自分史 物怖じしない国際人を育てるヒント集

近現代史に触れつつ自分の生涯を追体験的に語ることによって環境、体験、教育がいかに一個人の自己形成に影響したか跡付ける。

マト・グロッソ/大いなる逆さまの藪

2023-10-20 | 移動・植民・移民・移住

2014年10月16日、グリーンピースブラジルの調査チームは、大豆と畜産のための樹木の焼却と森林伐採を監視するためにマットグロッソ州を撮影しました。
出典:www.greenpeace.org.taiwan © パウロ・ペレイラ/グリーンピース
国際環境NGOグリ-ンピースはブラジルでもインデジェナ団体と共同して自然保護と生物多様性保存を政府、企業、消費者に訴えて成果を上げている。

引用ばかりで気が引けるが、つぎの記事も地球環境破壊、気候変動を語るうえでも優れて有益である。
大豆と「世界で最も生物多様性に富むサバンナ」ブラジル セラードの深い関係
この記事のポイント
ブラジルの中央を縦断する広大なサバンナ地帯、セラード。豊かな生物多様性、大量の炭素貯留、豊富な地下水源を誇るこの地域の自然が今、牛の放牧や、家畜の餌となる大豆の栽培を目的とした大規模な開発*により脅かされています。ここでしか見られない野生生物や植物を守り、これ以上の破壊を食い止めるため、WWF[世界自然保護基金]は農業と自然の共存や、保護区拡大に向けた活動を行なっています。
出典WWFジャパン 使用許諾が下りなかった映像も見て欲しい。https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/5131.html
*第4次中東戦争がもたらしたオイルショック後の国家プロジェクトにより、農作物に適さないとされてきた土壌が改良され「セラードの奇跡」が起きた。石灰による中和とリン酸肥料が決め手となった、と言われている。

原音でセハードと発音するCERRADOは、まばらな灌木や藪で閉ざされて(英語のclosed同様過去分詞)見通しのきかない草原の意である。とりわけMATO GROSSOは、上掲画像にあるとおり、低木が茂る深い藪である。前章で私は「広大な藪」と仮称し、次章でどんでん返しの異称に言及することを約束した。
マットグロッソの低木は地上部ではひねくれた幹、厚みや棘のある枝葉を特徴とするが、深い水脈をもとめて地下深く伸びる根は最長15mもあることが知られるようになり、マト・グロッソに「逆さまの藪」なる異名が付いた。
地下の根が主役で、水分と炭素を貯留し地上の繁みの密度を維持して乾季の土壌乾燥を緩和しているのである。下流一帯を雨季の洪水、乾季の渇水から守るのも地下に張り巡らされた生態系*である。
*逆さまの思考で読者をうならせている養老孟司さんの明察。土壌流出しない「その土の構造をつくっているのが地下の生態系で、大事なことは根を土に残すこと」

今日、ブラジルは大豆生産でアメリカを抜いて世界一になった。半面、セラードの半分以上(マトグロッソでは8割)が開拓されたとも言われている。文頭の写真をもう一度じっくり観てみよう。

広大な農場は工業化された農業を想像させる。AIを装備した巨大なハーヴェスター、化学肥料、農薬。大企業、技術者・・・。
循環型農業でないから必ず土地が痩せる*。今のところ輪作(大豆、とうもろこし、牧草)と不耕起農法**(根と刈り取った残渣を畑に残す)で切り抜けている。農牧一体化による準循環型事業なら日本でも実行可能な気がする。汚水処理の残渣を肥料として再利用できるようになれば循環型農業にさらに近づく。
*Globe+ World  Now の西村宏治記者のマト・グロッソ、パンタナルの現況記事「土は疲れる」2019.5
**先住民の伝統的栽培法。故福岡正信先生は不耕起農法の先駆者として世界で評価されている。
作物の根が浅く、ほぼ剝き出しの乾燥しやすい農地となれば壊滅的な大干ばつ 、大火災も覚悟しなければならない。セラードを水源とするパンタナルの水路に2019年から異常が観られる。水位が下がって分断された川で魚を食べつくしたワニが餓死している。水位が下がったため水上交通が途切れがちである。
また干ばつ(2020.11~2021.3は雨季も少雨だった)のせいでパンタナルで山火事が多発した。アマゾン熱帯雨林の南半分の森林が牧草地、大豆畑として開発された結果、気候変動が起きていると考える専門家もいる。
そのアマゾンでもマナウス港で「過去120年で最低の水位を記録、干ばつ広がる」のニュースが連日報道されている。川船が動けなくなり、住民の生活が脅かされている。これはエルニーニョ現象と気候変動が重なったせいだと気象学者は言っている。
このままアマゾンの森林破壊が進めば、早晩、地球温暖化の昂進、海流・気流の激変が起きることに異存がある人はいないだろう。アマゾンは「地球の肺」という警句を肝に銘じておきたい。
*Globe+ World  Nowの岡田玄記者のマト・グロッソ、パンタナルの水涸れ、干上がりに関する記事  2021.10
セラードでは500ヘクタール(町歩)の規模では採算がとれないという。個人農はどこへ向かうのだろうか?  都会へ、それともさらに奥地へ(さらなる違法伐採の道筋) 
保護区の少数になったインディジェナはどうなる?  いろいろ考えさせられる映像である。

WWFホームページには、巨大ハーヴェスターが横一列にならんで威容を誇っている映像(転載不許可)がある。それと上掲写真を見比べると、大農場の海に浮かぶ孤島のような半焼けの植生保護区が、横一列に並んで一斉に収穫する多数のハーヴェスターの効率的な作業にとって邪魔だということが良くわかる。空撮の意図もそこにあったと思われる。