面白草紙朝倉薫VS安達龍真

夢と現実のはざまで

万障繰り合せ

2006年09月29日 | Weblog
   9月29日(金)

 アトリエ公演も残すは3日。
お越し下さいました皆様に重ねて御礼
申し上げます。
 我が身に照らせば、中野坂上のたかが
アトリエ芝居に、万障繰り合せ、しかも
木戸銭まで取られて出かける事がどれだけ
愛情とエネルギーを要するか、言葉に尽く
せぬ有り難さは胸に迫ります。
 昨夜はあのW氏、マネージャーK氏も、
仕事を繰り合せて見えられた。
 昨年の夏、某演劇評論家が、観たいと電話を
くれながら、金を取るのか!と、怒って来てくれ
なかった事があった。
 たかがアトリエ公演だが、僕らにとってはこれしか
ない舞台。出演者もスタッフも全力で勝負している。
 タダが当たり前の評論家を座らせる席はない。
いや、啖呵ではなく、実際40席しかないのです。
 それにしても、本当に万障を繰り合せることは、
簡単ではないのです。明日終わるかも知れない世界で
ラストナイトに中野坂上のアトリエ公演を選ぶなんて
なんて素敵なのでしょう。
 そんな訳で、40席に向かって前説に立つ僕は、
感無量で、言葉に詰まったり、噛んだりするのです。
 

華やかさも淋しさも

2006年09月28日 | Weblog
   9月28日(木)

 芝居と並走して映画の脚本書き。日曜日の
千秋楽、楽しみな打ち上げ時に仕上げに追わ
れているだろうなあ。
 あと4日、お茶に誘われても行けない。
淋しいわけじゃない。仕事があるのは良い事だ。
 庭の木漏れ日が優しい。インディアンサマー。
小春日和。相変わらず芙蓉の花は散る気配もない。
机の上に物が多過ぎる。目につくものから、パソコン
40年愛用している高橋博士の最新机上事典、レター
ボックスからはみだした手紙類数十通、ペリカンの
インク壷、三菱ユニ鉛筆(3B)20本、とんぼ鉛筆
(2B)十本、鋏、ペーパーナイフ、消しゴム、ああ、
書くのが苦痛になってきた。仕事をしよう。
そして、机上を片付けるのだ!!

強がり

2006年09月27日 | Weblog
   9月27日(水)

 7時、ふと、目覚めると部屋が随分明るい。
そういえば、夜明け前、カーテンも窓も開け放った
まま、ベッドに倒れ込んだ記憶が…。
 8時、携帯電話が鳴ったが、見覚えのない番号
だったので無視した。
 9時、着信の番号が045だったので、気になって
かけてみた。良かった。親友TSの姉様で、土曜日に
横浜から芝居を観に来て下さるとのこと。
 9時半、少し早いが、11時からのラジオドラマ編集
に出かける。
 10時、途中の喫茶店で朝食。
 10時45分、スワラプロ到着。
 社長のI氏、ミキサーのM氏既に準備完了。
 番組ディレクターT氏も揃って、編集開始。
15時、編集完了。CDRへのDB前に、遅い昼食。
総合PのW氏の提案でスタッフ全員八名、スタミナ
サラダを注文。豚の生姜焼きにドレッシングされた野菜
が盛られたボリユーム満点のあっさり味、これは食べたら
癖になるほど美味しい。
 16時半、DB完了。アトリエへ急ぐ。
今日は三日目、19時半、幕が開き、21時、終了。
 明日の為に、長いダメ出しをして、23時半、帰宅。
 強がりは体に毒かもしれないが、強がって生きてきて
良かった。20年も僕のアシスタントをしてくれている
I君が、一流の仕事は気持ちが良いと、にっこり笑って
くれた。それが何より嬉しかった。

甘露

2006年09月26日 | Weblog
   9月26日(火)

 夜が明ける頃書斎から寝室に移動して
ベッドでまた枕元に積んである小説や雑
誌を手にとってしまうので、眠る時間が
減少する。特にその日の予定が空白だと
昼過ぎまで読みふけることがある。
 今日はその特別な日で、一六時の楽屋
入りまで、洗濯でもするかという楽しみな
日だったのに、1冊読み終えて、うつらな
天国の時間、11時15分、Tから電話。
 朝の電話は珍しいので、受話器を取った。
「おはようございます」
「どうした?何かあったの?」
「いえ、いつも起こされる方なのでたまには
起こそうかと」
 単なる意地悪電話である。
 怒る元気も無く、昼飯を食おうという事になり
中新で待ち合わせ。外は雨、下駄をつっかけて
傘をさし出かけた。
 大吉で昼飯を摂り、コーヒーを飲もうと、
ブルマンに行くとお休みで、それじゃあ、
と、もう一軒の行きつけラフィーネに行くと
閉まっている。結局、帰って砂コーヒーを淹れて
Tと飲んだ。
 雨が本降りになって来た。
庭の芙蓉が、散るどころか息を吹き返したように
雨に濡れながら生き生きと咲いている。
ふと、甘露という言葉が浮かんだ。芙蓉にとって
恵みの雨が、僕らには天敵なのだ。
…役者殺すにゃ刃物はいらぬ。雨の三日も
降ればいい…
 江戸の役者の戯れ歌は数百年後の今も心に
痛い。確かに、当日券は減り、予約の席も空
いたりする。雨にしてみれば何も悪気があって
降っているのではないだろうが、恨めしい。
 気を取り直して、床屋に行く事にした。
久々に和服にしよう。雨だからね。

