井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

折れた弓

2015-01-19 20:39:26 | ヴァイオリン

ちょうど「カヴァコスは上手いなぁ」と動画を視ながら思っていた矢先、「ビバおけ」で弓が折れた事件を知った。

信頼していた楽器屋さんに「折れました」なんて言われた日にはショックだろうなぁ。しかも一千万円の弓、訴訟になってもおかしくはない。

ただ、ちょっと気になるのは、ヴァイオリンを弾く側には問題がなかったのか、ということ。

楽器商や楽器職人サイドから見ると、折れる限界まで酷使していたのではないか、という推測ができる。

というのも、その昔、それに類する話を聞いたことがあったからだ。

私が最初にヴァイオリンの弾き方を習った時、弓はダウンの時にスティックを向こう側(指板側)に倒し、アップの時は倒さずに垂直に立てて使うように言われた。

その後、何人目かの先生からは、元で弓を倒して弾き始め、先にいくに従って段々起こしていくのがダウン、アップはその逆で、元に近づくにつれ段々弓を寝せて使う、と言われた。

いずれも間違いではないし、後者が一番合理的だと思う。

ところが、弓を倒したまま弾く人が意外と多いのだ。これは超一流からアマチュア演奏家まで、幅広く存在する。

率直に言って、弓に対してはとても悪い弾き方になる。ずっと斜め方向から弓を変形させる力が働いているわけだから。

実際、そうやって変形する弓が修理に持ち込まれるらしい。

たまりかねて、とある修理職人が言ったそうだ。弓を寝せて弾くとどうしても変形するから、弾き方変えませんか、と。相手は日本を代表するヴァイオリニストの一人。

すると「だって、スターン先生がこう弾けって・・・」

そんなの、もう死んじゃったんだから・・・と職人さんは思ったようだけれど、まぁ、直接言われたら呪縛が解けないのはわかる。

要するに、アイザック・スターンも弓を寝せて弾いていた訳だ。これが悪い弾き方と、正面きって言える人はいない。

もう一つ、譜めくりや、ちょっとした弾かない時間に、弓の中ほどを持つ癖がある人、その人の弓はその「持つ所」のスティックが「へたって」いる。黒ずんでいる。弾力性が落ちいている。これも職人さんを嘆かせる要因だ。

こういう弓も、見ればわかる。

カヴァコスの話に戻ると、彼もずっと弓を寝かせて弾くタイプで、しかもかなり圧力もかけている感じがするから、弓にはかなりの負担がかかっていそうだ。実際、それで変形した弓を直してもらおうと思ったのだろう。

だから、カヴァコスが弓をダメにしているのは、ほぼ確実と思われる。

悪いのはヴァイオリン弾き・・・

という結論を、ヴァイオリン弾きが出す訳がない。

上述の通り、弓が変形しているのも、ヘタレているのも、見ればわかるはずだ。

一流の職人ならば、弓を見せられてすぐに「カヴァコスさん、これかなり状態が悪いですよ。恐らくちょっと力を加えるだけでパキッといきますよ。」とでも言って、つっ返すか、そのリスクを確認してから修理に入ると思う。

カヴァコスさん、変な職人さんに見せちゃったね・・・と、・・・

あれ?

悪いのはヴァイオリン弾きの結論になってしまった。いかんぜよ。



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