサートに出たい(その2)
・・・「ふりをすればいいんです」
私の夢は、思いもかけないほど早く実現しそうになった。近所に、オーケストラに参加している奥さんがいて、私にも入れと言うのである。そこは、初心者歓迎で団員を募集している、自分も習い始めて1年で参加したので、大丈夫だと言う。躊躇する私に、それらば、練習を見に来いと言う。それには異存がなかったので、私は、オーケストラの練習というものを初めて見に行った。
その日は、パート練習が行われており、私が連れて行かれたのは、第二バイオリンの集団の中だった。全体的に若い人が多く、みな気のいい人達であった。「運命」を練習していたが、その中の一人が私に、「入るなら、早い方がよい。初めは弾けなくても、段々出来るようになる」と言う。そして何か月か後の「運命」の演奏に加われと言うのである。私は、「お言葉はありがたいが」と婉曲に断ると、驚くなかれ、別の一人が私にこう言ったのである。「なに、弾けないところは、弾いているふりをすればいいんです。」
一瞬、私は言葉を失った。しかし、魅力のある勧めでもあった。私の夢がいとも簡単に実現してしまうのである。私は、「運命」を演奏する自分の姿を想像した。しかし、やはり、弾いているふりをしながら演奏をすることは、どう考えても耐えられそうもなかった。私は、「自信がついたら、是非参加したい。ただ、それにはまだ時間がかかるだろう」というようなことを言って、練習会場を辞した。
その半年後、演奏会が行われ、私は聴衆の一人として出掛けた。私に入れ入れと勧めた人達も、近所の奥さんも、必死で演奏していた。私は、まばらな客席から、精一杯の拍手を彼らに送った。
・・・「強く、大きく」
なかなか上達しない私に、先生は、私の一番の欠点は、弓の動きが小さいことだと言う。弾いていて、自分の耳にうるさいと感じるほど大きな音で弾け、ギーギーいっても気にするなと言うのである。
大きな音を出すには、できるだけ弓を上から下まで万遍なく使うこと、それから弓と弦の間に圧力をかけることが必要である。私は、できるだけ大きな音で弾くように心掛けた。汚い音がしたが、乗り越えなければならないと思った。
すぐに家族から抗議の声が出た。「恥ずかしくて表を歩けない」というのである。この言い分はもっともであると思われたので、その後、自宅での練習の際には、なるべく消音器をつけることにした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
かくして、私の夢の追求は続いている。
深い意味はないのだが、私はひとまず3年間と思っていた。つまり、3年やってものにならなければやめようということである。始めてからそろそろ2年の歳月が経つ。先生は、口癖のように「バイオリンは、音出し3年といいますから」という、慰めとも何ともつかないことを言う。時々「音出し5年」と言い替えることもある。その言に従えば、私の楽器はまだ音が出ている状態にもなっていないことになる。
この気持がいつまで続くかは、私にも分からない。恐らく、私の夢は永遠に叶えられないものなのかもしれない。それはそれでよいような気持に最近はなっている。
(以上は、私が50代でバイオリンを習い出した頃に、職場の文集に掲載した文を抜粋したものです。現在、私は、CSEに入り、仲間の方々と楽しく演奏しています。私の夢は、ほぼ叶えられたと思っています。) -完-
(Teddy Bear)