華氏451度

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靖国問題に関する基本線

2006-07-22 01:50:28 | 非国民宣言(反愛国心・反靖国など)

 昭和天皇の靖国神社A級戦犯合祀に対する不快感を証拠立てるメモが発見されたというニュースがあった。

【昭和天皇が1988年、靖国神社のA級戦犯合祀(ごうし)について「あれ以来参拝していない。それが私の心だ」などと話したとするメモを、元宮内庁長官の富田朝彦氏(故人)が残していたことが20日、分かった。昭和天皇は戦後8回、靖国神社を参拝したが、75年11月を最後に参拝していない。メモからは、昭和天皇がA級戦犯合祀に強い不快感を示していたことが読み取れる。】(7月20日、時事通信)

 この問題について新聞報道や閣僚発言などが相次ぎ、何人ものブログでも扱われていた。私自身の所にTBいただいたり、私も参加しているUnder the SunへTBが入っていて読んだものとしては、たとえば「日本がアブナイ!」、「反戦な家づくり」、「お玉おばさんでもわかる政治のお話」など(追加――記事書いた後で、「とりあえず」でも取り上げられているのを発見)。これらを読んで戴く方がためになると思うが、そんなこと言っているとブログ書いてても仕方ないだろ、の話になってしまうので一応私も書いておく。

〈明月さんの記事より〉

「反戦な家づくり」の明月さんは、次のように書かれている。

【私もそうなのだが、もともと天皇制に反対していると、この天皇の発言に対してどう反応して良いのか、迷ってしまうかもしれない】

 私もまさしくそうだったのである。天皇が「快」であろうと「不快」であろうとどちらでもいい、というのが私の基本的なスタンスだ(現天皇の憲法を守ってうんぬんの発言があっても、だからと言って現天皇を護憲の旗印にしようとは思わない)。「天皇の言葉」は諸刃の剣。そういうメモがあったという事実は押さえておきたいが、鬼の首でもとったように騒ぐのは「ちょっと待てよ」とも思う。

 だが、次の文を読んで、ある種の「意味」(それも考えようによっては大きな意味)は存在するかも知れないと思い直した。明月さんは小泉首相と記者団のやりとりを紹介し、「それぞれの心の問題」という言い逃れを厳しく批判する。そして次のような意見を述べておられた。

【安倍やつくる会などの極右勢力は、「A級戦犯は無効だ、犯罪人ではない」という類の詭弁を繰り返してきた。ここで、そのデタラメ見解へのなし崩しを許さずに、安倍自身の口から「A級戦犯は犯罪人」と言うことを確認させたのは大きい。】

【民主も共産も社民も、迫力無さ過ぎ。これで一気にコイズミと安倍を引きずり降ろそう、くらいの気力が無くて何の野党か。】

 確かにその通りである。天皇を崇拝しつつ、東京裁判は誤りであったと言い、A級戦犯を犠牲者のように語る人々は、この天皇発言についてどんな見解を持つのだろうか。小泉流にいつまでも「心の問題」ですませておくわけにはいくまい。

 

〈私の基本的な考え方〉

「日本がアブナイ!」のmewrun7さんの記事の中に、次のような一文があった。

【私個人はA級戦犯を分祀することによって中国、韓国が批判しないように
なれば、首相の靖国参拝はOKになってしまうという解決の仕方をされるのには、
疑問を覚える部分がある。】

 私も同じような危惧を強く持つ。むろん、A級戦犯が祀られているというのは大きな問題であるけれども、A級戦犯さえ分祀されれば、それで何の問題もなくなり、すべて丸く収まるのか。そうではあるまい。B級C級はどうなのだ、という議論もあるが、それよりも私は靖国神社の思想そのものが一種の「危険思想」だと思っている。これが靖国問題に関する私の最も基本的な部分、と言ってよいだろう。

