井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

鼎華章(ていかしょう)

2018-09-14 19:29:26 | 井財野作品
オンド・マルトノという不思議な電気楽器がある。
正直言って、いずれシンセサイザーに全て変わるだろうと思っていた。

ところが北九州市に一人だけ、その演奏者がいらっしゃって、それを目の当たりにすると、シンセサイザーにそう簡単には移行できないということがわかった。
あの自由自在なポルタメントとビブラートはオンド・マルトノでしか表現できない、と思った。

それで「よし、オンド・マルトノのための曲を作ろう」と思って書いた曲である。

ところが、なかなかアイディアがまとまらず、曲の提出期限が迫る一方のある日、台湾へ家族旅行をした。

そんなことしてる場合か、と言うなかれ。

台北で現代音楽の演奏会があり、その視察も兼ねていたのである。

その演奏会では、チャイナ系民族楽器と西洋系楽器とのアンサンブルで、6曲演奏された。

同行した妹曰く「打楽器系の音楽と旋律系の音楽に分かれるね」、「できれば旋律系の音楽を作ってほしいね」みたいなことを言っていた。

何気ない感想なのだが、これがかなり強く影響してしまう。やはり兄弟、同じように思ってしまうからである。

調性の有無に関わらず、歌う部分があってこその音楽、ではなかろうかと、台北の現代音楽を聴いて確信した。

「どんな曲にしたものかねぇ」「やはり台湾幻想でしょ」

そこまで安直には考えなかったけど、生まれて初めての台湾には、かなり刺激を受けた。

せわしないとも言えるが、エネルギッシュな人々、そして複雑な繁体字。
食堂をいちいち餐廳と書くのだ。
その書き方だと、とても美味しいものが出てきそうな雰囲気を感じる。

それで選んだ漢字が【鼎】
かなえの意味で、三本足で立つ器である。
ヴァイオリンとピアノとオンド・マルトノの三重奏曲なので、ちょうど良いと思った。

そして、中華民国の華、楽章の章をくっつけた。
とにもかくにも、井財野の初オンド・マルトノ作品である。
「歌う」作品ではあるが、所々拍子が変わってスリリングな曲でもある。

それもあってか、初演は何だかわからないうちに終わった。できれば、もう一回やりたいところだが…。