面白草紙朝倉薫VS安達龍真

夢と現実のはざまで

松山千春の快復を祈る。

2008年06月30日 | Weblog
 松山千春は、僕にとって繊細な鉄人であった。彼が倒れたときいた時、俄かには信じられなかった。先ほど映画プロデユーサーO氏に電話をかけて状態を知り、ようやく現実なのだと認識した。しかし、僕のなかでは、多くの千春ファン同様、彼は不滅の鉄人である。言葉には魂がある。、この祈りが届くなら、僕は彼の快復とあの素晴らしい歌声の復活を祈り続けよう。松山千春のCDドラマを脚本演出して初めて会った時の優しいまなざしと力のこもった握手を昨日のことのように思い出しながら、懸命に祈ろう。

 映画「足寄より」も完成間近だと聞いた。CDドラマだけでなく映画の企画にまで参加できたことを本当に嬉しく思う。何よりも、元気な千春に、「よかったよ」と、また声をかけてもらえたら、どんな苦労も一瞬に忘れられる。人間なんて単純な動物だ。みんな、誰かに喜んでもらいたくて汗を流している。

 今僕は舞台「ミッドナイトフラワートレイン」の稽古に全力を傾けている。沢山の方に甘えて、沢山の方に支えられて生かされている。目の前の30人を感動させられなくて何が芸術ですか」と、Tにハッパをかけられた。そのとおりだ。

 全国のファンの方々と共に、松山千春の快復を心から祈ります。

ミッドナイトの素敵な面々(石川由美子)

2008年06月28日 | Weblog
 昨年秋のこと、芸能ジャーナリストW氏から「スゥィーツ系アイドルを紹介するから」と呼び出され、赤坂東急のラウンジで初めて石川由美子に会った。僕は御菓子雑誌で有名なのかと思っていたら、それはとんでもない勘違いで、何と、十代のグラビアアイドルでそう呼ばれるジャンルのスターだった。18歳からの2年間で、10枚のDVDをリリースしているという。さすがW氏、顔が広いと感心した。僕に紹介したのだから演劇のレッスンでも受けさせたいのかと思ったら、どうだ可愛いだろうと、只の自慢だった。

 あとで石川嬢に聞いた話だが、演劇に興味を持って、朝倉の稽古場に行ってみたいとW氏に頼んだら、いかなくてよいと断られたらしい。とんだ焼き餅焼きである。ところが先月、W氏プロデユースのアイドルユニット「オレンジミクロ」のメンバーとして、石川嬢が稽古場に現れた。運命の赤い糸は繋がっていたわけだ。「ミッドナイト」のキャステイングの最中だったので、早速石川嬢に打診した。勿論、W氏の承諾は先にとってのことだ。

 「やりたいです」控えめだが芯の通った声で、彼女は答えた。オレンジミクロの10日間の特訓で、彼女の頑張りは見ていた。今度は一ヶ月間の特訓である。石川嬢の役は、幼いころに両親を亡くして強欲な伯父に育てられ、余りに不幸な人生に悲観して雲仙で身投げをしようとしていたところを弁天マリアに助けられ弟子になった自閉症の暗い少女、天神お染めである。台詞は少ないが殆ど出ずっぱりの大変な役だ。6代目のお染めであるが、代々この役は新人に振り当ててきた。まだ、お染をやり遂げた女優はいない。6代目にして初めて、僕は理想の天神お染が生まれるのではないかと期待している。その分稽古は熾烈を極めると思うが、叩くに値する本物だと僕は確信している。

 劇団の新人女優たちが参加する後援会恒例の海合宿にも快く参加してくれる。勿論、石川嬢のファンの方の参加も大歓迎である。(詳しくは劇団HPをご覧あれ)それにしても、スゥィーツ系とは言い得て妙である。確かに、お菓子のような雰囲気を持った女の子である。是非、女優石川由美子の初舞台、ご期待ください。

 

玉ねぎの皮をむきながら(ギュンター・グラス)

2008年06月28日 | Weblog
 駅売りの夕刊紙でギュンター・グラスの新刊「玉ねぎの皮をむきながら」の書評を読んで、紀伊国屋に寄ろうと思ったが、贖う前にTに電話をしてみた。もしかして、の予感通り、「今、読んでいるところです。先に読まれるならどうぞ」の返答。「うん、読ませて」と、即答した。と、いうのも460ページ、2625円もするので、借りて読めるならそのほうが貧乏作家としては助かるからだ。

