華氏451度

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「世論調査の陥穽」ということ

2006-03-04 00:40:57 | マスコミの問題


1か月以上前になるが、ある集会でテレビ・ジャーナリズムの現状に関する話を聞いた。報告(提言)者は放送ジャーナリストの岩崎貞明さん(元テレビ朝日、現『放送レポート』編集長)。提言は大きく3つに分けられ、その1つが「世論調査の陥穽」について。岩崎さんはNHKがおこなった2つの世論調査を取り上げて、世論調査を鵜呑みにする危険性を語った。

1)分類の恣意性
昨年1月、NHKスペシャル『シリーズ憲法』で憲法改正世論調査がおこなわれた。その結果は9条を「改正すべき」と「改正すべきでない」が共に39%だったが、実は「改正すべき」のうち約3分の1〈11%〉は「軍事力の放棄をもっと明確にすべき」という意見であった。つまり、同じく改正を望むと言っても、「自衛軍を創る・集団自衛権を認める」と「非武装を徹底させる」という逆方向の意見があるわけで、「これを一緒にカウントするのは変」と岩崎さんは指摘する。

2)「やむを得ない」という言葉
今年1月、『おはよう日本』でおこなわれた消費税世論調査。「公務員削減など徹底した歳出見直しの上での、税率引き上げはやむを得ない」が59%を占めたという。これについて岩崎さんは、「やむを得ない、という言葉は世論調査で使うべきではないし、この言葉が入った調査は信用してはいけない」と語る。なぜならば「やむを得ない」という言葉を使われると、私たちは「自分の考えは違うけれども、世の中の動きはそうなのかも知れない。ま、仕方ないのかな」と思い、ついそこに賛成してしまうから――であるという。

でもって、以下は私の感想。
まず(1)について。こういったカウントを恣意的と見るかどうかは意見の分かれるところかも知れないが(単なる無神経、かも知れない)、いずれにせよ「世論調査」には指摘されたような乱暴な面がある。人間が何かを選択する時の理由はさまざまである。朝食を食べない理由、会社を辞めた理由、犬を飼った理由、結婚しない理由、……何でもいいが、10人に聞けば、10人全部バラバラとまでは言わないが4つ5つ異なる理由が出てくるだろうし、微妙なニュアンスの差まで含めれば多分みんな違っているだろう。それらをひっくるめて「朝食を摂らない人が30%」などと数値化されてしまうと、たちまち多くのものが見えなくなる。

人が何かを選択する場合、重要なのは「なぜか」という理由である。理由抜きでイエスかノーかを尋ねた調査や、理由を聞いたとしてもそれを軽視して数字的な結果だけを発表した調査というのは、危険きわまりない。

(2)についても、なるほどと頷いた。「賛成」「反対」「場合によってはやむを得ない」という選択肢を示されれば、よほど確固として賛成あるいは反対している人以外、「やむを得ない」に引きずられてしまうだろう。

日本人は他に同調しやすいとか、横並び体質であるなどとよく言われる。確かにそういう面もあるのかも知れないが、「やむを得ない」という言葉については少し違う見方もできるような気がした。提示された問題によっては100%賛成、または100%反対であると即答しにくいものもある。さまざまなことを考えれば考えるほど答えが難しくなるのだが、調査では多くの場合、「これこれならば賛成で、こういう意味なら反対」などと細かな回答を求められるわけではない。それで考えあぐねた揚げ句、最も無難な「やむを得ない」を選択することが少なくないのでは……?

上記の調査のように「……した上で」などある程度具体的な(具体的に見える)言葉がなく、単に「場合によっては」と片付けられていたとすれば、特にそうだ。「場合によって」の中身を、皆が個々バラバラにイメージするからである。だから「やむを得ない」という答えの中には、「99.99……%賛成」から「99.99……%反対」まで含まれると考えてよい。極端な話になってしまうが、「人間が人間を殺すのは絶対にいけないと思いますか」と聞かれた時、「絶対いけないに決まってるけどなあ。でも自分が殺されかけ、必死で突き飛ばしたら打ち所が悪くて相手が死んだ、などというのはやむを得ないだろうなあ」と思っている人も、「戦争の時は話が別」と思っている人も、「世の中にとってためにならない奴は殺してもいい」と思っている人も、「場合によってはやむを得ない」という答えになるだろう。

世論調査が悪いとは言わない。「多くの人の声」は聞いた方がいい。だが、その調査の結果を見る時は、私たちはよほど注意しなければいけないだろう。選択肢の作り方や、「やむを得ない」といった言葉の利用で、いくらでも恣意的な結果を出すことができるのだから……。

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6 コメント

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質問紙調査のABC (村野瀬玲奈)
2006-03-04 01:39:54
私が学生の時、社会心理学で質問紙調査の実施方法など学びましたが、質問項目や回答の選択肢を作る時には注意しなければいけないというのは基本中の基本でした。「自衛軍を創る・集団自衛権を認める」と「非武装を徹底させる」を同じカテゴリーで集計するなんて、めちゃくちゃです。この場合は回答の選択肢の作り方の問題というよりも、結果の集計の問題かもしれないですけど。
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世論調査は世論操作 (みやっち)
2006-03-04 07:49:41
TBありがとうございました。

政策や支持率などに関する調査結果については、マスコミがどのように世論を誘導したいのかという見方をするようにしています。

そもそも、市場調査などと違って何を目的に世論調査をしているのかがわからないですから。多数意見に流されやすい日本人の意識をコントロールするのに、世論調査結果の公表ほど便利なものはないですからね。

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Unknown (かぜ)
2006-03-04 10:21:24
TB・コメントありがとうございました。



あいまいな世論調査は、国民を破滅方向に導く道しるべになるような気がしますね。
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なるほど (luxemburg)
2006-03-04 13:25:14
最初の「改憲」はそんなひどいことやってやがるのか、くらいの感じでしたが、、「やむをえない」は、なるほどなあ、とおもいました。考えてみたらそのとおりですね。さすがは華氏451さん。
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やむを得ないはやむを得ない (うん)
2006-03-15 16:46:09
思うのですが、『やむを得ない」だと消極的賛成を意味しますね。自分は反対でも世の中賛成なら「仕方ないかな」と反対する意思を放棄しています。



こういう人は、積極的でないというだけで、結局は賛成に回りませんか?



日本人は曖昧な国民性を持っています。アンケートの質問にもそういう「曖昧な要素」が含まれるのはある程度は許容するしかないと思いますよ。
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Unknown (華氏451度)
2006-03-15 22:41:18
村野瀬さん、みやっちさん、かぜさん、luxemburgさん、うんさん、コメントありがとうございました。



えっと……うんさんのおっしゃっている「日本人は曖昧な国民性を持っている」という話について――よく聞くことですが、私はそうは思っていません。確かに微妙なグラデーションを重んじるような文化や、日常においてもさりげない表現みたいなものを用いる習慣があるとは思いますけれど、それは「国民性として曖昧」ということとは違うのではないでしょうか。「曖昧な国民性だから」という言葉で自縄自縛状態になることを私は恐れます。
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