面白草紙朝倉薫VS安達龍真

夢と現実のはざまで

バカで終わる2008年

2008年12月31日 | Weblog
朝倉「大晦日ですね。庭の枯れ葉を掃いていたら焼き芋が食いたくなりました」
龍真「君はのん気で良いなあ、小生、朝からバカバカしさに苦笑していた」
朝倉「何があったんですか?」
龍真「NHKの紅白プロデユーサー石原真だよ。視聴率40%取れなかったら又坊主になると、宣言した」
朝倉「それが何か、気に障ったんですか?」
龍真「坊主に失礼だろう!あの男、3年前も宣言して頭を丸めておる。よっぽど快感だったのか、ほんとにバカな奴だ。大切な黒髪を落とすのは女性だから美しいのだ。NHK退社します、ぐらいのこと云えんのか」
朝倉「40%切ったらこまるでしょう」
龍真「小生が苦笑したのは、日頃差別用語だの何だのとうるさいNHKや、良識在る国民が、頭を丸めるという行為をペナルティとして発言した石川に対してほほえましく見守っている現実だよ」
朝倉「国民的エンタテインメント番組ですから、云わば大晦日のお祭りでしょう?どうでも良いじゃありませんか。それより、焼き芋ですよ、枯れ葉もたっぷりあるし、どうです、焼いてみましょう」

龍真「君には軍靴の響きが聞こえんらしいな。坊主頭、大本営発表、すでに赤紙が印刷されているかも知れんぞ」
朝倉「僕は、片山竜太郎記念公演で頭が一杯なんです。それに昨夜は山道に迷って恐ろしい体験をしたし、さっさと庭の掃除を終えて筋トレをしましょう」
龍真「ハッ、…君は何か企んでいるな?!」
朝倉「何も企んでなんかいませんよ。失くした筋肉を取り戻したいだけです」
龍真「60歳過ぎて!?無謀だ!バカだ!アホだ!」
朝倉「老人よ、身体を鍛えておけ!」
龍真「バカで終わる2008年」
朝倉「はい!」

50年目の眉月

2008年12月30日 | Weblog
 わずか7キロの道程だとたかをくくっていた。
南の山を越えた旧海東村(現宇城市小川町)に在る御歳102歳の伯母(父の姉)に会いたくなったのは、50年前の冬の日を思い出したからだ。
 二つ年上の従兄弟逸夫兄とは大の仲良しだった。小学校にあがると、僕は毎年のように、夏休み、冬休みは伯母の家で過ごした。隣に住む徳永力夫くんは僕と同級で、いつも逸夫兄にくっついていたので、僕のうちにも逸夫兄と一緒に泊まりにきたりした。小学4年生の冬休み以来、力夫君には会っていなかった。

 午後の3時半、僕は本当に軽い散歩のつもりで、父には夕飯前には帰ると告げ、セーターに皮パン、編み上げ靴を履き、ジャケット代わりにロングコートを羽織り、首にマフラーを巻いて、家を出た。山道はきれいに舗装され、冬の風も心地よかった。村境の峠を越えると、道は、龍の背中のように曲がりくねった急坂になった。くだりは軽快に思えるが、気をつけないと膝を痛める。夏に3333段の石段を登ったことを思い出した。

 4時10分、蕨野という村落を通った。かすかに記憶に残っている。水がきれいな村だった。その次が舞鴫(もうしぎ)、子供のころは森鴫だと思っていたことを思い出しながら、伯母の家が在る畑中に向かった。少し不安になった。記憶では1時間足らずで到着するはずだったのだ。道行く人に尋ねた。
 「畑中はまだまだずうっと下ですよ、2キロはあります」
 誠実そうな青年は直立で答えたが、その目は笑っていなかった。僕は改めて自分の服装を見直した。何処の誰かもわからぬ、全身黒づくめで無精ひげの初老の男だ。礼を言って早々に立ち去った。

 5時、畑中は記憶の村ではなかった。呆然と立ちすくんでいると、初老のご婦人が通りかかった。
 「ここに、T家がありませんでしたか?」
 「ひとつ、道向こうですよ。でも、今は誰も住んでおられませんよ」
 僕は路地をひとつ間違えていた。
 「隣の、力夫さんの家がありませんね?」
 「もう何十年も前に引っ越されましたよ」
 「僕は、小市野から来た…」
 「あらまあ、山を越えて?もうすぐ日がくれますよ」

