葦津泰國の、私の「視角」

 私は葦津事務所というささやかな出版社の代表です。日常起こっている様々な出来事に、受け取り方や考え方を探ってみます。

大騒ぎの中で

2010年11月30日 10時13分35秒 | 私の「時事評論」
 北朝鮮を見据えて

 米韓軍事演習があるというので、うっかりすると朝鮮動乱が再発するのではないかと緊張が走っている。
 突然に韓国に弾丸を撃ち込んできた北朝鮮だ。平時においてでもあんな乱暴なことをするのだから、こちら側から挑発的な揺さぶりをかけようものなら、反撃してくるのはほぼ間違いないということらしい。そんな危険が全くないとは言い切れないとは思うが、私はこの軍事演習に限り、危険は薄いと思っている。それは北朝鮮だってい一応は国なのだ。何も分からず気違いのように暴走するだけの先を考えない捨て鉢の国ではない。彼らの軍事行動は自爆テロではないのだ。そう思ってみているからだ。
 ここで北朝鮮が戦争へ走るのではないか。日ごろ、北朝鮮を凶暴な国だとぼんやり眺めているだけなら、そんな気になるかもしれない。国際常識などは常に踏みにじって、強引な無法行為を繰り返す国。日本人を強引に大量に拉致していった事件、飛行機を爆破しようとのテロ事件を起こした国、麻薬取引や偽雑印刷行使の事件をくり返す国、国際条約を守らずに独自の路線を突っ走る国、韓国に対するテロ事件、約束を守らぬ国、数え上げればきりがない。そんな行為ばかりを繰り返している。その延長線上から、そんな危険歳がささやかれるのも、まあ、あり得ないことではない。
 だが、北朝鮮だって多くの国民を預かり、自国の存続を本気で考えている国なのだ。たとえ少々計算が飛躍して非常識で荒っぽく独断的であったとしても、これらの乱暴な行為が、何のために行われているのかを見たら、国が生き残るためにやっているのだということも見えてくるものである。
 残念ながら、今の北朝鮮は、自国内の力だけでは、飛んでもはねても逆立ちしても、まともに国を維持していくだけの力がない。穏やかに国を運営していけば国が維持できるのならば、それほど周辺諸国をいらだたせなくても済むだろうが、凶暴性を示して、国をなだめるためにと、周辺諸国から応援や援助をして貰いそれで国を維持しなければ、とても目先が乗りきれない。そこでこのような手を相次いで打ち出すことになる。
 米国を交渉先に引きずり出し、日本はじめ諸国から資源や財貨を支出させる。中国からの支援に期待する。それがなければ国が維持できないから、けんか腰にならねばならないのだ。その方程式だけはいつもしっかり身につけて眺めるようにしたい。

 北朝鮮は動けないと見るのが冷静か

 「朝鮮動乱を再発させるつもりだな」と、先の延坪(ヨンピョン)島攻撃事件で思わせた北朝鮮に対して、急速に韓国の対抗意識が高まった。米国も威圧外交に屈してたまるかと強い姿勢を示し、最新鋭の原子力空母までをさし向けて威圧の姿勢をとった。腰ぬけの日本の腰ぬけの政府までが、それを後ろから支援する体制をとった。これは日ごろの情報を基にこれらの国を舐めていた北朝鮮にとって、想定外のことであったかもしれない。
 これでは北朝鮮にとって、対決に踏み切ると、一触即発の事態になりかねない。国を守るどころか、国が一瞬にして滅びる危機が迫っているとも見えたのではないか。
 米航空母艦をはじめ連合軍の力は、いま、黄海に集まっている勢力の武力だけででも、北朝鮮の主要都市や軍備を、一瞬にして破壊させるだけのものを持っている。しかも彼らはやる気になっている。また、残念ながら、米韓軍備は向こうからならいつでも北朝鮮全土を破壊できる射程距離内にいるが、北朝鮮のミサイルや航空機では、ほんの少し届かない地点に集まり威嚇演習をやっている。戦争に踏み切れば、中国もロシアも助けてはくれない。
 最悪の環境と最悪の対決意識の盛り上がりのなかで、敵は射程距離の外で軍事演習をやっている。こんな環境であえて北朝鮮は動くのだろうか。放送など、北朝鮮の言葉は猛烈に激しい。だがこれは、攻撃をすれば損だと思って、彼らがそれに力を入れていると見るのが冷静な判断なのではないだろうか。

