「老人タイムス」私説

昭和の一ケタ世代も高齢になりました。この世代が現在の世相をどう見て、考えているかーそのひとり言。

インドネシア版お好み焼きと池波正太郎のドンドン焼き

2013-07-19 06:37:43 | Weblog
友人の女性が横浜市上大岡の京急デパートの催事場で、インドネシア版お好み焼き、マルタバ(Martabak )の造り方教室を開いた。マルタバはアラビア語で”折りたたむ”という意味で、多少、材料や作り方には違いはあるが、インドネシアだけではなく、サウジアラビア、イエメン、インド、マレーシア、シンガポールにもある鉄板焼き料理である。

インドネシアでは普通、マルタバ,トゥルールとマルタバ.マニスの二種類あって、いずれも夜店(パッサール.マラム)の屋台で売られている。”トゥルール”は卵の意味で、小麦粉の皮に卵をいれて鉄板上で延すばし、具にはお好みによって、野菜や肉のミンチなどを使う。一方、”マニス”は甘いという意味で、小麦粉で延した皮の中に餡や蜂蜜などを包みこむ。夜店にはつきものの庶民食である。

戦前の東京の下町では、お好み焼きのことをドンドン焼きといった。作家、池波正太郎は「食卓の状況」の中で”下町で生まれ育った者にとってドンドン焼きほど郷愁をそそるものはない”と書いている。僕は戦前昭和の時代、下町ではないが目黒川沿いの五反田に住んでいたが、駄菓子屋で、ドンドン焼きを食べた想い出があり、やはり郷愁をそそらえる一人だ。

僕が駄菓子屋の鉄板上で食べたドンドン焼きの一つは、まさにインドネシアのマルタバ,マニスと同じだ。まだ幼かったため、割烹着を着た駄菓子屋のおかみさんが手際よく作ってくれたが、その美味しかった味は今でも忘れられない。

今、東京では下町を中心に”もんじゃ焼き”が流行しているが、食通の池波の本にも出てこないし、僕も食べたことがない。不思議だ。いずれにせよお好み焼きもマルタバも自然発生的にうまれた庶民食だ。気取って食べる物ではない。