面白草紙朝倉薫VS安達龍真

夢と現実のはざまで

サウンドオブサイレンス

2008年06月27日 | Weblog
 静寂は突然訪れた。午前9時、寝入りばなにピンポンと玄関のチャイム。無視して眠りについた。11時、ふと目覚めると不気味な静寂。パソコンの音も、冷蔵庫の唸り声も、耳慣れた生活音が全く聞こえてこない。カーテンを閉めきった部屋は沈黙していた。首を振ってみた。遂に耳をやられたかと思って深く息を吸いこんだとき、通りから車のエンジン音が聞こえてきた。ベッドからでて電気を点けたが、点かない。コンピューター、冷蔵庫、湯沸かし器、スイッチが切れている。静寂の中で記憶をたどる。二時間前、玄関のチャイムを鳴らしたのは電気料金の集金に違いない。唯一携帯電話が使えたのでTに「電気が止まった」と電話した。「電力会社にすぐ払うので点けてくれと連絡しなさい」と、教えられ、玄関に投函されていた用紙の電話番号にかけてみた。「近くのコンビニで支払ったら90分以内に送電します」と、答えてくれた。

 カランコロンと下駄を鳴らして、坂道を駆け下り、中新のコンビニで料金を支払った。帰り道でつれづれ考えた。冷蔵庫、パソコン、テレビ、空調、電気釜や湯沸かし器にいたるまでかなりの音に囲まれている。その雑音に慣れてしまって、突然の静寂を異常に感じてしまった。めったにない環境なので、電気が点くまでの時間を楽しむべきであろう。と、真っ暗な部屋に戻った。冷凍しておいたアサリの剥き身をフライパンに水を張って温めて戻した。電気釜で保温していた飯を加えて、バターで炒め、塩、胡椒、ガーリックで味付けし、アサリのガーリックバターライスを作った。暗闇の中、ガスの灯かりだけで料理するのは緊張する。出来あがったが神経が疲れて食べる気にならず、ベッドに横になった。シャワーも浴びることが出来ない。何か出来る事があるだろうと薄闇の中目を凝らすと、サイドボードに積み重ねられた本が目に入った。

 電力会社から作業に来るまでの1時間余り、庭にでて日の光で、「毒薬の手帳(澁澤龍彦著)を読んだ。再び電気を配給してもらって、こうしてパソコンに向かっている。シャワーも浴びることが出来る。幸い冷蔵庫のアイスクリームも溶けずに済んだ。音楽も聴ける。何より、天井から降り注ぐ蛍光灯の明かりが部屋の隅々まで広がっているのが、嬉しくて顔が緩む。これからシャワーを浴びて、打ち合せの外苑前まで出かけ、其の足で稽古場へ向かいます。

 

小説「ミッドナイトフラワートレイン」のこと

2008年06月27日 | Weblog
 小説「ミッドナイトフラワートレイン」は、弁天マリア以外の登場人物たちが弁天マリアを語る独白形式になっている。幼い頃からのライバルキャサリン青田、その一座の頭取オードリー橋本、松ノ木一家総長松木康成、その息子で二代目松木康雄、其の舎弟ヒデ、二代目を狙って博多からやってきた中州西本組舎弟河上哲也、哲也の中学時代の同級生照明の守、血の池劇場支配人小笠原健、弁天マリアの弟子天神お染め、弁天マリアの母弁天ローズ、母娘の師匠弁天お龍、の、面々である。

 10年前から、小説はある一章を残して、未完である。物語としてはその章がなくても読めるのだが、発表はしていない。Tに言わせると、ギャンブルを好む人間は成功より失敗することの方がより興奮するらしい。僕が破滅主義者でない事を実証するには、何としても、その一章を書き上げなければならない。書いていないのは、血の池劇場女将の独白である。

 舞台の初日を迎える前に、僕は書き上げると宣言した。これで書きあがらなかったら何を言われるか、散々ギャンブラー扱いされた屈辱をバネに頑張ろう。久々に朗読したら、小説も面白かった。勿論、舞台の演出も全力投球だが、稽古の合間にセッセと小説を書こう。