空手バカ

　中華料理屋で昼飯を食っていると、Mがひょっこり入って来た。食後、近くの私の好みの珈琲屋に誘って世間話。
　Mは10年前、阪神大震災が起きた時、支援物資を満載した車を現地に運転して行ってもらって以来の付き合いだ。格闘技好きで、神戸と浦和の往復に何度も付き合ってもらったが、休憩に寄る店で手に取るのは、格闘技の雑誌だけという「格闘技バカ（いい意味でのバカです、念の為）」だ。そのバカが高じて結婚した相手の父親が「極真の虎」と恐れられた豪の者だ。
　Mの結婚披露宴に呼ばれたが、出席者の中に格闘技界の有名どころがズラリ。私が出席した披露宴の中では最も「男のニオイ」が強い式典だった。Mの主賓は私が務めさせていただいたが、花嫁サイドの主賓は劇画で有名な梶原一騎の未亡人。まあ、得も言われぬ珍妙な組み合わせと相成った。
　Mはその後、イギリスに夫婦で渡り、空手道場を開いて活躍していた。故あって帰国したが、再び英国に行きたいと言う。奥さんも父親の血を引いてかなりの腕前らしいから日本での生活に飽き足らないのだろう。だが、先月起きたロンドンの同時爆破事件の余波は思いの外大きいらしく、「ヴィザを取るのがますます難しくなってしまいました」と半ばあきらめの表情であった。こんなところにも事件の影響があるのかとしばし考えさせられた。