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日々の出来事から国際情勢まで一刀両断、鋭く斬っていきます。コメントは承認制です。但し、返事は致しませんのでご了承下さい。

園児の列に暴走車 扇動するマスコミ

2006-09-29 01:02:18 | Weblog
 25日に埼玉県川口市の市道で起きた、近くの公園に散歩に向かう保育園児の列に車が突っ込んだ事件で、ワイドショウのキャスターが世論をミスリードしかねない発言をしていたという。

 事件の概要については、多くの読者がもう既に御存知のことと思うが、事件は保育園の日課である公園への散歩の途中で起きた。加害者は運転をしたまま車の音楽テープに気を取られてハンドル操作を誤り、園児と保育士の行列に車を突っ込ませた。運転手は、前夜都内で遊び車中泊、その時はトイレを探していたとも言われている。

 園児は全部で33人。それに5人の保育士が付き添っていた。この保育園の散歩行列は近所でよく見かけるもので、私も何度か見かけている。園児たちは変にはしゃぐことはなく、いつ見ても整然と楽しそうに歩いていた。

 ところが、日本テレビのキャスターは現場付近の映像を見て保育園のやり方に疑問を投げかけたという。幅員6メートルとはいえ、かなり交通量のある道を園児たちに二列で歩かせるのはいかがなものか、園側の安全管理に問題は無かったかと言ったらしい。

 私は番組を見ていたなかったから確信はなかったが、経営する英会話学校のスタッフがその番組を見ていてキャスターの発言に、あまりに一方的と憤慨していた。私はそれも気になったが、園児と保育士の「心のケア」が心配になり、川口市の保育課に専門家の派遣を考えているか確認の電話を入れた。すると、電話に出てきた担当者は、自信に溢れた対応で「明日からの派遣を考えております」と言い切った。小鳩保育園は運動場を持っていないこともあり無認可保育園だが、川口市の独自基準を満たす「家庭保育室」だ。こういった非常時には、行政の支援は不可欠といえる。

 東川口校のスタッフが、もしやと生徒の一人で同保育園に通う男児Mの家に事件の翌日、電話連絡した。すると、Mは、行列の中にいた一人である事が分かった。母親の話では今のところ大きな心の動揺は見せていないとのことだ。

 Mは事件の翌々日、英会話の授業に姿を見せた。私の顔を見ると、いつものように胸に飛び込んできながら「ねえ、TVのニュースみた?」と聞いてきた。その顔には笑みが浮かべられ、事件のショックはうかがえなかった。

 Mが教室に元気に入っていった後、母親に話を聞いた。

 「Mは年長ということもあり、列の先頭を歩いていたんだそうです。外出する時は、年上の子が小さい子の手を引いて、小さい子を守るように車道側を歩いて二列で進むようにしています。先導していた先生が、『車が(後ろから)来まーす』と言ったのでMも後ろを見たんです。だから、事件の一部始終を見てしまったんですよね」

 車はかなりのスピードを出したまま道路の左端を歩く園児達の列に突っ込んだ。そして道路わきの電柱にぶつかって停車した。

 Mの母親によると、Mは「車はずるいんだよ。左に曲がって突っ込んできたの」と言ったそうだ。子供にすれば、自分達はきちんと歩いていたのに、車はルールを守らなかったと言いたいのだろう。

 Mは修羅場を見て震えはしたが、「僕は泣かなかったよ」と言ったそうだ。恐らく自分は年長という意識が高いのだろう。気丈にも取り乱さなかった。だが、彼の心中を想うと心が痛む。

 その夜、家に帰ってからもMは大きな変化は見せなかったそうだ。だが、やけにテンションが高く、遊んでいても相当興奮していたと母親が言った。そして、時折り、ふと事件のことを思い出すらしく、はしゃぎすぎる自分を戒めていたという。

 Mの言動の分析はとても素人の私の手に負えるレヴェルではない。川口市の派遣してくるカウンスィラーにきちんとした分析をお願いしたい。

 さて、日本テレビのキャスターの話に戻そう。その番組は、同席した他の生徒の母親も見ていたようで、その発言に違和感を感じただけでなく、「あの道路の映像を見せていたけど、近所の人の話だと、あの交通量は見物車両のせいで、普段はそんなに車が行き来する道ではないとそうですよ」と、我々の話に加わってきた。

 そして28日の午後、私は現場に足を運んでみた。事故現場には花束とお菓子や飲み物が持ち寄られ、私が現場にいた間にも次々に人が来て献花したり手を合わせていた。

 一部で言われている園児の列が道路の左側(交通の基本は、「人は右、車は左」)であったことへの疑問についても考えてみた。あくまでも推測だが、現場に立ってみると、保育士たちは、道路の右側に倉庫があり、その前にある駐車場に出入りする大型車を避けたと思われる。

 また、並行して走る大通りの歩道の方が安全と思えなくもないが、全国でも珍しい「歩道」と「自転車道」に別れているとはいえ、歩道を突っ走る自転車が後を絶たないことを考えると、それを嫌がったこともありうる。

 だから、現段階で園側に過失が全くなかったとは言い切れないが、世論に影響を強く与えるマスコミが、現状を反映していない映像だけを見て疑問を投げかけることは危険なことだ。そういう無責任な追求をするから教育現場が世論の目を恐れて萎縮してしまうのだ。幸いなことに、保護者たちは園の説明会でも園の方針を全面的に支持、非難する声は上がらなかったという。また、公園への散歩もぜひこれからも続けて欲しいと声を揃えたという。

 事故現場から目的地の公園まで後20メートルほどの距離であった。時間にすれば、幼児の足でも3,4分だろう。現場を訪れた多くの人が、運命のいたずらと思ったに違いない。
 

 

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