 靖国神社は、神社自身の説明によると「最初は戊辰戦争で斃れた人達を祀り、後に国内の戦乱に斃れた人を合わせて祀り、明治10年の西南戦争後は外国との戦争で日本の国を守るために斃れた人達を祀ることになった神社」だそうである。同神社ホームページには「(靖国神社に神として祀られている人達は)日本を守るためにその尊い命を国に捧げられた」という言葉があり、また「靖国神社にお祀りされている英霊を奉慰顕彰するとともに、そのみこころを受け継ぎ、健全なる国民道徳の作興と国家社会の安泰に寄与する」という目的の会「靖国神社崇敬奉賛会」も組織されている(名誉会長は靖国神社宮司)。同会では「名誉の戦死」を讃えたり「国民は靖国神社に象徴される愛国心を持つべき」などのテーマの講演やセミナーなどがおこなわれているようだ。「天皇の赤子(せきし)」として1銭5厘(ハガキ代)で徴兵され、死を強要された人々を「英霊」と讃え、その死(国のために死ぬこと)を美化する思想がここにはある。

 私は徴兵されて戦場に行った人々を非難する気はない。彼らが「国を守ろうという純粋な気持ち」を(たとえ教育や意図的な報道によって一方的に刷り込まれたとしても)持っていたのも事実であると思う。しかしその死を美化してはいけない。美化するのはむしろ、彼らに対して失礼なことではないか。彼らの死を悼むのであれば、二度とそんな馬鹿馬鹿しいことは繰り返さないと決意し誓うべきであろう。(もちろん戦死者だけでなく、戦災で亡くなった人々を始め戦争によって直接間接に命を奪われた人々すべてに対して)

「A級戦犯を合祀しているからよくない」と主張する人は少なくない。たとえば民主党の岩國哲人・衆議院議員。彼は昨年、大阪高裁の判決があってすぐ、自身のサイトで「A級戦犯合祀後は天皇の参拝は1度もない」ことに触れ、「亡くなられた方への追悼の意を、そして今後の平和を願ってというのであれば、総理大臣以上に、日本人にとって大切な天皇陛下という国民統合の象徴、その方こそ先頭に参拝されるべき」であり、天皇が参拝しない神社への参拝に固執するのは「天皇から認証された行政の長として、国民統合の象徴である天皇に対する不敬行為ではないか」と書いている。かなり多くの賛同を得られそうな意見――ではないかと思う。(で、あるがゆえの危険性についてはここではいったん置く)

 ひとまず「A級戦犯の合祀に天皇さえ不快感を示している神社に、なぜ首相が参拝するのか」という線で政府を追及するのは悪くない。追及すればするほど、ボロが出てくるに違いない。だが、それだからこそ、私は同時に自分自身の中であらためて念を押しておきたいのだ。「国のために命を落とすことが尊いなどという思想を掲げる神社は、きわめて危険な存在である」と。(国、というものについては何度か書いている。最も近いところでは7月14日のエントリにも少々)

追記/私はどんな「危険思想」や「風変わりな思想信条」も、存在を否定、抹殺しようとは思わない(そのことは、何度か書いていたような気がする)。たとえば「天皇は神であり日本は神国である」と信じようと、「日本をアメリカ合衆国の51番目の州にしてもらいたい」と望もうと、「△△教の教祖・△師は世界の救世主」と崇めようと、「働けなくなった老人は姥捨て山に送るべきだ」と考えようと、「一夫多妻(または一妻多夫)がいいなあ」と憧れようと、「人間は他の動物と同様に裸で暮らすべきだ」と思おうと。そして同好の士?が集まって気勢を上げている分には、いくらやっていただいても結構である。他人に説くのも、まあ結構(違うと思えばこちらはそう言うだけである)。しかし、そういった奇妙な考え方を国中の人間が持つべきだとなれば迷惑だし、「公僕」に持たれるのも困る。所属する人間の命を犠牲にしてまで守る国(ここでは国体という意味に解釈していただきたい)など、無い。あるいは存在してはならないのである。

追記2/「戦死者の遺族の気持ちを考えたことがあるのか」(靖国神社の否定は遺族の気持ちを踏みにじるもの)という言葉がある。私はそれを聞くと、死刑廃止を唱えるたびに投げかけられる「遺族の気持ちうんぬん」という罵倒を連想してしまう。死者を悼む感情を利用してはいけない。

(ところどころ文字が大きくなっているのは単なるミステーク。面倒臭いからまだ直していないだけである……すみません。私は普段はテキストを使っており、HTMLはちょっと使いにくいもので)


 

