見ないフリ

一時的な対応策にしかならない現実逃避をずっとするブログ

エモーショナルが分からない

2021-08-29 | 生活
年をとっているのは確実に私のようである。電車の車掌や、床屋の職人や、あるいは巡査、といった、いわば「目上」の職業の中に、自分より年下の人があらわれるようになったころから、私は年をとり始めたのだと思う。大学生なんていうのも、なんとなく老成した人びとだと思っていたのだが、いつの間にかただの子供っぽい連中に変質してしまった。

ー伊丹十三『女たちよ!』より


あれは確か、PUFFYが『アジアの純真』で衝撃?のデビューをした頃だったと思う。
父親が「最近の若者が使う『やばい』の感覚が分からない」とボヤいていたことがあった。

「悪い意味で使う『やばい』は分かるが、この頃は良いことに対しても『やばい』と言っている。あの感覚がさっぱり分からん…」

そんな父の言葉を、近ごろよく思い出す。


なぜなら私も、最近の若者が使う「エモい」の感覚がぜんっぜん分からないから…!

「やばい(=good )」が分からない、と嘆く父を見て、当時中学生だったわたしは「え?なんで分からんの?ヤバっ」と嘲笑っていたのに、今じゃもうその父と同じことを言っているという。。。


そもそも「エモい」とは。
英語の「emotional (エモーショナル:感情的な、情緒的な)」という形容詞から来ている言葉で、「感情が動かされた状態」「感情が高まって強く訴えかける心の動き」などを意味する俗語なのだそう。


私が「エモい」という言葉を初めて耳にしたのは、EDMとかウルトラジャパンとか、そういうまったく理解できない音楽界隈からだったと思う(2016〜17年頃?)。

当初は「激おこぷんぷん丸」的にすぐに忘れ去られる流行語だろうと蔑んでいたのだけれど、近年の普及具合を鑑みるに、もしや「エモい」は立派に市民権を得て大活躍している…のか?

英語の「エモーショナル」由来なのだから、日本で生まれ育って日本語しか使えないわたしが理解できなくても問題ない言葉(「わび」「さび」という言葉が日本語にしかないというあれの逆バージョン的な?)、とずっと自分に言い訳をしてきたけれど、そろそろ「エモい」と本格的に向き合わないといけない時がきたのかもしれない。


というわけで、
ここ数日じっくりと「エモい」と対峙して(ヒマ人…)思い出した曲がある。

松任谷由実の『リフレインが叫んでる』(1988)

松任谷由実 - リフレインが叫んでる

1988.11.26 Release 20th Album「Delight Slight Light KISS」収録曲


20th Alb...

youtube#video

 


この曲、CMだかドラマだかで幼い頃に耳にし、それはそれは大層衝撃を受けた。
イントロもサビのメロディーも歌詞もインパクトがデカすぎて、自分は小学校に上がる前の年齢だったと思うけれど、どこか懐かしいような切ないようなまだ見ぬ大人の世界のような、言葉で表せないこの気持ち…と不思議な感覚に陥ったのを覚えている。

この時の気持ちを言葉にするなら「エモい」だったのかもしれない…!
(曲で言うと、Dragon Ashの『Under Age's Song』を初めて聴いた時のあの感情も「エモい」だった気がする…?)

あと、ドラマ『白線流し』や映画『ラブレター』の頃の酒井美紀もわたしにとってはかなり「エモい」存在だった。
少女と女性の中間、あの一瞬の感じにめちゃくちゃ心をつかまれた。




ついでにこれは現在進行形の出来事なのだけれど、
アパートの小さなキッチンに備え付けられている狭いシンクで、大きな鍋やボウルを洗っている時に、毎回、絵本『ぐりとぐら』のどデカいカステラを作る話を思い出す。



この時の感情、
シンクの狭い家にしか住めない惨めさと、絵本の懐かしさと、いろんなものの比率がバグったおかしみとで、頭がグチャグチャになったえもいわれぬ気持ちをあえて言語化するなら「エモい」が適当だと思う。




……なんて「エモい」の使用例をいくつか考えてみたけれど、案外なんにでも使える便利な言葉なのかも知れない。(基本、感情が揺さぶられたことに対して使っておけば良いっぽい)

そして、Wikipediaに記載されていた、
「『エモい』とは古語の『もののあはれ』や『いとをかし』と同じ意味」という内容が何より腑に落ちる「エモい」の説明文だった。

確かに、学生の頃、古文の授業で「いとをかし」の現代語訳が「非常に趣がある」だと習っても、いまいちピンとこず、毎回首を傾げていたけれど、「いとをかし」=「エモい」だと考えるとスッと頭に入ってくる。
『枕草子』も清少納言がエモいと感じたものの羅列だったのか。

ただ、新しい言葉は咄嗟に出てこないので、
今後も積極的に使うことはないでしょう…
(だからって「あはれ」や「をかし」をこれから使うというわけでもない)