葦津泰國の、私の「視角」

 私は葦津事務所というささやかな出版社の代表です。日常起こっている様々な出来事に、受け取り方や考え方を探ってみます。

虹と光――鳩山首相の政治センス

2010年05月07日 10時48分58秒 | 私の「時事評論」
 沖縄の基地移転問題、児童手当の増設、深刻化する財政危機などに関して私が来訪者に話した内容。

―― いよいよ鳩山さんは追い詰められて、万策尽きて混乱を深めるばかりですが、その一番の原因はどこにあると思いますか。

 それは鳩山さんが本当の政治というものの本質を知らないからだよ。野党としての時代は、言いたい放題でただ政府を攻撃していればよかった。だが自らが政権を担った後は、従来の姿勢を変えなければ政治はできない。政治は全国民、反対党支持だったものも含めてすべてのもののために行わなければならない。自分の望む主張に同意するものもしないものも、すべて国としてひとつにまとめていく使命がある。
 人間なんて十人十色、そうそう、光を分類する三角のプリズムがあるだろう。あれを通してみれば、合わされば白く見える光だって、赤や黄色、緑、青、紫や黄色などの色彩が寄り集まっているね。人間だって同じなんだ。一人ひとりと集団とはまったく性格が違う。野党のときはその中の赤なら赤、青なら青に属する意見を携えて、虹のひとつの色みたいな政見を掲げて争うのが大事なのかもしれないが、政権をとったら、対象は全国民という寄り集まった色を、少し赤みがかった白、あるいは青みがかった青にしようと自分の政見を生かしながら進むのが常識なんだ。
 そのためには、虹に分類されたどの色かに当たるような連中にはどうしてもぶつかる。そんなわずかな連中に対しては国という権力を使って、実力行使をしででも捕らえたり、つぶし、国の体面を維持しなければならない。
 民主主義万能の時代であるといわれ、一般には話し合えば多数決で何でもやれると信じているような人がいるが、それは現実を知らない。ただ、政見を掲げ、政治を貫く権力者になる制度としては、選挙制度というものを利用する。これが政治の大原則なんだ。

―― だって何事も国民の声を聞く民主主義の時代だというではないですか。

 民主主義はそれ自体、数が多いものが少ないものよりもまあましだろうというだけの制度で、何の理想も生み出さないし、放任すれば必ずわけもわからぬ国民の目先の欲望によって衆愚主義に堕落する。考えてごらん、投票をすれば誰だって、お金は出したくないが、よそから持ってきてでも自分に呉れるほうが良いと思い、万一のときのため、将来のために金を出せといえば必ず反対する。選挙でも、気楽なほうがよいと判断する。だから、実現もできないうまい言葉を言う人に票を入れ勝ちになるのさ。
 そして今の日本のように、窮屈な社会の規範も道義心も健全さも求めない。何もしないが要求だけはするというとんでもないもの場狩の国になっていくさ。必ず衆愚主義に流れてしまう。国は破綻する。そんな例は、外国などの歴史を見ても山ほどあるさ。
 だが、そんな勝手な人たちを対象にして、彼らをまとめて、命や財産、そして領土を守るために行うのが政治の大切な柱だと思うよ。それをうまくやるのが政治指導者だ。それを何をやるのにも投票なんかばかりを重視していたら、政治は破綻するのが常識だ。一国の首相は国全体の立場をしっかり知らねばならないし、現代では、世界の国々のことも冷静に見ていかねばならない。そんなにっぽんだが、少しでも理想的な方向に向けていこうと努力するのが政治家だと思う。そんな大切な判断に、その場限りのイエスかノー迦の意見を聞く世論調査みたいなものでやってはいけないさ。このままではどこだって、積極的に誘致なんていわないよ。外国に求める人もいるが、それだって、迷惑なことは外国に押し付けて逃げろという無責任な主張に過ぎない。


―― 沖縄基地で地域住民の地域主体の声を参考にといったのはまずかったね。

 明らかに準備不足だね。この種の基地が、いま、沖縄のみに限定してあるのは、日米安保条約があり、日本が国防という大切な義務をアメリカに任せ、保証はないが守ってもらおうとしている。そして米国は日本本土を守るよりも、それを口実にアメリカのために、中国や台湾、朝鮮半島、太平洋上や米国領の島々などの権益を重視した防衛体制を敷いている。
 そんな基地を動かすためには、日本が自国の力だけで自国領を守る方針をはっきり示して、基地や装備もまったく別な視点から考え直さなくてはならない。鳩山さんはそう思って言い始めたのかもしれない。だが、現実に世界が網の目のように防衛網を張り巡らせてにらみ合っている中で、それを実現するのには、しっかりした方針と、一日でもゆるがせにできない防衛網の確保と次をどうやっていけばよいかにしっかり焦点をあわせて行われなければならない。
 鳩山さんが野党の時代ならば、もともと実現不能なことも言っても何とかそれで票は稼げてすんだのかもしれないが、政権をとったら、まず国防の基本を立て、それを固めてはっきり目標を設定し直した後にやるべきことだったね。自分が責任者なんだ。
 米国軍などには頼らないから、自主国防をめどに全国に自衛隊の基地を再配分するとか、あるいは誰かが私に言っていたが、米ソが軍縮の時代の中心になりつつあるのだから、ロシアとも米国に交渉してもらって、沖縄と日本量の北方領土に、半分づつ基地を置き、そこを自衛隊も利用するとか(それに竹島など加えてもいいね)、そんな戦略が固め終わったら、初めてその後に沖縄基地に手をつけるような。
 鳩山さんは謝って歩いているようだが、それなら「準備不足だった。私の力ならもう何十年かかかるから、それまで待ってほしい」と頭を下げたほうが良いね。

―― 児童手当はどうなるんでしょうね

 このままでいくと、見返りの扶養手当の縮減した措置だけが残り、手当てはいずれはなくならざるを得ないだろう。何しろ日本には金がないからね。金もないのにどんどん空手形ばかりをきる。国がつぶれる典型的な例だ。いま、ギリシャの金融危機で日本の株が下がっているが、あれは次は日本だという投資家の危機感からだな。そのうち日本も外国に管理されて、教育も福祉も何もできない。予算は削られて公務員は半分になり、残ったものの給料も半分になる。そんな時代になりかねない。

――見回せば、八方塞がりの展望ですね。

 政治の基本方針は今の政治学などより、民をどう指導して国を治めるかの中国古典などに学ぶべきだと思う点がたくさんある。日本の歴史にも多くの参考がある。政治とは何なのか。日々動く時代に、人々をしっかり纏め上げて国の力を上げていくということは、すごく難しいことなのだ。
 それに対して、現状は深刻なのに、どうしてこうみな将来を眺めないのかと嘆きたくなるような今の日本の政治環境だね。それらの見識を兼ね備えて辣腕を振るう政治家が出てこなくては、なかなか日本の危機は乗り越えられないね。
 これも日本が敗戦以来六十年以上も、まじめに国のあり方を考えてこなかった結果なんだろうが。

ーーだって憲法には国民の基本的人権が保障されているではないですか。

 あんたね。あんなものは誰も見ないよ。国が行き詰ったら、国だって約束していても何もできないんだ。国民である我々は、結婚詐欺の空手形にだまされて、金をなくしてしまったようなものだとあきらめるしかないね。