 「ミッドナイト」の稽古が終わって、Tに借りたグラスを読み始めたが、一晩で完読は無理なようだ。イタロ・カルビーノや泉鏡花なら数倍の速度で読めるが、大江やグラスだと時間がかかるのは実は義務として読んでいるからである。昨今のノーベル文学賞作家の作品は、本当に読後感が苦い。つかこうへい流に言えば、竹を割ったら餅が詰まっていて食ったら砂だらけだった、という感じだ。「恥辱」など、映画にしたらどうなるのだろう。文学や歌が時代を映す鏡だとするなら、僕のメルヘン志向は時代に逆行するマイノリティなのだろうか。歌声喫茶もまた、時代の片隅でひっそりと咲くのが運命であろうか。

 うたごえ喫茶「ともしび」で感じた違和感に、似て非なるこの感触は何なのだろう。大江やグラスの作品に感じる疲労の原因は、もっと身体の奥にあるようだ。聞くところによると、グラスは知り合いを家に招き、得意の手料理を振る舞うらしい。たいていは内臓の煮こみ料理で、供される者はその複雑で苦い味が癖になるか、嫌いになるからしい。僕は招かれた時点で、辞退するべき人間なのだろう。科学も進化論も、幻影師アイゼンハイムには眩しい太陽なのだ。作り物の明かりが揺らめく見世物小屋こそが、心落ち着く桃源郷。僕が捜し求めるそこは、温泉町の場末にあるストリップ劇場の楽屋なのかも知れない。玉葱は何処まで剥いても皮だけである。単行本の帯にある大江健三郎氏の推薦文「すべての矛盾を含み込んで、あるいはさらけだして、彼の小説はある。その点を私は全面的に評価します」もまた、玉ねぎの皮である。人が人を裁くのと同様、人が人を選ぶのも難しいことなのだ。

 

サウンドオブサイレンス

2008年06月27日 | Weblog
 静寂は突然訪れた。午前9時、寝入りばなにピンポンと玄関のチャイム。無視して眠りについた。11時、ふと目覚めると不気味な静寂。パソコンの音も、冷蔵庫の唸り声も、耳慣れた生活音が全く聞こえてこない。カーテンを閉めきった部屋は沈黙していた。首を振ってみた。遂に耳をやられたかと思って深く息を吸いこんだとき、通りから車のエンジン音が聞こえてきた。ベッドからでて電気を点けたが、点かない。コンピューター、冷蔵庫、湯沸かし器、スイッチが切れている。静寂の中で記憶をたどる。二時間前、玄関のチャイムを鳴らしたのは電気料金の集金に違いない。唯一携帯電話が使えたのでTに「電気が止まった」と電話した。「電力会社にすぐ払うので点けてくれと連絡しなさい」と、教えられ、玄関に投函されていた用紙の電話番号にかけてみた。「近くのコンビニで支払ったら90分以内に送電します」と、答えてくれた。

 カランコロンと下駄を鳴らして、坂道を駆け下り、中新のコンビニで料金を支払った。帰り道でつれづれ考えた。冷蔵庫、パソコン、テレビ、空調、電気釜や湯沸かし器にいたるまでかなりの音に囲まれている。その雑音に慣れてしまって、突然の静寂を異常に感じてしまった。めったにない環境なので、電気が点くまでの時間を楽しむべきであろう。と、真っ暗な部屋に戻った。冷凍しておいたアサリの剥き身をフライパンに水を張って温めて戻した。電気釜で保温していた飯を加えて、バターで炒め、塩、胡椒、ガーリックで味付けし、アサリのガーリックバターライスを作った。暗闇の中、ガスの灯かりだけで料理するのは緊張する。出来あがったが神経が疲れて食べる気にならず、ベッドに横になった。シャワーも浴びることが出来ない。何か出来る事があるだろうと薄闇の中目を凝らすと、サイドボードに積み重ねられた本が目に入った。

 電力会社から作業に来るまでの1時間余り、庭にでて日の光で、「毒薬の手帳(澁澤龍彦著)を読んだ。再び電気を配給してもらって、こうしてパソコンに向かっている。シャワーも浴びることが出来る。幸い冷蔵庫のアイスクリームも溶けずに済んだ。音楽も聴ける。何より、天井から降り注ぐ蛍光灯の明かりが部屋の隅々まで広がっているのが、嬉しくて顔が緩む。これからシャワーを浴びて、打ち合せの外苑前まで出かけ、其の足で稽古場へ向かいます。

 

小説「ミッドナイトフラワートレイン」のこと

2008年06月27日 | Weblog
 小説「ミッドナイトフラワートレイン」は、弁天マリア以外の登場人物たちが弁天マリアを語る独白形式になっている。幼い頃からのライバルキャサリン青田、その一座の頭取オードリー橋本、松ノ木一家総長松木康成、その息子で二代目松木康雄、其の舎弟ヒデ、二代目を狙って博多からやってきた中州西本組舎弟河上哲也、哲也の中学時代の同級生照明の守、血の池劇場支配人小笠原健、弁天マリアの弟子天神お染め、弁天マリアの母弁天ローズ、母娘の師匠弁天お龍、の、面々である。

