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いつまで続くの?

2006-09-04 10:41:48 | Weblog
 子供たちの夏休みが始まって間もない頃、一人の中学一年生が親に連れられてきた。都内の有名私立中学に入学したものの、英語の勉強についていけないので何とかしたいというのが親の相談内容であった。

 部屋に入ってから面接の途中まで、その子はうつむいたまま。私の方を見ることはなかった。私のところに来たのが、自分の意思でないことはその姿を見れば明らかであった。

 私の英会話スクールでは、子供にその意思がない場合、子供のことを考えて入学を見合わせるように親に言うことがままある。

 こういった子に共通することだが、私の質問のほとんどに親が答えていた。そこで、母親に事情を説明して理解してもらい、子供に直接幾つかの問いかけをして彼の答えを待つことにした。夏休み明けのテストに向けての勉強をしたいから短期間勉強を見て欲しいとのことだった。

 その他にもいくつかの問答をしたが、気になったのは彼のずっと伏せたままの視線と固まった態度だった。そこで、私はいくつかの自分の失敗談などをまじえながら自分の考え方を話した。そしてその後、「僕の目を見て話せるかな?」と“難題”を吹っかけてみた。すると、彼はきちんと私の目を見てきた。そしてハッキリと自分の意思を伝えてきた。私はそこで彼なら大丈夫、と踏んで依頼を受けることにした。

 小一時間の面談の後、スタッフがその変わり様に驚くほど、彼ははきはきとした挨拶を我々にして帰って行った。

 夏休みの間、幾つか気になる言動は見られたが、きちんと通ってきた。そして、急速とまではいかないが、それなりの進歩は見せた。8月の末、母親から二学期に入ってからもお願いしたいという連絡が入った。

 ところが、それは彼の意思とは関係なく決められたことのようであった。最後のレッスンの時、付き添ってきた母親の陰に隠れるようにしている彼を見て私は話を中断して彼に「君は続けたいのかな?」と水を向けた。彼は力なく首を横に振った。

 ならば話は別である。私は母親に、彼に考える時間を与えましょう、と提案した。

 その後で彼と二人だけで30分ほど話をして彼の本音の一部を聞くことができた。

 彼の本音を要約すると、「『この中学に入れば、その後は受験勉強をせずに大学まで行ける』という親の言葉を真に受けて小学生の時に何年も塾通いをして苦しい思いをしてきた。合格すれば好きなことをさせてもらえるとも言われた。でも、いざ入学してみれば全然話が違って勉強漬けの毎日ではないか。こんな生活がいつまで続くのか。こんなの嫌だ」ということだ。

 彼の言うことはもっともだ。後で彼が「あの時やっておけば良かった」と悔やむことになるであろうことは容易に想像が付いたが、引き留めることはしなかった。

 

 

 

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