公演初日

2006年09月26日 | Weblog
   9月25日(月)

 さあ、第9回アトリエ公演の初日です。
シャワーを浴び、雑事を済ませて稽古場
へ。と、言う訳にはいかない。
14時、ユニバーサルミュージックにて
ラジオドラマの打ち合わせ。
 この企画の総合プロデューサーW氏も
既に待っている。滞りなく済んで、坂上
に急行。僕が抜けても、劇団はしっかり
初日の準備を進めている。
 皆、それぞれの仕事に心がこもってい
るのが仕上がった結果に現れている。
 出演者にもそれは充分に伝わっている。
何とも言えない晴れやかな顔を見ると、
疲れなど何処かへ消え去る。
 開演前の挨拶があるので、スーツに
着替え、ネクタイを締める。Tに挨拶の
原稿を渡される。「短い!」
 僕は開演前の挨拶が長いらしく、いつも
顰蹙を買っているらしい。そこで、Tが、
挨拶に必要最小原稿を書いたと云う訳だ。
 俳優の堀川りょうさんが、東州君を心配
して見えられた。開演まで時間があったので
近所の喫茶店へ。そこへ、芝居を観に来て
くれた女優のKさんや俳優のT君、H君等が
いて、礼を言う。初日に来てくれるなんて、
本当に感激だ。
19時30分、短いご挨拶で開演。
まだ始まったばかりなので、内容は書けないが
新しい演出も加えて、舞台は大きなエネルギー
を放出し、お客様の笑顔を見る事ができて、
ひとまず、初日の幕は無事に降りました。
ご来場下さいましたお客様、皆様に御礼を
申し上げます。
 ひとつ、涙が零れそうになったエピソードを、
書いてもいいかな、葉山さん。
…芝居が終わって客席にご挨拶していると、
二人の青年から「ありがとうございます」と、
深深と頭を下げられた。礼儀正しい青年だなと、
ぼくも「ありがとう」と、答えた。
「葉山恵里さん、宜しくお願いします」
聞けば17歳の彼女を見初めて八年、彼女が
病気で活動を休んだ3年間も陰から見守り
彼女の成功を信じて応援を続け、一人の方など
大阪から駈けつけて下さったのだという。
「彼女を発掘してくださってありがとう
ございます」という彼等に、僕は心から、
「あなた達のほうが先です」と答えた。
 葉山恵里が千秋楽を乗りきった時、
祝杯をあげましょうね。彼女に看板を
任せた僕は、俎板の上の鯉ですから。
 明日も初日のつもりで頑張ろう。
 

日曜の午後

2006年09月25日 | Weblog
   9月24日(日)の続き

 15時の約束まで2時間もあった。
僕は、それこそ1ヶ月振りに庭に降りた。
小さな庭一杯に初秋の陽だまり。
 手入れも疎かな庭には前の前に住んで
いたマンションのベランダガーデンから
捨てきれずにいる白いペンキで塗った鉄
製のテーブルとニ脚の椅子がある。
 僕は猿のように両足を抱いて椅子に座り
陽だまりに包まれた。
 目の前に芙蓉の木が木漏れ日を作り、
不可思議な空間にいる心地がする。
 芙蓉の花は散り際を知らないのだろうか、
7月に咲いた薄紫の花びらが日の光を受けて
鮮やかに咲き誇っている。
 枝を手折って母の仏壇に飾ったのは、確か
6月だったような気もする。
 まどろみの中で記憶が薄れた。
 桜の様にあっさりと散る花もある、芙蓉の
花のように、季節を跨いで咲く花もある。
母はあっさりと逝き、父は93歳のいまも
病気もなく健在だ。僕はこの歳でようやく
自分の生きるべき道を知った。
 庭を吹き抜ける風が僕を夢から引き戻した。
其の夢は、懐かしい故郷の丘を駆け巡る風に
大空を舞う僕と妹の、蝶の姿だった。
 僕の命、僕の心の焔、僕のすべて、演劇。
それらに関わる人たち全てにさちあれと祈る。