 10年前から、小説はある一章を残して、未完である。物語としてはその章がなくても読めるのだが、発表はしていない。Tに言わせると、ギャンブルを好む人間は成功より失敗することの方がより興奮するらしい。僕が破滅主義者でない事を実証するには、何としても、その一章を書き上げなければならない。書いていないのは、血の池劇場女将の独白である。

 舞台の初日を迎える前に、僕は書き上げると宣言した。これで書きあがらなかったら何を言われるか、散々ギャンブラー扱いされた屈辱をバネに頑張ろう。久々に朗読したら、小説も面白かった。勿論、舞台の演出も全力投球だが、稽古の合間にセッセと小説を書こう。

 

ミッドナイトの素敵な面々 其の壱

2008年06月25日 | Weblog
 今回看板を張ってくれる塩山みさこ嬢は、昨年夏の公演で5代目弁天マリアを熱演してくれた、僕の大好きな女優さんだ。「産まれて29年と3ヶ月、男には指一本触れさせてません」という処女のストリッパー役で、昨年は稽古初日から千穐楽までの期間、セックス禁止を言い渡した。半分洒落で、半分本気だったが、彼女は喜んで従ってくれたらしい。

 今回の稽古初日、「今年はどうなんですか?」と、塩山嬢。「勿論でしょう」と、僕。以前にもブログに書いたが、稽古以外では食事で1度、打ち合せの喫茶店で1度会っただけである。にも係わらず、強い絆で結ばれている、と、僕は勝手に安心している。

 相手役のキャサリン青田を、今回は北原マヤ嬢が演じる。塩山嬢共々、初日の稽古からガンガン飛ばしている。幼い頃からクラシックバレェを学ぶライバル同士が、どんな風の吹きまわしか、ストリッパーとして別府は血の池劇場の楽屋で15年ぶりに再会する。スイスローザンヌ国際バレェコンクールは、夢のまた夢となった二人の現実。塩山嬢演じる弁天マリアは、日本一の花電車の名人、孤高のストリッパーである。

 どんな物語が展開するのか、それは観てのお楽しみである。塩山嬢の冴え渡る花電車、いや、白鳥の湖は、さらに磨きがかかるであろうことを思うと、稽古にも熱が入る。が、まだまだ先は長い。若い女優陣につられてオーバーヒートしないよう、自重している。

アトリエライブ第3回

2008年06月22日 | Weblog
 14時からアトリエライブのリハーサル。雨は止みそうもない。傘からはみだしたギターケースがびしょ濡れだ。遠い昔を思い出す。日本各地のライブハウスを廻ったのもこのギターと一緒だった。天気の良い日ばかりではなかった。こんなふうにギターがびしょ濡れになったことも一度や二度ではない。ハードケースも外側はずいぶん年季が入った。と、そんなことを思いながらアトリエに着いた。濡れたケースをタオルで拭いてギターのチューニング開始。梅雨時は音も湿りがちだ。古いギターなのでことさら気難しい。たっぷり時間をかけて調音した。

 18時、ライブ開始。この雨の中お越し下さいましたお客様、劇団を代表して心から御礼申し上げます。19時50分、ライブ終了。反省会をして21時半、解散。これから明日締めきりの企画書書きです。

ACTシアター「かもめ」観劇

2008年06月21日 | Weblog
 昨日初日を迎えた赤坂ACTシアターでチェーホフの「かもめ」を観劇した。十数年前、不謹慎にもコメディの劇中劇にパロディで使用したこともあり、後ろめたく懐かしい。藤原竜也のトレープレフに鹿賀丈史のトリゴーネンは是非観てみたいと思ったが、オールキャストとの前宣伝に、微かな不安は禁じえなかった。

 藤原竜也は素敵だ。足のつま先から髪の毛の一本まで、演劇が満ち充ちている。鹿賀丈史も職業俳優だ(ギャラ分の芝居は見せる。松田優作を唸らせた往年の芝居は何処かに預けているのだろうが)。しかし、オールキャストの面々を生かさねばならない商業演劇の演出家は地獄だろうと同情した。演技の前に発声練習が必要なニーナ、常にセンター芝居で歌う宝塚スター、「我々は伝統ある日本の新劇俳優である」とばかりに、50年前に習った新劇芝居で藤原竜也を困らせる新劇界の大御所たち。彼らを相手に、藤原竜也はコースチャーでなくとも死にたくなるだろう。90分の芝居くらい藤原竜也は一息に演りたかったに違いない。そうすれば、彼は十倍も輝いて、ニーナがどんな素人だろうと、観客の感涙をものにしていたはずだ。

