「私も音が勝手に減衰する楽器をやってみたかった」とあるヴァイオリン弾きが言っていたそうだ。
これは、(うがった見方かもしれないが) その人が右手でかなり苦労していることを物語っている。
弦楽器の弓は、普通に擦れば、音はだんだん大きくなる。バロック時代は、それを標準の音として考えて訳だ。
「そうでない音を作り易い弓がほしい」とViottiは思ったのだろう。途切れないデタッシェが可能な弓が登場する。
Viottiはモーツァルトと3歳違いだが、Viottiデザインの弓がスタンダードになるのは、大体ベートーヴェンくらいからだ。
そしてその頃から「減衰する音」が標準音の一つになると言えるだろう。
そう言えば、ピアノという楽器が普及し始めるのもそのあたりになる。
逆に、ピアノの普及を目の当たりにしたViottiが、ピアノと合奏しやすいような弓が必要だと思ったのかもしれない。
さらに興味深いのは、音楽の中心がイタリアからドイツ=オーストリアに移っていく時期とも重なっていることだ。
チェンバロのアタックは鋭いがヴァイオリンの響きと合わせると、程よい「子音」の役割を果たす。
一方ピアノは、チェンバロに比べると残る響きが随分と豊かである。
それぞれ前者がイタリア語、後者がドイツ語と相似形だ、と言ったら言い過ぎだろうか。
それはともかく、独墺系の音楽が主流としての力を持ち、ピアノ音楽がやはり主流になるにつれ、弦楽器もドイツ的だったりピアノ的だったりする音の出し方が要求されるようになったと言えるだろう。
そして、弦楽器はバロック時代にはなかった音の出し方「アタックの後、減衰する音」をマスターする必要が生じた訳だ。
大変だけど、嫌な人はピアノをやって下さい、ということかな。
ヴァイオリンの皆さん、がんばりましょう。