 

眠りたくない日々

2006年09月24日 | Weblog
   9月24日(日)

 土曜日夜8時に始めた稽古が日曜日の
朝5時にお開き。今回の稽古で全員徹夜
はこの一回だけ。帰って爆睡の者、その
まま仕事に出掛ける者、ドーンパープル
から群青に変わる空の下で別れる。
 金曜の夜から徹夜で書きあげた原稿を
届けて、僕は代田で道に迷い2時間ほど
不思議な時間を体験した。初めての外国
でさえ、道に迷う事は無いと豪語していた
僕はすこし焦った。焦れば普段の能力も
半減する。幸い稽古開始まで時間に余裕
があったので、落ち着く事が出来、僕は
初めて足を踏み入れた街の景色を見廻
した。東西南北の方角は認識できる。
代田から北北東へ向かえば下北沢だ。
 車ではないので、一方通行も平気だ。
 下北沢の駅まで十分か、と思われる
角で、僕は品の良い老紳士に挨拶をさ
れた。何気なく挨拶を返し、老紳士の
後ろ姿を振りかえった。
 矍鑠と去ってゆく其の人は、30年前
富士見台の家を貸してくれたNさんに
似ていた。だが、Nさんはすでにこの世
の方ではない。
 では、誰か!?思い浮かばない。
 いや、一人だけいた。そんな馬鹿な…
背中に汗がすうっと流れた。
 木乃伊列車の支配人が、下北沢に現れる
訳がない。多分、いや、きっと、人違いだ。
 お互いに知人だと勘違いしただけだ。
夢の登場人物に、道に迷った街角で出会う、
これがデイドリームというやつか!
 坂上まで歩くつもりでいたのだが、僕は
眩暈がして、下北沢から小田急線に乗った。
 眠らない日々が続くと、夢と現実の境界
が稀薄になる。今日は15時に面影屋で
W氏と待ち合わせ。
 19時からは最後の稽古。
 いよいよ、明日は、第9回アトリエ公演
「裸月物語」の初日です。
 是非、お越し下さいませ。

裸月物語の男優たち

2006年09月22日 | Weblog
   9月22日(金)

 昨夜、急な仕事の依頼があった。
新曲のプロ―モーションビデオの構成
台本、今日打ち合わせて明日仕上げ。
で、朝から食事を御馳走になりながら、
打ち合わせ。終わって稽古場へ。
 僕が居なくても、稽古は進んでいる。
今回のキャスティングで成功したのは、
チケットが売れません、と、オーディ
ションで告白した森田武猛虎さんを合格
にした事。そうとうの自信か、正直もの
なのか、量りかねたが、面白かったので
○にした。結果は、本当に売れない方で
あった。然し、彼の存在があってこその
舞台が出来あがりつつある。知恵遅れの
少年とオカマの金貸しの二役、身震いする
演技です。チケットが売れ無い事を帳消し
にする熱演に、スタッフも納得してくれる
でしょう。
 さて、続いては、東州真央さん。
俳優の堀川りょうさんに連れられて稽古場
に現れた20歳の青年を、僕はセカンドで
合格にしました。ところが、その翌日、本
役に決めた青年の事務所から、NHKの連
ドラが決まったので、と、出演辞退の電話。
彼は見事本役に昇格。早速、稽古に突入、
だが、話しはここから、なんと、彼は全て
が初体験、つまり、全くの初心者だったの
です。あれから1ヶ月、汗と涙の特訓の日
日、付き添いで稽古に参加した同事務所の
橘マリアさんとダブルキャストにされても
へこたれず、付いてきてくれました。
 芝居が旨いとか下手とか、そんなレベル
ではありません。朝倉の演出力の問題です。
僕が責任取ります。
 劇中、博士役の東州真央が叫びます。
「小児麻痺の少女一人立たせられなくて何が
文明だ!」
 僕も言われそうです。
「素人の一人舞台に立たせられなくて何が
演出家だ!」
 いや、東州君は反論するでしょう。
「先生、ぼくはもうプロですから!」
「そのとおり!君はプロだ!」
 楽しい舞台をお見せしましょう!

