9歳ぐらいまでの体験を思い出すままに綴ってきた。
環境が一変した今の 子供たちが体験したくても体験できないことばかりだと思う。
生と死にかかわる体験が多い。
今回はわたしが育った北パラナ国際植民地における終戦の頃までの統計をもって体験記の中間報告としよう。
国際植民地開拓15周年記念誌にあった死亡者名簿に基づいてこの統計を編まれた方は、わが父母より2年ぐらい後に同所に入植された沼田信一さんである。
わたしが生まれた開拓地で、同時代に、これだけのこどもが亡くなっていたことに驚いている。
死亡者総数198名を100%とすると、10歳までの死亡者数82名は41.4%にあたる。
その内47名は0歳と1歳である。お葬式の23.7%が赤ちゃんであったというこの数字は世の母親たちの同情と想像力を大いにかきたてるに違い ない。
乳幼児の死亡率が高い原因はゼロから始まる開拓生活の厳しさにあるだろう。
何から何まで自分たちで協力し合ってやるほかない。
産婆も医者もいない。こどもが出産を手伝うこともある。わたしが笹の切株で脛をえぐられたとき父親が常備の破傷風の注射で予防してくれた。傷の縫い合わせができないから大きな傷跡が残った。
母親は家事のほかに畑仕事の重労働を手伝わねばならない。
子守りがおればよいがいなければ放置して時々授乳したり様子を見て対応するほかない。病気になったら常備薬と運に委ねるしかない。
付け加えておくが、同植民地は気候に恵まれた肥沃な土地で、サンパウロ州で苦労した移民には「希望に満ちた楽園」に見えた。
出典 沼田信一著『信ちゃんの昔話』
(丸山康則著『ブラジル百年にみる日本人の力』から孫引き)
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