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ゴミ置き場の隅っこで野良猫ムルが丸まっているところに、トマシーナがひょっこり顔を覗かせた(※)。
トマ「兄貴、おっひさしぶりぃ~。」
ムル「ん? ああ、トマ公かよ……」
トマ「そんなとこで、なにしんみりしてるのさ。」
ムル「しんみりしてるわけじゃねぇよ。もう寒くて寒くて。せめて風を除けてるんじゃねぇか」
トマ「兄貴ったら、じじむさいなあ。そんな年じゃないでしょ?」
ムル「うるせぇやい。猫は寒がりなのっ。猫はコタツで丸くなる、って言うじゃんか」
トマ「コタツってなーに?」
ムル「げっ……最近のガキはコタツを知らねぇのかよ……。ま、いいや。ほんと久しぶりだよな。元気だったかい」
トマ「うん。まぁね。華氏がバタバタしてるもんで、ご飯食べたり食べなかったりだったけど。それはそれとしてさぁ、人間の世の中って、ほんとヘンだよね」
ムル「な、なんだよ、いきなり。人間の世界のケッタイさなんて、別に昨日今日始まったことじゃねぇだろうが」
トマ「そりゃそうかも知れないけどさ、変だなぁって思うことが、どんどん溜まってくるんだよね」
ムル「いっちょまえなこと言いやがるなぁ。で、いったいどういうことが変なんだよ、おまえから見てさ」
トマ「だからさ、いっぱいあるけど……たとえばさぁ、最近ていうか、ちょっと前から、新聞とか毎日『守屋、守屋』じゃん?」
ムル「ああ、防衛汚職ってやつか。で、それのどこが引っかかるってんだよ」
トマ「うーん。いや、もちろん守屋ってオッサンはひどいなあ、ろくでもない奴だなあ、って思うよ、僕だって。て言うか、人間て汚いことするんだなあという典型だよね。僕ら猫世界じゃあ、考えられないことじゃん?」
ムル「ま、そうだよな。猫に賄賂はねぇもんな。賄賂ってのは、権力ふるえる奴がいて、そいつに取り入ったらズルイことができる、っていう世界でしか成り立たねぇもんなあ」
トマ「でしょ? ああいう話が出てくるっていうのは、人間の世界がそういうズルが出来る構造になってるってことじゃん。その辺の……根本って言うの? オオモトのとこをダメじゃんって言わなきゃいけないのに、たまたま守屋っていう汚いオッサンがいて、山田洋行だっけ、ズルイことすうる会社があって、あいつら悪い奴ですよね~見たいなことで終わってるんじゃないかって、僕はそんな気がするの」
ムル「おまえの言ってることは混線してよくわかんねぇけどさあ……つまり、悪いのは守屋というオッサンと山田洋行っていう会社だけヨ、みたいな雰囲気が気にくわねぇってわけかい?」
トマ「気に食わないってのとも、ちょっと違うけど。そりゃさ、何度も言うけど、あのオッサンもあの会社も悪いのは確かだよ。弁護の余地ないよ。ただね、僕はさ、あのオッサンもあの会社も、『表に現れた汚いもの』なんだなって気がするわけ。やったことは徹底的にダメって言わなきゃいけないけど、個的な悪事で終わらせちゃいけないんじゃないかなあ」
ムル「おまえの言ってること、ますますわからなくなってきたぜ。……ほんともう、おまえは語彙が乏しいからなぁ」
トマ「ほっといてよ~~。モノゴトを自分の血肉になってもいないむつかしい高尚な言葉で説明してみせるなんざ、恥ずかしいことだって兄貴もいつも言ってるじゃんか。僕はこれで精一杯なのっ」
ムル「わかったわかった……続けろよ」
トマ「あのさ。悪い部分を切りました、だから残ったところは綺麗ですって、そういう話はよくあるじゃん? 全体が腐ってるんじゃないかって何となく感じたりする時って、特にそういうことがあると思わない?」
ムル「うん……ま、変な言い方すれば、すごくいい事件だったかもな。ひでぇ役人がいたってのは政府にとってマイナスだけど、それをしっかり摘発しました、反省もしましたってことになれば、善男善女は安心するわな」
トマ「福田さん、いいヒトだね、って?」
ムル「おまえは単純だなあ……ま、そこまで単純じゃねぇだろうけどさ。マイナスをプラスに転化できるかどうかというのは、ひとつの勝負所だよな」
トマ「それにさぁ、今、すっごく気になることって、防衛汚職だけじゃないじゃん? 新テロ法案とか、人間が気にしたほうがいいことって、いっぱいあるじゃない。それが霞んじゃうんじゃないかなぁ、とかも僕は思うわけ」
ムル「新テロ法案とかに特別に敏感にならなきゃいけない、というわけでもないとおいらは思うがね。それこそ個別の課題に振りまわされることになっちまうだろ。何がよくて何が悪いのか、生きるってどういうことか、何を目指すのか、生き物のモラルって何だろ、……とかその他何でもいいけど、本質的なことというのは多分、どういう問題を通してでも考えられるとおいらは思う。防衛汚職も新テロ法案も知らなくても……いやまあ、知ってるほうがいいに決まってるけどよ、それはモノゴトを判断するには情報は多いにこしたことないっていう話でさ」
トマ「うん?……」
ムル「テレビ観ない新聞読まない、今の総理大臣の顔も名前も知らない、ケータイ持ってない、パソコン使えない、難しい本読むとすぐ眠くなるなんつーバアサンでもさ」
トマ「きゃはっ。華氏のおっかさんだ~」
ムル「バカ、話を逸らすなっての。ともかくそういう状態でも、日常のホントちっぽけなことから、本質を見通したりするのさ。今の日本の人間って、情報追うのでいっぱいいっぱいなんじゃないかなぁ、なんて気もすンだよなぁ……」
トマ「話の筋道が変わってきちゃったけど、たしかにその辺も考えちゃうよね。続きは明日」
ムル「ま、明日か明後日か……そのうちに、な」
※トマ=都の東北を縄張りとする年齢不詳のボス猫。トマシーナ=華氏宅の居候で、ムルの腰巾着。通称トマ。