初日まであと三日

2006年09月21日 | Weblog
   9月21日(木)

 アトリエ公演「裸月物語」の初日まで、
残すは三日。裏も表も、まだまだやる事
は沢山ある。果たして無事に幕は上がる
のか?!胃が痛むこの緊張感、嫌だが、
好きだなあ。 アトリエだろうと大劇場だ
ろうと、舞台は舞台。真剣勝負に変わり
はない。初日が近づいて見る夢は決まって
ガランとした客席。冷や汗で目が覚める。
十五年も続けば、もういいだろうと思うの
だが…芝居の神様が許してくれない。
 今回の出演者の横顔、稽古の合間に見た
印象などを、勝手に書いたら叱られそうだが
観に来て下さるお客様へのサービスです。
 まずは、今回の看板女優、葉山恵里さん。
オーディションで素直過ぎて、ひとつ間違え
れば大喧嘩になる会話。周りがハラハラした
そうだ。あまりのやる気の無さに
「何のオーディションかわかってきたの?」
「事務所に行けって言われて」
「覚悟が足りないね」
「なんにも覚悟してません。ダメですね私」
「うん、ダメだね」
と、こんな会話が続いたらしい。
17歳からアイドルをやっていたらしいが、
誰も彼女の素晴らしさを見抜けなかったのが
僕には幸いした。女が化けた男役、生まれて
1度も立った事の無い17歳の少女。そして
気の触れた探険隊の隊長。見事にやり遂げた
時、新しい女優が誕生する。どうか、見届け
に来て欲しい。一途なあまりに一途な美少女
を目の前に、あなたは思わず涙するでしょう。
続いて、塩山みさこ嬢。
彼女が映画、テレビでなくてはならない女優に
なるのに、十年も必要としないのは明白です。
僕は、女優は生まれや育ちとは関係のない、
「品格」が最も重要な要素だと思う演出家です。
食い逃げや万引きは絶対嫌です。塩山みさこは、
自分では貧しい家庭に育ったといいますが、僕は
嘘だと思っています。あの礼儀の良さや微笑みは
貧しい心からは生まれません。
胸に牡丹の刺青をした女盗賊、キチガイ探険隊の
二役、無理難題を受け止めて塩山みさこは飛翔する。
 さてその次は、あまのまい。
20歳の女子大生の彼女に、
「髪を丸めた学生服の男の児の役をやってもらう。」
と、言ったら、大きな瞳を潤ませて、
「あい!」と、まわらぬ滑舌で健気に答えた。
この時、彼女は9割「守君」の役をものにした。
と、言っても過言ではない。
 初恋のあの湧き上がる泉のような感覚を、もう一度
体験したい方は是非とも「あまのまい」の「守君」を
観にアトリエにお越し願いたい。あなたは、きっと、
甘酸っぱいあの味を思い出して胸が切なくなるはずです。
おっと、大事な女優を忘れるところでした。
我等が劇団の新進女優「真一涼」です。またかりょう、
と読みます。今回も男に化けた女の子役、しかも時代劇。
稽古場でも初心に帰って励んでおります。チケットも
あまり売れていない様なので、心配です。だって、イイ女
が、子供のようにぽろぽろ涙をこぼして泣くんです。
それもみんなの前で。「気合いを入れないと役を下ろすぞ!」
と、叱っただけなのに。可愛いのか、馬鹿なのか、よく
解かりません。さあて、男優陣は、明日のお楽しみに。

残り香

2006年09月20日 | Weblog
   9月20日(水)

 北海道から帰京して旅日記を書いて
いたら、4日が過ぎた。 いや、日記で
終日を費やしていた訳ではないが、気
分的には公演の稽古と日記のくり返し
だった。原稿はどうなっている!?
 はい、着々と、今週中には第一稿が、
…取材費を出して貰っての旅行だ。楽
しかっただけでは済まないのである。
 机に向かうと、鼻先に硫黄の匂いが
する。 玄関で靴を履こうとすると、又
硫黄の匂いが、喫茶店に入ってコーヒー
を飲もうとすると又…オンネトー温泉の
あの匂いが鼻先をよぎる。
 残り香で古い記憶が甦る。あれは…
30数年前、ヨーロッパ旅行から帰国して
1ヶ月あまり、指に纏わりついたフランス
の匂い。強烈な匂いが廻りの人に気付か
れないか気がかりだったが、僕の思い過
ごしだったことがある。
 残り香というのは、多分に想いが作用
しているのではないかと、あの時結論付
けたが、今回の‘硫黄‘の匂いも、又、
足寄での強烈な体験が、5日過ぎた今も
鼻先に甦るのだろうか。周りの人に、
僕、硫黄の匂いがしませんか?と訊ねる
のも恥ずかしいのでだまっているが、
きっと、硫黄の匂いなどしてはいない
のが現実なのだ。
30年まえの指先の匂いも、そうだった。
視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚に加えて
人間には六番目の感覚があるそうだが、
甦る記憶の中に、時々、体験したことの
ない記憶があって戸惑う事がある。
 それが誰の記憶なのか思考を巡らせる
のも、楽しくないこともない。
 自分のこともよく解からないんだけどね。