葦津泰國の、私の「視角」

 私は葦津事務所というささやかな出版社の代表です。日常起こっている様々な出来事に、受け取り方や考え方を探ってみます。

政治を評価される前に選挙を急げ!

2010年06月12日 19時29分21秒 | 私の「時事評論」
  民主党菅内閣の参議院選挙対策
 鳩山内閣で日本の政治はどう変わったのか。
 鳩山首相・小沢幹事長の民主党コンビが、マスコミなどの祝福の中、まるで日本に新しい時代が来るかのように騒がれて、鳴り物入りで発足した新政権が、期待と現実が次々に食い違い、僅かて八ヵ月で政権を投げ出してしまった。彼らが政権を担当したのは僅かの間にすぎなかったが、この内閣が日本国の権威を引き下げてしまった効果だけは、実に大きなものだったと言わねばなるまい。

 私はいま、一般にマスコミなどがこぞって称賛、その後一転して批判しているように、鳩山・小沢の民主党コンビを、日本の政治家として格別にダーティな男、金権にまみれて日本の政治を私物化しようとした悪人だから日本の政治担当者として相応しくないと断罪する声に同調しているのではない。政治の世界だけは、ほかの分野と違って人格者が集まるべきところなどとは思ってもいないし、一般の人が思うように、善人ならば専門知識がなくとも立派な政治家であるなどと考えるのは、国にとって最も危険で警戒すべきことだとさえ思っている。古くは英国のクロムウェル、近年ではイランのホメイニなど、私はそんな政治家を評価したくはない。私は鳩山・小沢政治のもっとも大きな欠陥は、そんな事とは次元の違う、彼らが国政のプロとしての基礎的常識が欠けていたのが大きな欠陥だったと思っている。

 国は単なる無力な仲良しクラブではない。それは所属する国民の生命、財産、領土、生活を守るために、時には個人生活を一部は奪い去るほどの強権を発動してでも国中をまとめて引っ張っていく力と権威を必要とする。それだけの力ががなければ、結局は国民を不安に陥れ、国政は成り立たない。厳しい国の機能を充分に知り、しかも権威をしっかり持ちながらも、国民の精いっぱいの自由な生活を保障するのが、立派な政治家としての力量である。とてもマスコミなどが無責任に言うように、お人好しの指導者ならば、理想の政治ができるというようなものではないのだ。そしてそんな政治指導者としての力量、認識が鳩山さんには欠けていたのが大きな彼の欠点であった。

 お人好しの素人にすぎなかった鳩山首相ー基地移転
 前々回のこの欄での「虹と光」の項でもふれたが、鳩山さんはそんな政治の厳しい側面に関しての知識が欠けていた。我が国の周囲には、日本などは強引に武力や経済力でつぶしてしまってでも、自国の生き残りを図ろうとして厳しくすきをうかがっている国がいくつももある。そんな国に占領されて日本人が主権を奪われ、国民の生命財産を奪われかねない危機は現実に存在している。そんな危機から国を守るのも、政治の大切な任務である。外交だってただの仲良しクラブではない。
 鳩山・小沢ラインの国防や外交路線はひどかった。近隣諸国に媚を売って歩き、それを国際親善と勘違いしたような朝貢貿易のような外交までをここで取り上げる余裕はないが、国防政策の混乱などには、全くあきれ果てさせられた。
 確かに今の我が国の国防体制は危険極まりない状態にある。戦後独立国として自国の国防に力を入れず、いざというとき、守ってくれるかどうかさえ分からぬ米国に自国の安全保障を託している始末だから危ないこと危険千番だ。そして日本が一方的に頼りにしている米国は、日本の防衛に協力するとの安保条約を切り札にして、日本のための防衛よりも、西太平洋やアジア諸国への米国の覇権の維持に重点を置いているとしか思えないように、基地を日本よりも、アジアへにらみを利かせやすい沖縄中心に配備している。決して日本のためとは言い切れない布陣である。
 鳩山さんがこんな米国の防衛体制が、日本国にとっては理想のものでないと感じたのは常識だし理解ができる。だが、そんな状態を日本にとって正常なものにしたいのだったら、その前に、日本の防衛は日本自身の力でやる方針に転換し、日本軍を中心とした独自の防衛網を構築するのが先にするべき仕事だった。戦後の占領ボケで、わが国内には国防などに力を入れるべきでないと反対する者もまだいるが、日本の南方や北方、領海内の島々が周辺諸国に脅かされ、北朝鮮からはミサイルが飛んでくる。不法占有された領土は帰ってこない。次はどうなるかを考えれば、これはすぐに手をつけなければならない問題である。だがそれもせずに、不安ばかりの安保体制をそのままにしてそれに我が国の防衛を託したままで米国の沖縄基地を動かそうとした。そして米国の反対を受けて挫折したのだが、これではつまずくほうが当たり前である。なんでまともな手を打たねばならないことに気がつかなかったのか。これはもう国の政治に無知としか言いようがない。
 基地問題に限らない。すべての民主党の公約は、この種の「どこから手をつっけるべきか」の視点を必要としなければならないものだった。それを順番も定めずに片片たる歪みだけを見て解消しようとして、相手につぶされるのではなく、自分のほうから自滅してしまった。これが鳩山内閣の行き詰まりの原因だった。