 僕はけっして、塩山嬢や僕の劇団の女優が上手いと言っているのではない。手前のことは棚にあげなければ、他人の芝居の感想など書けない。まだ耳に残る。トレープレフ(藤原竜也)が内臓を抉られるような声で「君の歩いた地面に接吻までした」という告白に、「私の歩いた地面に接吻したなんて…私なんか殺されても文句はないのに」と返すニーナの台詞の生ぬるさ。灰皿をぶつけられて芝居を鍛えた藤原竜也は、ハムレットと並ぶ西洋の看板芝居を見事に耐えぬいていた。そのことだけでも、賞賛に値する俳優であることを、この目で確認出来て幸せな観劇であった。それにしても、今年は鹿賀丈史ばっかり観ているような気がする。楽な芝居ばっかり演っていてもファンがはなれないなんて、なんて幸運な俳優だ。

夜半を過ぎて朝にはまだ…

2008年06月21日 | Weblog
 23時に稽古を終え、制作のSくんと「てっぺい」で遅い夕食。芝居の話で盛りあがり、珈琲を買って再び稽古場へ戻り、新しい演出プランを打ち明けた。「ミッドナイト…」も、6度目の公演となり、主演の塩山嬢は昨年に引き続き、北原嬢にいたっては女将役、マリリン役からキャサリン青田で3度目の出演となる。観客だけでなく、役者も驚く演出をする、と、大言壮語した。珍しくSくんが冷ややかでなく「期待しています」と言ってくれた。

 で、気を良くしてこんな時間まで付き合わせてしまった。僕も今日は十二時半に赤坂ACTシアターで待ち合わせ。「かもめ」の舞台を観劇の予定。ACTシアターは初めてなので楽しみだ。その後、新宿の歌声喫茶「ともしび」を覗く予定だが、演出プランで血が騒いで眠りにつけそうにない。

 今回も新人ゲストが4名、いずれも個性が強烈なので、手強いが楽しみも大きい。各事務所の期待の新人としての参加なので、彼らもプレッシャーが大きいだろうが、このアトリエ公演から大きく羽ばたいて欲しい。新しい演出ノートにタイトルと日付けを入れてから、朝が来るまで少し眠ろう。

君去らず

2008年06月20日 | Weblog
 16期生の面々は、今回の幹事役橘くん、工藤くん、細川くんに睦くん、そして紅一点岩崎嬢の5名。十五期生から司亮が参加して僕の運転する7人乗りワゴン車で木更津海岸へ潮干狩り。高速道路も順調に流れて9時に稽古場を発って10時半に到着。早速着替えて潮の引いた干潟の海へ。ひとり孤独に穴掘りをしていた工藤くんを除いて全員が制限の2キロをオーバーしたが、漁協の方に快くオーケーしてもらった。

 13時、海から上がって楽しい昼食。潮風に吹かれて食べるお握りは格別に旨い。
 14時、漁協の方に砂出し用の海の水をペットボトルで頂き、木更津海岸を後にする。
 途中、海ほたるに寄って休憩。朝からずっと芝居の話しで盛りあがり、睡魔も呆れて寄りつかない。
 16時、新宿に到着したが、18時からのレッスンには時間があるので、十二荘のMAXで珈琲タイム。

 18時、ひとり暮しで料理をしないという細川くんのあさり3キロも僕が料理することになり、レッスンを抜けて帰宅。頂いた海水で早速砂抜き。さすがに六キロは多い。レッスンが終わったら、細川、工藤、留守番のTも食べにくるというので、深川丼を作ることにして、先ずは米を炊き、スーパーに食材を買い出し。

 砂を吐き出したばかりのあさりを先ずは熱湯で口を開かせ、冷たい水で洗いながら殻剥き。すき焼き鍋に水を張り、鰹だしであさり、白滝、ごぼう、刻んだ油揚げ、大葱を煮込み、程よいところで醤油、砂糖、塩、酒で味付けして、弱火で煮こむ。その間に、大振りのあさりを選別して味噌汁の準備をする。シンプルにあさりと細葱だけにして、取れ立ての香りを味合ってもらう。

 米も炊きあがり、味噌汁も出来あがったところへ、食客の一行が到着。ひとりづつ、丼に好きな量だけ飯を盛ってキッチンで待機してもらう。大鍋に煮えたあさりとその仲間達を、卵丼用の小フライパンに移し、火にかけてとき卵でまぶし、丼の飯にかけて深川丼の出来あがり。かなりの自信作だが、旨そうにかき込む面々をみてほっとする。
 
 しかし、あさりはまだ半分以上汐を吹いている。今日はあさりのガーリックバターピラフを作ろう。バジルは絶対忘れない様にしなければ。
 さあ、今日から7月公演ミッドナイトフラワートレインの稽古が始まる。8月3日の千穐楽まで、芝居浸けの日々が続く。これを幸せと言わずして何を幸せという。楽しんでいただける様稽古に精進を重ねます。