 この時も、僕は帰り道は1時間でいけるだろうと、簡単に考えていた。ところが、そうはいかなかった。伯母にも会えず、力夫くんにも会えないで引き返す足取りは、来るときの数倍も重かった。西空を振り返ると、太陽は遠くにかすむ八代海に沈もうとしていた。足早に歩けば6時には家に着く。そう思って歩幅を広げた。

 舞鴫の村落での判断ミスが、今にして思えば、恐怖の帰り道の始まりだった。舗装された県道より、村中を抜ける旧道のほうが近道に思えたのだ。バイパスとは元々迂回路を意味するのだと、勝手に決め付けて。ところが、記憶の糸を手繰り寄せていると思ったのは、錯覚だった。

 気付いたときには完全に山道に迷い込んでいた。蕨野を何時通過したのかさえ記憶にない。僕は、ずっと逸夫兄のことばかり考えていた。今日は、逸夫兄の仏前に線香を上げるつもりだった。102歳の伯母に会い、隣の力夫くんに会い、逸夫兄の死因を尋ねるつもりだったのだ。

 とっくに6時が過ぎ、眉月が高くなった。あの月明かりでは山道は歩けない。真上に上がる前に、あの月を背中にして東へ登るのだ。そうすれば必ず村境の峠に出る。自信はあった。ところが、急ごうとした時、右足の付け根に激痛が走った。しまった、無理に歩幅を広げたので、肉離れを起こしたのかも知れない、と、僕は何か杖になりそうなものを探した。幸いにも、誰かが切って束ねた竹があった。1本抜き出して、背丈に折り、右足を支えた。歩き易くなったが、首筋に汗が噴出した。咽が渇いた。旧道は途切れ途切れに現れ、更に1時間が過ぎた。父が心配しているだろうと手にした携帯電話も圏外では仕方がなかった。

 10年前、僕の一族は未曾有の災いに見舞われた。父方も母方も、経済的なダメージばかりでなく、事故死や病死が相次いだ。逸夫兄は建設業で成功していたにも拘らず、52歳の働き盛りで不可解な死を遂げていた。僕はそのころ、毎夜飲む珈琲に睡眠薬を入れられてガタガタで、逸夫兄の死因を解明するどころか、病院送りにされる寸前だった。しかし、今なら、少しは頭もすっきりして、力夫くんや伯母上から何かを訊き出せると思っていたのに。右足がしびれてきた。肉離れではなかった。筋肉痛だ。水が欲しい、と、思ったとき、せせらぎが聞こえた。峠は近い。

 僕はすべるように沢に降りた。せせらぎは、白石野川の源流だった。跪いて、流れに口をつけて水を飲んだ。噴き出した汗が冷気のために肌にべったりと血のようにまとわりついた。膝から背中にザワザワと蠍が這うような悪寒が走った。
 「死のう」「死のうよ」子供の声が聞こえた。このまま流れに首を突っ込んだら楽に死ねるかも知れない。ぼんやりとそう思った僕の背中で「走れ!」誰かが怒鳴った。

 僕は全力で沢を駆け上がった。こんな余力はなかったはずなのに、50年前の身軽さだった。さっきまでの疲労感は嘘のように消え去っていた。峠の県道に出ると僕は空を見上げた。眉月が優しく揺れていた。「バカたれが」懐かしい逸夫兄の声に間違いなかった。電話が鳴った。父の声が聞こえた。
 「伯母さんはいなかったよ。すぐ帰る」

龍真「年の瀬に面白い体験をしたな」
朝倉「恐怖は体験した者にしかわからないから」
龍真「それは良かった」
朝倉「父も呆けたかな、伯母があの家に住んでいないことは知っていた」
龍真「あわて者の君だ、訊く前に飛び出したんだろう?」
朝倉「そうかも知れない。よし、明日は1時間で往復する」
龍真「ほんとにバカだね」
朝倉「トレーニングです」

バカが大通り

2008年12月30日 | Weblog
龍真「こんな時間に起きていることからしてバカだよ」
朝倉「バカ、という言葉が大安売りですね」
龍真「塩をまいたのは「バカの壁」あたりだろうな」
朝倉「天才バカボンのバカダ大学も捨てがたい」
龍真「TV番組もバカが中心らしいな。バカが肩身の狭い思いをしなくてよい時代というのは、過去に例がないのではないか?」
朝倉「価値観として、一種の革命ですかね。一国の首相の国語力がたとえ中学生並みでも通用するとなれば、誰もが首相を目指せる!って、もしかして、素晴らしい時代じゃあ」
龍真「君は本当にアホだな。バカがバカを笑って何処が面白いのだ」
朝倉「昨今の”お笑いブーム”も、バカブームの延長ですかね」
龍真「暗い世相の反映だよ。戦争へ一直線だな。食うに精一杯で知識人が黙り込む。いつかきた道だよ。本当に人間て奴はバカだね」
 
