徒然なるまままに

展覧会の感想や旅先のことを書いてます。

平山郁夫 祈りの旅路 @東京国立近代美術館

2007-09-27 | 絵画
平山郁夫 祈りの旅路
Ikuo Hirayama: A Retrospective ― Pilgrimage for Peace
2007年9月7日から10月21日
(展示替えあり、前期展示のみの作品は9月24日まで、後期展示のみの作品は9月26日から、例外あり)
東京国立近代美術館

77歳の喜寿、画業60年を記念し、平山郁夫氏(1930年生まれ)の代表作を一堂に集めた展覧会が開催されている。シルクロードの作品については何度か拝見しているので、この展覧会を訪れるか少し迷っていた。しかし、訪問してみれば、今年一番感動的だった日本画展だったといっても過言ではない。

展覧会は4章から構成される。

第1章 仏陀への憧憬
このパートが圧巻。シルクロードに到達する前の平山郁夫氏の世界。濃色の象徴的な表現によって成り立つ画面は、深い精神性に満ちている。息を呑むような静謐さが会場を包む。円熟した宗教的な作品に、これが30歳のときの作品かと制作年を確認してしまう。

1959年に第44回再興院展にて《仏教伝来》(佐久市立近代美術館所蔵)を発表して以来、1960年代にかけて平山郁夫氏は仏陀の生涯をテーマに多くの作品を描いたという。年表を確認すると、平山郁夫氏は、広島の爆心地から3キロのところで被爆。周りにいた友を皆失う。そして、1958年ごろから被爆による不調をかかえる。それが転機となったのだろう。仏教を主題とした絵画を描き始めた。

第2章 玄奘三蔵の道と仏教東漸

シルクロードの作品は一寸型にはまった感もあるが、平山郁夫氏の制作の背景を知り、シルクロードの作品を拝見すると、シルクロードという甘美な響きだけではない求道者の作品もある。《敦煌鳴沙 》《敦煌三危》では、緑の多い砂漠のオアシス、でも埋もれてしまった敦煌、歴史に思いを馳せた風景が描かれていた。2000年に完成させた薬師寺の玄奘三蔵院伽藍の大唐西域壁画の縮小版《大唐西域画》が一連の画面が見渡すように展示されている。

  • 敦煌鳴沙 1985 紙本彩色 屏風、4曲1隻 箱根・芦ノ湖 成川美術館
  • 敦煌三危 1985 紙本彩色 屏風、4曲1隻 箱根・芦ノ湖 成川美術館
  • 大唐西域画 2007 佐川美術館

    第3章 シルクロード

    シルクロードの作品がさらに3章では続く。ここでは中亜の世界が描かれていた。見る側に異国情緒が伝わってくる。《中亜熱閙図》のアラビアの市場の人々、思わず心の中で「異邦人」を口ずさんでいる。《波斯黄堂旧址》に描かれたペルセポリスの遺跡、一度訪れてみたい。《鄯善国妃子(楼蘭の王女)》は、まだ訪れたことのない楼蘭を想像して描いた作品。その十年後に楼蘭をようやく訪問後に描いたのが《楼蘭の遺跡・昼》。その画面からは、漸く訪問できた楼蘭を写し取ろうかというリアルさが伝わってくる。

  • 中亜熱閙図 1971 紙本彩色 屏風、6曲1隻 駒形十吉記念美術館;
  • 波斯黄堂旧址 1974 紙本彩色 屏風、6曲1隻 広島県立美術館;
  • 鄯善国妃子(楼蘭の王女) 1976 紙本彩色 額 箱根・芦ノ湖 成川美術館
  • 楼蘭の遺跡・昼 1990 紙本彩色 額(パネル4枚組) 愛知県美術館;

    第4章 平和への祈り

    第4章は平和への祈り。《広島生変図》。50歳を目前にして描いている。描いておかねばと筆をとったのだろう。その決意を慮るだけで涙腺が緩む。その決意と比して、漫然と過ごしている自分を反省。《広島生変図》の表現はあくまでも控えめで、真摯な平和への祈りが伝わってくる。もう一点、直接的に平和への祈りを描いたのが《平和の祈り-サラエボ戦跡》。瓦礫の前で平和を祈る家族が描かれる。

  • 広島生変図 1979 紙本彩色 屏風、6曲1隻 広島県立美術館;
  • 平和の祈り-サラエボ戦跡 1996 紙本彩色 額(パネル4枚組) 佐川美術館;

    最後に日本の風土を題材にした作品が何点か並ぶ。何点も素晴らしい作品があったが、その中でも《熊野路 古道》は、今回の展覧会で、純粋に作品として感動を呼んだ一点。画面の前に立つと静寂な風景が迫ってきる。これも祈りの道。平山郁夫氏の筆が冴えるのも当然か。

  • 熊野路 古道 1991 紙本彩色 額(パネル4枚組) 早稲田大学図書館
  • 月華厳島 1993 紙本彩色 額(パネル4枚組)
  • 平成の洛中洛外図 2003 紙本彩色 額(パネル4枚組) 平山郁夫シルクロード美術館
  • 平成洛中洛外図 2004 紙本彩色  額(パネル4枚組) 平山郁夫シルクロード美術館

    本当は、展覧会場にあった言葉を引用したいが、メモしてこなかったので、WEBにあった解説を引用しておきたい。「平山郁夫のこうした旺盛な制作活動の根底には、被爆者としての原体験を通じた、生きることへの深い問いかけ、そこからくる平和への祈りがある。この画家の芸術の奥底に流れる生への強い思いと、半世紀以上にわたる制作活動において表現しようとしたものに、私たちは改めて気付かされる。」

    P.S. 再興院展への出品作品には画面に日付を入れてあったが、メモまではしてきませんでした。
    (23日)

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