井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

ホルスト : 「火星」(戦争をもたらす者~組曲「惑星」)

2012-06-13 07:29:45 | オーケストラ

今年は金星蝕などの天体ショーの多い年、残念ながら当地は曇りにて「金環蝕」は見れなかったのだが、そんな年にふさわしく、オーケストラ授業ではホルストの「火星」をとり上げることができた。

もっとも、それは偶然で、この曲を演奏したのはユーフォニウムをやっている学生のためである。昨年度、ファゴット・パートの代理でかなりがんばってくれたので(連続するトリルを見事吹き通した)、卒業の今年くらい何かやりがいのあるものを、と思った。

ユーフォニウムは吹奏楽では欠かせない楽器だが、オーケストラには定席がない。ユーフォニウムを使う曲と言えば、ラヴェル編曲の「展覧会の絵」やマーラーの交響曲等、非常に限られる。

この組曲「惑星」も、ユーフォニウムを使う代表的な楽曲だ。

しかし、ティンパニを6台、ホルンを6本使う4管編成、というのは別の障害だった。

が、ものは相談、ティンパニ奏者の学生Iさんに尋ねてみると、2年生のI君と組めばできるかも、ということになった。

2年生は授業を履修はできないが、そのように助っ人として出演は、当のIさんも経験している。

では、ということで、他にもトランペット二人、テューバ一人が2年生から参加、ホルンの一部はサクソフォンで代用、と相成った。まがりなりにも体裁は整いそうである。

とは言え、6台のティンパニのための曲を3台のティンパニでどうやるのか?

これはペダルを駆使して、とにかく何とかしてしまうという、大変興味深い「ショウ」が展開される。

多分、この曲を一番楽しんで演奏したのが、このティンパニ・パート。「桜の巻」ではヴィオリストとして出演しているI君の雄姿がおわかりいただけることと思う。

また、中間部になると、初心者集団のチェロ・パートから、極めてイントネーションの安定しない音が聞こえてくる。普通は頼りない印象を持つものだが、「戦争をもたらす者」のことを考えると、戦争を前に不安におののく市民の心情を表現しているようで(生演奏だと顔の表情も不安におののいていて)、意図せぬリアリティを以て迫ってくるのが、意外におもしろかった。

一方、他のパートからは、案外不満の声が・・・。

「こんな低い音、吹いたことありません。」

とは第3トロンボーン嬢。中学から吹奏楽をやっていて、そんなことあるのか? (結局、助っ人のテューバ君に代奏させていた。)

大学にはいってからヴァイオリンを始めた第2ヴァイオリン嬢からは、

「つまらなーい」

確かにずっと「ソ」の音が続く。しかし君たちはちょっと難しいとたちまち弾けなくなるではないか、つまらなくても弾ける曲の方が有意義だとは思わないかね?

技術的に演奏できて、しかもおもしろい曲というのは、そうそう存在しないのである。

また、今回改めてスコアを学習してみると、聞いただけでは全く考えなかったことが頭をよぎる。

「この曲は、何調?」

ほとんどが「ソ」の音のオスティナート(執拗音型)なので、ト調だと思っていたが、最後は低音に「ド」音がくるのでハ調のようにも聞こえる。

しかし、最後の和音はド・ソ・レ・ラで構成される「四度和声」というものでハ長調でもハ短調でもない。

ハ調とト調がせめぎ合う構図が、まさに副題「戦争をもたらす者」を彷彿とさせる。

ト調陣営とハ調陣営が互いに主張してぶつかり合う、つまりはト調とハ調の「複調(バイトナリティ)」と考えるべきなのだろう。

複調というと、ミヨーなどのどうにも落ち着かないものを想起する。それですたれてしまったように思うが、このような世界の表現には、まさにぴったりだったのだな、と改めて感心した筆者であった。

本番で張り切りすぎて出番を間違ってしまったユーフォニウム君もいるけれど、そのあたりはご愛敬ということで聴いていただければ幸いである。

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