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日々の出来事から国際情勢まで一刀両断、鋭く斬っていきます。コメントは承認制です。但し、返事は致しませんのでご了承下さい。

9.11とマスコミ報道 その1

2006-09-12 12:28:28 | Weblog
 5年前、私は帰宅してつけたTV画面に釘付けとなった。WTC(世界貿易センタービル)に飛行機が衝突、その模様が実況中継されていたのだ。私は、ロス・アンジェルスに住むパイロットの友人に連絡を入れ、テロの可能性についてたずねようとしていた。その友人は、私に飛行機の操縦を教えてくれた、いわば「先生」だ。

 その時、画面の端からもう一機の飛行機が突入、そのままWTCに突っ込んだ。信じられぬ光景であった。それまで、多くの事件や戦争を目撃してきたが、このような出来事はそれまで同じ類いのものを見たことがない。

 友人の「オー・マイ・ゴッド」という叫びが電話口で響いた。私も思わず、「オー・マイ・グッドゥネス」と同様の叫びを上げていた。

 これは事故ではなく事件であることは間違いない。考えられるのは、アメリカに対する政治が絡んだテロだ。だとすると、最初に聞こうとしていた「素人が操縦桿を握って標的に的中できるか」は是が非でも聞かなければならない。彼女の気持ちが収まるのを待って問いかけをしてみた。

 彼女の話では、素人でも少し訓練を受ければ離着陸は無理だが、あのような大型機の滑空操縦も可能だということであった。

 翌日、私の元にTBSから特別番組の出演依頼が飛び込んできた。TBS報道部は事件後、私に連絡を取ろうとしていたが、私がちょうどその少し前に離婚をして自宅を出ていたため連絡が取れず、探し回っていたという。

 急遽出演が決まり、迎えの車に乗ろうとした時、携帯電話が立て続けに鳴った。電話の主は、TBS同様出演依頼をする他のTV局と、私のことを心配するマスコミの先輩であった。

 マスコミの先輩は、TBS報道局が異様な空気に包まれているから発言に気をつけるようにと助言をしてきた。それは、私に圧力をかけようという類のものではなく、純粋に私を心配してくれてのものだった。だが実を言うと、その電話を受けた時は、少々その先輩が大げさに言っているのではと感じた。

 TBSに着くといきなりスタジオ入りをした。特別番組の司会は、筑紫哲也さんだった。解説者は私を含めて4人だったように記憶している。簡単な打ち合わせをしている時、先輩の心配していたことが納得できた。スタジオの中を、報復攻撃やむなしの「いけいけムード」が充満していたのだ。普段は冷静な筑紫さんまでもが「対アフガニスタン爆撃も仕方がないかな」という発言をしている。さすがに本番になるとそういう発言はなかったが、言葉の端々にそれに近いものを感じた。

 特別番組は二部構成になっており、その両方に解説者として出演した私は、8人位いた解説者の一人を除いてほとんどが「報復賛成」に傾いていることに驚いた。確かに、ビン・ラーディンのグループが実行した可能性は高かったが、それとて確かなものではない。事件後それまでにアメリカから伝えられてきた情報と言えば、「国防総省に突っ込んだ飛行機はホワイト・ハウスに突入するつもりだったが、屋上に地対空ミサイルがあったので方向転換した」「乗り捨てられたレンタカーからコーラン(イスラーム教経典)とアラビア語の飛行機操縦マニュアルが見つかった」等といった、私から言わせれば眉唾物が多かった。

 ホワイト・ハウス説に関しても、飛行機操縦マニュアルの発見情報にしても作戦を実行するグループがその辺りを用意周到、調査や準備をしないで実行に移すはずはない。マニュアルにいたっては試験会場に参考書を持ち込んでギリギリまで手放せずにいる受験生ではあるまいし、現実にはありえない話で、冷静になって考えれば根拠に乏しい情報と思えるものが、その時は、TV局の報道部の中では、「アル・カーイダ説を裏付ける重要情報」との扱いをされていた。

 TVに出てくる専門家たちは、9.11の惨状が次々に明らかになり、ブッシュ大統領が視聴者に向けて「十字軍の再現」を誓ったり、人気絶頂の小泉首相が“ポチ宣言”をすると、右に倣えとばかりにますます冷静さを欠くようになり、対アフガン攻撃に傾く論調を強めた。

 私も連日TV出演していた。だが、私が、どんなに対アフガン攻撃が非人道的というばかりでなく、西側社会にとっても不利益をもたらす可能性が高いと強調しようが、威勢の良い「アメリカ追随外交」を支持するコメンテイターの声の前では多勢に無勢であった。

 番組作りに問題があるものも少なくなかった。緊急報道番組の場合、一人又は二人の解説者だから大きな問題は生じにくいが、これが討論番組になると、コメンテイターの数は倍増する。中には10人近くの「論客」が集められる。それも、その人選基準が面白さだったりすることが多いから、意見がかみ合わず「子供のけんか」のようにただの不毛の論議状態となる。

 「朝までテレビ」を観ていて不快感を持っていたため討論番組への出演は避けて来た私だが、一度だけスタッフの熱意に押されて出演を承諾した。TV朝日の討論番組だった。

 そこには7,8人のコメンテイターが呼ばれていたが、その顔ぶれは、軍事評論家の志方氏、小池百合子氏、米人弁護士のケント・ギルバート氏などブッシュ寄りと思われる人たちばかり。企画の趣旨はすぐに察しが付いた。みんなで寄ってたかって私をいたぶるつもりに違いない。私がそういう状況でも筋を曲げることなく、感情的にならずに持論を貫けるから良かった(スタジオに主婦数十名が呼ばれ、討論前と討論後に対アフガン攻撃の賛否を聞く企画で、討論後に行なったアンケイトで私への支持が集まった)が、そうでなければ悲惨な結果になった可能性がある。結果的に私にとって良い結果で、番組スタッフから「これからもぜひよろしくお願いします」と賛辞をもらってが、それから私がその種の討論番組に出演することはない。

 9.11から1ヶ月も経たない内に米軍のアフガニスタンへの空爆が始められた。マスコミ各社は、米軍の最新鋭兵器の精度や破壊力を過度に強調して、湾岸戦争から続く「TVゲイム」的な映像を多用して報道し続けた。そこからは、爆弾の落とされる先の悲惨な状況は見るものに伝わってこなかった。アフガニスタンに入った報道陣から映像が送られてきたが、そのほとんどは北部同盟(親米勢力)側に入った特派員の「立ちレポ(カメラの前に立った特派員が報告する)」で、戦争の実態を伝えるものとは言いがたかった。

 それらの特派員は、現地でもほとんど情報を取れず、国際情勢からも取り残されていたため、テレビ局から特派員の元にニュース原稿を送り、それを読ませるようなことが続いていた。それに疑問を呈した私に対して、TV局幹部は「目をつぶってくださいよ」と片目をつぶった。その“返答”に首を傾げると、彼は私を避けるようになった。

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