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12 コメント

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靖国の意義 (布引洋)
2006-07-22 11:45:39
靖国神社の意義(存在価値)の混乱(間違い)がある様です。

『右』は戦没者を慰霊して当然だ、と主張。

『左』はA級戦犯合祀の靖国参拝は違憲だ、戦前は軍が管理する宗教軍事施設で、国に命を捧げることを強制、美化することが目的、主張しています。

『右』の主張は靖国は、慰霊ではなく顕彰の場所なので実際言葉上も間違っていますが、左右を問わず大事な本質を見落としています。



日本には元々、非業の死(尋常でない死)を遂げた霊魂は現世(生ている者)に祟ると言う、怨霊信仰が広く信じられていました。

恨みを抱いてで死んだ霊魂は死に切れず怨霊となってこの世に留まるのです。

飛鳥時代に日本に入ってきた仏教も怨霊信仰と結びつき、死者の魂(怨霊)を現世と離脱(解脱)させ成仏させると言う、世界に例を見ない形に発展していきます。



靖国とは天皇(国)の為に死んだ怨霊を天皇(国)が慰霊する神社なのです。



周辺国が反対するのが判っているのに何故歴代の日本国政府関係者が靖国に行くのか。

キリスト教徒の大平や靖国参拝を批判していた社会党の首相が参拝した理由は、大勢の保守政治家が何故参拝するのか。



物事を合理的に理解しょうとする『左』は侵略戦争を美化している、憲法違反だ、国際条約に抵触する、諸外国に対して問題が有る、個人の宗教の自由を侵している、などの色んな理由を主張していますが、靖国参拝を決して止められません。



今度の天皇発言メモは、問題の核心を突いています。

靖国神社は天皇が参拝してこそ意味が有るのです。天皇参拝が無い以上、それに変わる首相参拝は絶対必要条件なのです。

理性で判断しょうとする『左』と、情念で行動する『右』では初めから議論が噛み合うはずが無いのです。



解決策として靖国神社を皇居内に移し、一般市民は遠く外から拝んでもらう様にするのが一番良いでしょう。

現状の儘なら政府関係者(首相)は頭巾を被るとか真夜中に参るとか世間に知られないように参拝すべきです。(昔の貴人はそうしていた)
Unknown (弥助)
2006-07-22 11:57:11
陸軍、海軍の統帥者・大元帥として戦争責任の中軸をなす昭和天皇が自らの責任を免れるためには、アジア太平洋戦争は、東條、松岡、白鳥らに諌言を弄されやむなく許可したに過ぎない、と言い訳をするか、あるいは八紘一宇、大東亜共栄圏の理念、構想に自ら賛成したもののその戦略、戦術において東條、松岡、白鳥らの稚拙かつ誤った方法に対して、自らの至らなさ故に追認せざるを得なかった、と言い訳する以外に手立ては無かった。



マッカーサーは占領と同時に昭和天皇の政治利用をその政策の中心におき、天皇制存続と引き換えに、沖縄の永久米軍基地化、アジア反革命の軍事的担保としての日米安保を強制したのだ。



こういう史的事実をもとにしてみれば、昭和天皇のA級否定発言もきわめて政治的な発言としてみることが出来る。



少なくとも靖国反対論者は、この天皇発言に根拠を求めてはならない、と思います。

人前でマスをかかないでね (ブルージャスティス)
2006-07-22 19:50:02
元々、日中の間で戦争責任は軍指導部を中心としたA級戦犯ということで、折り合いをつけたんだろ。

だからA級を合祀した事に中国が腹を立てていたわけで、今回の昭和天皇の発言をエクスキューズにして分祀すれば、日本も中国もメンツを潰さず上手いこと行くんじゃないかな。

ドイツも悪いのはナチスで、ドイツ国民は被害者だって立場だろ。

おまえの言ってる戯言はA級戦犯マンセーしてる右翼と一緒で、現実をみてないオナニーだ。

Unknown (華氏451度)
2006-07-23 04:29:59
ブルージャスティスさん;

はじめまして。あなたはface-to-faceのコミュニケーションでも、初対面の相手をいきなり「おまえ」呼ばわりしますか。貴君と私は「チュトワイエ」の仲ではありません。敬語など使っていただこうとは毛頭思いませんが、もう少し普通の言葉でコメントしていただきたい。





Unknown (布引洋)
2006-07-23 14:52:33
思うのですが華氏さんの文章は今時の若者には長すぎて理解出来ないのでは。?