 
 鳩山氏の政権放棄を待っていたように素早く動いて、後任の座に就いたのが、それまで民主党の要職に就きながら、鳩山政治には、失敗せぬようにとの助言もほとんどせず、沈黙をして彼の失脚の時期を待っていた同じ民主党の副総裁役の菅直人首相だった。
 今までのんびり眺めていたのに、ここにきて急に動いた菅氏の素早い対応には、明らかに鳩山首相がすっかり国民に呆れられ、人気も最低限にまで落ち込んだのを待っていて、次の座を狙って、かねて準備を固めていたさまがうかがわれた。

 鳩山首相は退任のあいさつで、自らが躓いた原因として、国際権力機構の現実を見ずに、普天間の基地の移設問題で沖縄の住民たちに聞いて回るなどをして、身動きが出来なくなったことと、自らと小沢幹事長がそろって政治資金の問題で国民の大きな批判を浴びて、民主党の権威に傷をつけたことを挙げた。どちらも格好良くなかったが、そのほかにも自ら首相を退かねばならなくなった理由はいくらもあった。

 鳩山内閣は、国会での多数を得たのだが、それまで野党の時代に公式に公約したことを何一つ実現することができなかった。
 自民党の政権を批判して、自民党の予算には6,7兆円以上の無駄使いがあり、民主党が政権をとれば、それらの無駄を洗い出し、簡単に増税なき財政再建ができるとした鳩山民主党の一番の政治主張の柱は、全くの思い違いであったのか、実際に政権をとってみると、実現に少しも近づかず、それとは全く逆に、経済常識を無視したばら撒きで、自民党でもそこまでは踏み込めなかったほどの未曾有の大赤字の予算を組み、国家財政は待ったなしの危機的情勢になってしまった。
 私が最初から、これこそは意味のないばらまき行政の最たるものになると眺めてきた子供手当だってひどいものだ。公約の中で、唯一これだけは新内閣の公約の切り札であるとして実現させてみたが、その子供手当も、本年度だけは無理を承知で子供のないものへの増税を担保に予算化したが、予算が通り、まだ国民にはそれがほとんど支給をされない前に、その継続並びに増額に赤信号がともり、明年以降は、よほどの増税をせぬ限り、維持すら不能との情報が流れ、彼らが絶対しないと公表していた消費税の大幅徴収も避けられない見通しになってしまった。
 その他の彼らが掲げていた公約をみると、大宣伝で取り組んだ高速道路の無料化は、いざ検討を始めてみると、なんと自民党時代よりはるかに厳しい料金聴取体系に変更せざるを得なくなり、医療費や社会保障制度にも前進は見られず、官僚機構の縮小もならず、特殊法人などへの天下りも減らせず、そこからの予算引き上げで当てにした経費の節減もならず、道路や箱モノの縮小は地方経済に致命的なショックを与え、小さな政府構想などは絵にかいたモチになってしまっている。
 国の政治のもっとも基礎となるものは、国民の生命、財産、領土の保持と円滑な国民生活の確保とされる。その側面から現状を見れば、問題ばかりが山積していて、とてもこのコラムには収まりきれぬ。

 菅新体制はどう動くのか   
 後を引き継ぐ菅内閣は、施政方針演説だけは行ったが、鳩山時代に出された数々の公約などは、責任とって引き継ぐ気配も見られなかった。菅首相の演説は、これからの政治には、与党ばかりではなく、野党を含む各党のあげての協力を呼び掛けたところに特徴はあったが、目の前の選挙を意識して、具体的な政策はほとんど示されなかった。どうやら国民は、先の選挙で民主党にだまされた結果には、菅内閣に責任を取ってもらえそうにない。
 報道されている今度の参議院選挙への新内閣と民主党の取り組みを見るがよい。選挙で実現を公約する菅内閣独自の政策などは何一つ見えず、政府も与党も、ただ、鳩山・小沢時代の行き詰まりへの不満が、民主党への人気を下げた状況を前にして、その主犯の首相や幹事長が引退したことにより、政権担当者が代わって、今度は何かやってくれるかもしれないとの淡い期待でもう一度民主党へ人気が自動的に回復して、再度民主党に投票してもらうのが頼みの綱といったところである。そのためには、菅政治の独自のカラーを見せることなしに国会も休み、とにかく政治はこれから、当面は時に触れてのパフォーマンスに終始して、全力で選挙に取り組もうという方針だというのだから、呆れてしまう。国民の生活に対しての配慮などはどこにも見えない。
 新しい首相に交代して、「何か新しいことをやるかもしれない」との期待を国民がし始めているのに、何もやらないうちに選挙をしたほうが有利と判断する新内閣に何が期待できるのだろうか。

 この「何もやらないうちに、選挙をしよう」と決めた政府の姿勢は忘れないでしっかり眺めていきたい。これこそ、菅内閣の本心というべきだと思うからだ。