有田芳生の『酔醒漫録』

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俗世を離れて思う

2007-10-20 10:58:21 | 随感

 10月18日(金)テレビ、インターネット、携帯電話(これはほぼ)と無縁の一日を福島の中ノ沢温泉で過ごした。発端は『はり100本』(新潮新書)の竹村文近さんからのお誘いだった。身体の疲れを取るために、温泉に入っては眠るという繰り返しの休息はいかがですかというのだった。17日の夕方にお弟子さんの運転で東北自動車道を走る。明治19年開業の扇屋旅館に着いたのは午後10時すぎ。すでに滞在している竹村さんと会って部屋へ。荷物を置いてすぐ温泉に入った。湯船の奥から源泉があふれ出ている。口にするとレモンを濃縮したような味だ。部屋に戻り、ねじめ正一さんの『荒地の恋』(文藝春秋)を読みはじめる。「荒地」同人で詩人の北村太郎が、幼なじみでもある田村隆一の妻と53歳で恋に落ち、やがていっしょに暮らすようになる。鮎川信夫など、面識はないけれど詩を読んだことのある人々の物語に引き込まれる。繊細な人間の心が的確に描かれ、シーンが屹立する。小説の面白さを久々に感じる。いつしか夜も更けていたので、灯を消す。物音さえしない静けさだ。朝起きてすぐに温泉へ。露天風呂に行くとそこから紅葉が見えた。いつしかもう秋だ。部屋に戻り読書。そしてまどろむ。昼前に旅館前の「みやもり」へ。日本酒の「飛露喜」で馬刺しなどを食べる。

071019_15000001  食事を終えた足で五葉荘へ。温泉に入る。古びた廊下には1961年にここで松竹映画が撮影されたときの写真が掲示されていた。そこにいるのはまだデビューしたころの鰐淵晴子さんだった。当時は中ノ沢温泉は日本一の温泉といわれていた。スキー客や湯治客で賑わったのは往時のこと。バブル時代をピークに1995年ごろからめっきり客が減っていった。最近ではスキー客そのものが少なくなっているという。扇屋旅館のご主人によれば、ゲームやパソコンの普及とともに余暇の過ごし方が変わっていったのではないかという。五葉荘から戻るとき、商いをやめたスナックが何軒も眼に入る。ある店ではすでに使われていないカウンターの近くで鎖につながれた犬が眠っていた。部屋に戻り再び温泉へ。そして読書、まどろみ。目が覚めて最後の温泉。旅館を出たのは午後5時前だった。お土産に高原トマト、白菜、大根、手作りの納豆などをいただく。近所の日乃出屋で天麩羅饅頭などを買って東京へ。これほど貴重な観光地が廃れていくのを何とかしなければならないと思う。全国にはこうした土地がまだまだ残っているはずだ。観光立地の工夫をすれば少しは改善するのだろうか。竹村文近さんの鍼治療を組み込んだ定期的なツアーなども一案だ。そんな話をする。


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1 コメント

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いつも深いお言葉、身にしむ思いで読ませて頂いて... (ソナム)
2007-10-20 22:52:11
いつも深いお言葉、身にしむ思いで読ませて頂いています。
古くからの温泉地が廃れ、温泉がない所に無理に温泉を造る、自分は利用しながらも、問題を感じています。確かに、町興しによって、多くの人が幸せになったと思います。一方で、古い温泉地が廃れるのは、駅前のパチンコ屋が潰れていくのと同じ気がします。日本が汗まみれの人々の力で復興してきたことを忘れつつあるような気がしています。
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