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日勤教育は他社にも存在 尼崎事故の元凶はヤードスティック法?

2005-05-20 12:00:16 | Weblog
私の視点-日勤教育は他社にも存在 事故の元凶はヤード・スティック法?

 JR西日本の脱線事故も、その後起きた幾つかの事件に押されていつの間にかマ
スコミに登場する機会を失いつつある。このまま恐らく、余程の事がない限り問
題の核心に触れぬまま幕引きになっていくのだろう。そして、後世に伝えられる
のは、「最初、運転士を袋叩きにしたが、その後JR西日本の体制に問題がある事
が分かり、会社に批判が集中した」といったおぼろげな記憶だけだろう。

 そこで私なりの調査をしてみることにした。現在、松葉杖生活であるから「足
を使った」取材はしていないが、電話とインターネットを駆使した。

 関係者に聞いてみると、いろいろマスコミで伝えられてこなかった「裏事情」
があることが分かった。これまで日本全体がしてきたように、ただ単純にJR西日
本を火祭りにあげて済むことではないことが見えてきた。

 まず、「悪の権化」のように言われる日勤教育だが、これはJR西日本だけでな
く、他のJRや大手私鉄でも日常的に行なわれている事が判明した。私は、失敗を
してしまった従業員を再教育するのは決して悪いことだとは思っていない。だが、
日勤教育は、どの会社のものも、「再教育」というよりも陰湿な「みせしめ」や
「いじめ」だ。再教育と言うのだから、オーバーランをしないように実地訓練を
繰り返したり、仲間の運転を見てそこから自分が劣っていた技術や心構えに気付
き、他人の良い点を学び取るような内容の訓練をしているものだと思っていた。
しかし、JR以外の鉄道会社で行なわれている日勤教育は、JRと50歩100歩、ほとん
ど同じ内容なのだ。安全基準に関する法律を延々と書き写させたり、反省文を書
かせたりしているという。この法律の書き写しを考え出したのは、子供の頃に親
から写経(筆者注:私の読者には若者が多いので説明させてもらいます。写経とは
お経を写し書きすることです)を「お仕置き」としてやらされていた古い世代であ
ろう。また、草むしりも同様の「お仕置き教育法」のような気がする。自分達が
嫌だった“教育法”を、社員教育に押し付けたのではないのか。

 大手私鉄会社の運転士によると、運転技術の再訓練をしようにも、現実的には
現役の運転士に勝るものはなく、教えるものがいないという。そこで私は提案を
したいのだが、今の日勤教育のような時代がかったものは廃止して、専門教官を
育て、再訓練に当たらせたらどうだろうか。また、鉄道会社間の交流を深める意
味からも、他社の電車の運転室で見学させるやり方も考えられる。

 競争するライバル社の運転士を、自社の電車に乗せるようなことは各社全てが
難色を示すだろう。だが、そこはそれ、鉄道は「認可事業」だ。鉄道会社にとっ
ては鬼より怖い国土交通省(以下、国交省)の「指導」とあらば、異論を唱える会
社は皆無になる。

 さて、その国交省だが、安全管理を指導するだけではなく、私鉄各社の運賃の
値上げを認可することから鉄道会社には絶対的な影響力を有している。今回の尼
崎の事故で、国交省は折にふれマスコミに登場してきたが、それは「お目付け役」
としての意見を求められた時だ。国交省が今回の事件にどのような責任を負うべ
きかとの検証はなされていない。インターネット上では、一部の人が、「マスコ
ミはなぜ国交省の責任を追及しないのか」と指摘している。一般市民の方が、報
道を生業にする記者よりも鋭い視点を持っているのだ。これなんぞは、記者たち
がいかに目の前のことばかりにとらわれて大局を見失う「木を見て森を見ず」状
態に陥っているかの好例である。

 読者の電車運転士からいただいた連絡で、ヤードスティック法がこの分野にも
適用されていることを知った。このヤードスティック法が電力会社の電気料金の
価格算定方法として取り入れられたのは知っていたが、運賃値上げの認可にも使
われているとは知らなかった。その目的は、業者間で効率化を促進させることに
あるとされているが、要するに、「運賃改定後3年間、収支実績を見ます。改定料
金が、能率的な経営の下における適正な運賃であるか見定めるわけです」(国交
省鉄道局職員)ということだそうだ。つまり、「基準コスト」を「実績コスト」
が大きく上回った場合、鉄道局は基準コストを適正コストにする(効率性を促す)
よう指導するらしい。これが、鉄道各社には大きな脅威に感じられ、経営陣は効
率化の徹底に躍起になってきたのだ。そして、効率化最優先の運営が、今回のJR
西日本で見られたように運転士の「焦り」を誘い、危機管理をおろそかにする結
果を招いたと私は見る。

 私の、そういった指摘に、電話取材に応じた鉄道局職員は「(国交省は)JRの場
合、全6社でトータルに見ており、決してご指摘のような競合他社の比較をしてい
るわけではない」と答えたが、大手私鉄会社の幹部にその話をぶつけてみたとこ
ろ、「JRさんだけでなく、われわれ大手私鉄にとっても鉄道局や運輸審議会は脅
威そのものですよ」と間接的に私の指摘を認めた。

 今回取材をしてみて強く感じたのは、各鉄道会社が、「尼崎事故」と背中合わ
せの状態で毎日の電車運行を行なっているということだ。首都圏で言えば、小田
急と西武が相当問題を抱えていることもいろいろな方面から耳にした。これら2社
の運転士や車掌の会社や幹部に対する不満はほぼ頂点に達していると見られ、必
然的に電車運行などにも影響が出て事故の芽と言われる「ヒヤリハット」はかな
り頻繁に起きているらしい。会社が徹底した管理体制を敷くことで職員に圧力を
加え、辛くも体制が保たれている感じがした。

 このような危機的状況を放置していれば、尼崎事故を見るまでもなくやがては
大事故につながることは誰にでも想像できることだ。「臭いものにふたをする」
「運転士や車掌を管理する」といった古い体質から一刻も早く脱却し、私鉄各社
は大改革に取り組んで欲しい。また、鉄道各社だけでなく、業界が抱える問題の
元凶とも思われる国交省にも大きな改革のナタが振り下ろされる必要があること
は言うまでもない。