朝倉「来春3月に片山竜太郎の10周年記念公演をやるのですが」
龍真「あの片山が10年になるのか!」
朝倉「はい。素敵なことです。今「地球を救った男」という戯曲を書き下ろしたばかりなのですが、主人公が”バカ”なんです。優しいバカ、何も決断しないバカ、見守るバカ、ニコニコ笑っているバカ、が、一度だけ自分から決断するんです。それが、結果として地球を救うことになる、という」
龍真「バカな戯曲を書いたな、君。「身を捨つるほどの祖国は在りや?」と、寺山修二が歌うまでもなく、地球を救ってどうするんだよ、誰が感動する?」
朝倉「片山と10年付き合って生まれたプロットですから…」
龍真「片山ならむしろ、野良犬を救ったがゆえに地球を滅ぼす羽目になった、ほうがふさわしくないか?」
朝倉「それこそ、バカ!じゃないですか」

龍真「ブームなど跡形もなく消え去るのが世の常、目くじら立てても時間の無駄だよ。まあ、君は君の信じる戯曲を書きたまえ。そのうち世間が皆貧乏になるから安心したまえ」
朝倉「何を安心するんですか?どうも、あなたこそ、憂さ晴らしで時間を無駄にしているような気が」
龍真「みなまで言うな、そろそろ夜が明ける。今日も1日バカで暮らそう」

過ぎゆく時を見送りながら

2008年12月25日 | Weblog
朝倉:ブログの再開がこんなふうになるとは…夢にも。
龍真:何かい?不服だとでも。
朝倉:いや、そんなことは。
龍真:君は政治的な発言は一切しないそうじゃないか。
朝倉:出来れば現実とは向き合いたくなくて。
龍真:それじゃ世間が許さないぜ。世間様に食わせていただいているかぶき者が。
朝倉:ピーターパン願望と言われている。
龍真:だろうな、情けない奴だ。去勢された奴隷か?
朝倉:ひどいことを。

龍真:ところで、今日は2008年を振り返ってみようか。
朝倉:新春から年末まで芝居が出来て幸せだった。
龍真:君は、世間がどんな騒ぎになっているのか、わかっているのか?
朝倉:人類の歴史が始まって騒ぎのない時代はなかった。
龍真:おおっ、大きく出たね。余は目の前のことを言っておるのだ。
朝倉:考えていないわけではないが、芝居に夢中で…
龍真:だから貧乏作家などと揶揄されるのだよ。いいかい、彼の西条八十先生が生前豪語されていたが、おおよそ、時代を変える力を持たない歌や芝居など、戯事に過ぎないそうだ。君の歌や芝居が時代を変えたことがあったかね。
朝倉:それは、残念ながら、悔しいが、実感がない。
龍真:だろう?甘いんだよ、時代に対しての取り組み方が。迎合するなら、プライドをかなぐり捨てるべきだろうし、対決するなら、時代を撃ち落とす覚悟でぶつかりたまえ。
朝倉:たしかに、そうあるべきかも知れない。
龍真:見たまえ、能力の欠片もない世襲の輩が大手を振って跋扈する世間がどれほど無残に姿を変えようとしているか。既得権にしがみつく姿は、幕末の幕僚によく似ているではないか。奴らには変革の意味すら理解出来ないのだ。
朝倉:随分不満が溜まっているようですね。
龍真:不満ではない。時代が変ろうとしているのに、惰眠を貪る人間が嫌いなのだ。
朝倉:僕のこと、ですか?
龍真:他に誰かいるのか?
朝倉:わかりました。真剣に考えます。
龍真:考えるだけではダメなのだ。実践したまえ。
朝倉:はい。ところで、2008年を振り返る、というテーマは。
龍真:勝手に振り返ってくれ。
朝倉:自、自分から振っておいて…
龍真:静かに見送ろうではないか。
朝倉:それは除夜の鐘を聞きながら。
龍真:まだ6日もある。