 飴玉を懸命にちらつかせる中国

 注目するのは中国の動きである。今の中国にとって、非常識な国ではあっても、ここに北朝鮮という国が存在することは利用価値があることなのだ。その国が、ここで一気に衝突に走ることのないように懸命の鎮静化への動きに取り組んでいる。
 中国の狙いは、散々今まで言うことを聞かず、世界に信用を失った北朝鮮だが、もう一度この国を狂気に走らぬ飴玉をやり、しばらくおとなしくさせることを考えてはどうだろうという米国・韓国・日本への説得工作だ。首脳会談を急きょ開こうなどという中国の呼びかけは、まさにこの線を行っている。
 米国や韓国も、いままでの北朝鮮の実績もあり、何度も裏切られて思いもあり、素直にそうですかと同意するわけにもいかないだろう。だがすぐに、自らも大きな犠牲をも生む戦争を、ここで好んで踏み切る決断力も乏しい。
 それとこのほうが重要だと思うのだが、この提案は、亡国必至の戦争は避けたいが、引っ込みがつかなくなっている北朝鮮に、振り上げたこぶしを下げる口実を与えるきっかけになるだろう。中国はこの点を捕まえて、いま北朝鮮に猛烈な圧力を加えていることと思われる。

 軍事対立の緊張は、希望的観測だけをすることが許されるものではない。しかし、動きを眺める目には、こんな視点も必要ではないか。
 そう思ってあえてこんな観測を述べてみる次第である。
 軍事力などの物理面ではなく、ただこの種の決断は人の意思で決まる。そんな面からのみ眺めた、これは一種の時評である。

オバマ大統領の大仏観光

2010年11月14日 23時23分01秒 | 私の「時事評論」
度の過ぎた警備体制

 毎日の日程を細かく切り刻み、世界を駆け巡っているアメリカのオバマ大統領が、横浜で開かれたAPEC21カ国首脳会議に出席をした機会に、帰国までの数時間の空き時間を割いて、隣の町・鎌倉長谷の大仏を訪問した。
 これはその時の報告である。
 今回のAPECの警備は日本の警察が総力を挙げての物々しいものであった。それは会議開催地の横浜ばかりではなく、会議の合間に参加者が観光に来る場所として関係者が選んで指定した隣の街鎌倉市にまで及び、おかげで鎌倉も会議開催の一か月も前から、警備の予行演習として、観光都市鎌倉に集中する自動車の検問訓練や観光客の職務質問、荷物検査などの騒ぎにも及び、私はこの街に住んでいるのだが、観光客の集中するこの秋は、平常はバスなどでも十分ぐらいで行ける鎌倉駅から私の住む長谷大仏の付近まで、ときには一時間近くもかかるような有様であった。
 APECは一週間ほど前の11月6日から太平洋を囲む参加21カ国の代表を集めて開かれたが、開催されると鎌倉には京都府警、岐阜県警、山口県警、大阪府警、兵庫県警など全国の応援部隊がどっと押し寄せて、県ごとに微妙に違う様々な制服の警官たちが、まるで街を埋め尽くすかの感があった。
 そんな中このピークになったのが最後の土日曜、11月13日と14日であった。13日の土曜、APECの出席各国の代表の夫人方が夫の会議中に鎌倉観光に来るというとき、目的地は大仏と建長寺の二か所だったのだが、大仏前には防弾チョッキを着用した警察官が数十名の観光客を取り囲むようにする物々しさ、まさか外国の会議に出席する夫人というだけで、狙撃しようとする者など出てくるとは思えないのに、これは過剰警備と思えるものだった。
 そんな中にやってきた14日(日曜)、オバマ大統領の鎌倉に来る日。到着は午後二時ごろというのに、平日でもこの時期は参観者で大いににぎわう大仏は朝から参拝禁止。人気のない境内に散在するのは危険物を探す警察官。周辺の道路は12時ごろから車はもとより歩行者の通行までも禁止。いままでの警備に加えて、新たに警視庁機動隊を始め応援の警察官が次々に繰りこみ、周辺一帯の道路は二メートルほどの間隔で並ぶ者はじめ密集する警察官でいっぱいに。付近の駐車場も警察車両ばかりで、私の住むマンションさえも、駐車場には私服の待機する警察官を詰め込んだ車が並び、一帯は交通も途絶して陸の孤島状態に。
 待つほどしばし、物々しい警察車両に前後を守られ、ほかの車を完全にシャットアウトした道路を、狙撃を恐れてか同じような車を数台走らせて、オバマ大統領は一直線に大仏へ向かい、そして約30分後には同じ道を戻って行った。

