気になる円相場の崩壊
ユーロが通貨ギリシャやイタリヤの国債の支払い不能危機が投機家たちの攻撃材料にされ、国際通貨市場でユーロ価格が相次いで暴落する騒ぎがあった。この影響で、今まで極端な円高に襲われ、円高対策に追われる日本経済はさらなる円高となり、政府や経済界は円高防止に必死である。
通常の常識では、経済が停滞し苦しくなれば、その国の通貨は下落(円安)して、国内はインフレになるのが常識に見える。日本はいままで、工業製品や商品などの加工技術力や細かい配慮などで、諸外国への輸出を伸ばし、それで少ない資源の国でありながらも経済を維持する方針でやってきた。しかしアジア諸国の発展などで、日本よりはるかに賃金が安く、しかも技術力も日に日に向上する国が出て来て、企業は国内生産での経営が不能になって海外へ工場を逃避させ、さらに米国などから金融の「国際化」という圧力で、日本経済の堅実性の基礎でもあった経済の基礎となる独特の金融制度を破壊せれ、「暖簾」や「信用」を基にしていた企業なども外国企業が簡単に参加できるものに変更させられ、しかも相次ぐ国際的な円高への誘導圧力がかかり、近年は厳しい状況に追い込まれている。
それによってもたらされたのが経済活動の沈滞である。国内企業は常に不況感の中で経営を続けているが、とくに厳しいのが国家財政だ。税収が企業の停滞でさっぱり上がらず、企業の工場の海外逃避で従業員は続々解雇される状況となってきた。
戦後の環境の急変で人口構成が極端に高齢型になり、しかも国内の企業が相次いで大資本との競争により活動を停止、地方の商店街なども見る影もなくさびれてしまった我が国は、核家族化による高齢者のみの所帯、失業問題、大都市とその他の地域の格差の増大、社会福祉費用や医療費の急増などで大幅な税金を必要とする。それらの費用は税金が上がらぬので国債などで穴埋めされ、膨大な国債を積み残すことになった。
さらに追い打ちをかける負担
こんな状態で日本が財政ピンチ状況に追い込まれて久しい。そのためにいずれ景気が良くなるまでは国債に頼らねばならぬということになり、日本はいままでに1000兆円の未償還国債を抱えることになっている。
だがこれに、新たな負債が大量に加えられねばならなくなった。東日本大震災の復興、これに伴う原発の放射能漏れ事故のもたらした膨大な費用。今でも総予算の4割しか税金で補うことができない政府は、このマイナスを国債で補わなければならない。
我が国の国債は、そのほとんどが年金基金と銀行預金によって補われている。それはいままでわが国がデフレの低金利時代にあったため、ほぼ年間1パーセントほどの金利で賄われてきた。それでもすでに国の払う金利は年間10兆円に達している。だが、今の円は不当に高く買われているといわれる。金融投機筋の目がユーロなど西欧に向いているため、注目されていない円の危機的内情に目が向けられていないからこれで済んでいる。もし、世界の投機筋が日本に目を向けて円が売られたり、そのため日本にインフレの兆候が来たらどうするのか。
最近になって世界の為替投機筋の目が「円は果たして大丈夫か」という点に向けられる環境になってきた。外国為替のコンサルタントなどに、ギリシャ、イタリヤの目に向けられていた投機筋の売りたたきの目が、円に向かう可能性が高くなったと警告する声が高くなりつつある。
円安に進めば物価が上がり、インフレ方向に景気が動き金利が上昇する。国債の売買価格は急落する。先のユーロ安で、ギリシャ国債は、利回り30パーセントでも買い手が現れないほどに売りたたかれ、イタリヤは7パーセントで買い手がようやくついた。ギリシャは例外にしても、もし日本の国債が同じように売られてイタリヤ並みの7パーセントまで買いたたかれたらどんなことになるか。まず国債を保有している年金機構や金融機関は手持ちの国債の簿価を7分の1に修正し、大雑把にいえば700兆円近い評価損を計上せねばならない。年金などはたちまち払えなくなる。政府は毎年、利息だけで70兆円もの利子負担をしなければ次の国債は発行できなくなる。国債の発行は事実上不可能になる。
政府が国民に対して「日本は国債の引き受けが安定しているし、国民総貯蓄が1400兆円あるので、国債発行に関するリスクはない」と説明している。だが貯蓄は国民のもので政府のものではないし、これは将来の行政への不安で国民がため込んでいるもの、国債赤字は政府の負債だ。これは相補う関係にはない。政府の楽観説は現状を正しく説明していないまやかしであるのは明らかである。
こんな危ない状態だから実情を踏まえて、IMFは日本に対して、野田政権の消費税増額は増加率が低すぎるとの見解を表明したのだ。日本の現在の消費税は5パーセント、これを8パーセントから10パーセントに段階的に引き上げ、赤字を国債に依存する危険な体質から逃れようとするのが政府の方針だ。だがこれでは日本の国債依存体質はほとんど変わらないし、日本が現状の5パーセントを、すぐに20パーセントにでもすれば、税収は現状でも合計70兆円になり、税収と歳出は現状程度の国債発行の収支でもパニックにならずに収まるだろうという計算だ。だが、今の景気の状況下で、消費税を20パーセントにして、果たして税収が4倍になるかどうかは別の問題だ。
ただ、参考までに西欧の消費税水準を見ておこう。消費税は現在、ギリシャ23、イタリヤ20、アイルランド21、スペイン18、英国20、フランス19・6、ドイツ19パーセントの状況にある。
通貨政策を見ていくのには、こんな国債と税金の間のバランスも頭に入れて論じたい。
註 国債の現状に関しては、週刊ダイアモンドに書かれたこの解説がわかりやすい。とにかく目を通してみて貰いたい。
国債の現状に関しては、週刊ダイアモンドに書かれた「シリコンバレーで考える 日本の能天気さはギリシャに匹敵する 安藤成弥」の解説がわかりやすい。とにかく目を通してみて貰いたい。
「 http://diamond.jp/articles/-/15744?page=2 」