漫画世代、メール世代の人は、昔のような長い古典小説は読みません。

長い文章を読み解く能力に欠けています。新聞なども内容よりも見出しが読まれています。小泉が支持される筈です。

長文を読む楽しさを知らない若者には、文章を幾つかの段落に分けて、見出しを多くして読みやすくする必要が有るでしょう。(少しため息)
Unknown (華氏451度)
2006-07-23 16:12:53
布引さん、いつもありがとうございます。

考えてみれば、読んでもらおうとする努力が欠けておりました。自分自身の中で所詮は日記、覚え書きの類だから……という意識があったようです。
長文を読めない若者たち (kaetzchen)
2006-07-23 22:03:38
速水さんの『他人を見下す若者たち』にならって,あたしも上記のような新書本でも書くかな。



# 実は編集者から依頼があってまる5年,放ったらかしにしてあったりする……。



携帯メールって,mova とか au とか vodafone だと,長いメールが送れないんですね。私は FOMA ユーザーなので,パソコンを携帯してない時は FOMA からPCへ原稿のテキストを飛ばすことが多いんだけど,ここの goo ブログと同様半角10000字しか打てないのが不満。それでも他の携帯ユーザからはメールが切れたと良く文句を言われます(笑)



そうそう,ここにも私あての揶揄TBがいっぱい入ってますので,おひまな時にでも削除されておいて下さい。どうせゴミですから(笑)

トルストイやドストエフスキーが読まれない (kaetzchen)
2006-07-23 22:14:57
布引さん,こんにちは。そういえば,ちょっと前に,長編小説が売れないんですよと古本屋のおやじに愚痴られたことがありました。特にロシア文学が嫌われているそうです(笑)



# 新潮文庫の「カラマーゾフの兄弟」3巻本がたったの 300円だった!



そいえば,岩波文庫も入荷しませんねと振ると,持ち込む人もいなくなりましたとの話。持ち込まれるのはHマンガとすけべ DVD ばかりで商売と割り切って裏市場に流してるそうです。



まぁ,岩波現代文庫とか講談社学術文庫のようなまともな文庫本が新刊で1000円超える時代だもんなー。哀れに思って,☆一つの岩波文庫を定価の3倍で買って帰りました。(^^;)

宗教法人としての靖国神社 (kaetzchen)
2006-07-23 22:22:05
の収支報告を見ると歴然としているのですけど,21世紀に入って急激に財務の悪化が顕著になっています。当然これは日本遺族会などの寄附が老齢化・死亡によって途絶えたことが大きく影響しています。



つまり,高齢化問題はそのまま,靖国神社のサバイバルゲームと言い換えることが可能になるのです。現在,靖国神社の主な収入源は隣の賃貸ビルの家賃と博物館入館料収入に頼っている状態だと言っても過言ではありません。



となれば,布引さんが最初に提案されたように,靖国神社は江戸城へ移築させるのが最も良い。情念で動く右翼からは高額の拝観料をせしめて宮内庁の予算に繰り入れれば良い。他の官庁に民営化を押し付けて組合を潰しておきながら,宮内庁だけ聖域化というのはおかしい理屈だ。

靖国神社の思想そのものが一種の「危険思想」 (愚樵)
2006-07-24 20:02:26
華氏さん、こんばんは。

危険思想とは人々を戦争へ駆り立てる思想だとすると、「靖国思想」は明らかに危険思想です。靖国が創設された時代は、戦争が必要だ考えられていた時代でした。その時代の遺物ですから、それは当たり前のことです。

靖国は天皇の人間宣言と同時に宗旨替えをするべきだったのです。「顕彰と鎮魂」から「顕彰」を除くべきでした。国家思想の体現として創設された神社であったのなら、国家思想の転換と軌を一ににすべきでした。

日本人はどうも宗教についての認識が甘すぎるように思います。人の内心の自由は侵すべきではありませんが、どのような形であれ秩序を維持する際に宗教が「機軸」として必要です。民主主義という思想もこれまた宗教です。

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