 何のために来たのだろうか。

 物々しい警備に囲まれて、オバマさん一行は無事に帰って行った。午後三時前に交通規制が解除されると、それを待ちかねたように鎌倉の街はいつもの観光シーズンの混雑風景を取り戻した。
 だが、それを見ていた私は考えてしまった。何のためにかくまで大騒ぎして、大統領は大仏に行く必要があったのだろうか。以前に大統領は日本にリップサービスをしたつもりだろうか、少年時代に、鎌倉の大仏に行ったことをテレビで話していた。
 大仏さんを見物して、そこで抹茶の入ったアイスクリームを食べたことを懐かしく思い出す・・・などと。
 あんな話をしたので、懐かしさのあまり、今度もまた、寸暇を割いて抹茶アイスを食べてくつろぐというポーズをとって宣伝のために来たというのだろうか。
 それにしてはこの何千名の警官が並び、何千名の大仏見物を楽しみにやってきた内外の観光客を締め出し、周辺の道路を完全にストップさせてやってくるとは何たる無神経な行為なんだろうか。大仏さんの管長さんでもが、ここで売っているアイスクリーム(あまり評判は芳しくないがあれ以来、大仏さん近辺では、オバマアイス、オバマッチャなどという名称を付けて抹茶入りソフトクリームを売っているそうだ。私はまだ食べたことはないが)でも横浜に届ければ、何億円の倹約になる。それにわざわざオバマ大統領が鎌倉に観光に来たからといって、こんな形の来訪では、単に国か警察の推薦した一般国民と称する人がオバマ氏と会うために境内の指定の場所に待っていて、親しげに握手を交わしてみたとしたところで、こんなの何の意味も価値もないものだ。だいいちオバマさんだって、こんなパフォーマンスをするよりは、多忙の身体だ、数時間でも帰国の飛行機に乗る前に、シャワーでも浴びて刺身でも肴に日本酒でも飲み、昼寝でもされたほうが良かったのではないか。
 眺めていて私の抱いた感想である。

 羹(あつもの)に懲(こ)りてなますを吹く

 なぜこんな大掛かりな警備になったのか。日本では、天皇陛下の行幸のときだって、これほど騒がしい警備はしない。道路などは反対車線はあえて規制せず、片側だけをお車の直前に止めるぐらいが平常だ。警備人は要所を固めて怪しいと見た車だけ検問し、何分の一の警備で行幸を迎え、その代わり、沿道は歓迎して日の丸の小旗を打ち振る国民たちでいっぱいになる。
 天皇陛下が国民に深く広く敬愛されていて、行幸を乱そうとする国民などほとんどいないという日本という国の国民性にもよるものだと思う。日本という国はことほど左様におとなしい国民性の国なのである。国民にも身体の中にしみこんだ理性と常識がある。
 だが今回はそう言って油断しているわけにはいかなかった。アルカイダなどをはじめとするテロやゲリラが横行し、自爆テロなどという爆弾を抱えて突っ込むような連中も横行している。それらの対象は現在のところ、余り太平洋周辺地域には向けられていないが、アメリカなどは最も狙われる国である。警備に万一のミスがあったら、日本は世界の袋叩きに合いそうだ。
 加えて最近、テロの防止の情報で、FBIの情報だと言われる警視庁のデータがネットにすっぱ抜かれて、日本の警察は大いに信用を失った。加えて今回の尖閣列島にかかわる情報リーク、日本の外交政策におけるだらしなさ。こんなものが重なって、日本はだらしない国だとの認識が世界に広まっている。日本の警備当局は、意地でも万全の警備をと、こんな形を取らざるを得なかったのかもしれない。

 ここまでしての観光とは何か

 だがこんな時代に世界がなってきたのだと思うとき、ちょっと考えなければならないことがあるのではないか。
 それはこの行事に付属していた「観光」というものの取り扱いである。
 世界の代表が国際会議のために日本に集まった。これはは世界の国々の人々に、日本の文化風物に触れてもらう絶好の機会である。そう日本側は考える。それと同時に集まる世界の代表たちは、この機会をとらえて自分らの国が、いかに日本にとって好意的な国であるかを示そうとする。そんな動機がうまくあって、いままでこの種の国際会議などが開かれると、その機会をとらえて参加者たちの、合間を見ての観光が一般的になっていた。
 だが現状はどうなっているのだろうか。物々しい警備に囲まれて、人払いをした観光施設を見て歩く。これが外国の要人にとり、日本文化を知り、日本の人々と接し、日本への好印象を持ってもらう行事であるのだろうか。逆にこれを迎える日本人にとっても、これがやってきてくれる外国人の国との親しみを増す効果はあるか。
 私はどちらから見ても「ナンセンス!」と言わざるを得ないと思う。
 国際的な社交方式も、時代の流れとともに変わる。私はそう思っているのだが。
 オバマ大統領の大仏見学の車の列、どの車に彼が乗っているのか分からないように同じ車をいくつか並べて。大統領がどこにいるのか探しても分からない。一方沿道に並んでいるのか警官ばかり、国民はみな遠くのほうに押しやられて。その欠陥を埋め、いかにも大統領と国民が親しく交流しているようなポーズをとるために、あらかじめ決められた人間が、偶然のような芝居をする。これが現実の姿なのだから。