新幹線そっくりのカッコイイ幼稚園バスが近づいて来た途端、大きな声で泣き始める可愛い制服姿の男の子。
ママに抱っこされ、その小さな腕をママの首にしっかりぎゅうっと絡ませ、必死にしがみつきながら。
今週に入ってから毎朝、駅に向かう途中で見かけるこの光景に、思わず微笑がこぼれてしまう。
あぁ、新学期なんだなぁ…。
そういえば私の記憶にも、幼稚園に向かうバスの後部座席の窓ガラスの向こうで次第に遠く小さくなってゆく母の姿を、とても悲しく心細い気持ちで見つめ続けた光景が、妙にはっきりと残っている。
私の場合は普通の路線バスだったから、周りの大人たちの視線が気になって泣くに泣けず、一生懸命我慢した覚えがあるけれど。
今や幼稚園バスが当たり前らしい。
社会環境が昔とは変わってしまった今、それも無理からぬことなんだろうなぁ。
優しい先生が笑顔で迎えに来てくれるし、他のお友達も一緒だし、誘拐や事故の心配もなく安心して登園出来る上、親御さんも楽だし。
けれど、路線バスでの通園というもなかなか良い体験だったな、と思う。
大好きな母と離れる淋しさと引き換えに、お気に入りのパスケースに入った定期券をバスの運転手さんに見せるという行為の、ちょっとオトナになったような誇らしい気持ち。
同乗した知らないおじさんやおばさんとお話したり、偉いね、と誉められたり。
そうした外の世界との直接的な交流が、それまで家庭しか知らなかった子どもの心に小さな社会性の芽生えを与え、自信にも繋がって、意外に短期間で気持ちを変えてくれたのではないかと思う。
子どもは日々逞しく成長してゆく。
ママと離れる辛さに、まるでこの世の終わりが来たかのように激しく泣き叫んでいる子も、じき笑顔で自ら園バスに乗り込むようになる。
それまで自分中心だった家庭での狭い世界から、他人との係わり合いの広い世界へ。その中で自分という存在を改めて見つめ、友達との遊びや喧嘩からいろんな事を学びとってゆくのだ。
そんな純粋でひたむきな子どもの姿を見ると、その健気さと強さにいつも胸がジーンと熱くなる。
名前も知らない大号泣のあの男の子の側をなにげない顔をして通り過ぎる度、心の中ではいつもエールを送っている。
頑張れ!
オネーサンはこれからも君の姿を見守っているよ。
元気な笑顔で颯爽と園バスに乗り込むキミの姿に出会えることを秘かな楽しみにして。